気付いたら婚約破棄をしていた
思いついたはやりものです。
「ロザリー・ベルレアン公爵令嬢、お前の悪行は全て白日の下にさらされた。
よって、おまえとの婚約を破棄する!」
広間の階段の途中から高らかに婚約破棄を宣言する。
次の瞬間、
スパーン!!
小気味のいい音が鳴り響き、婚約破棄を宣言した王子レオポルドが張り倒される。
あまりにも綺麗に入ったためか、はたまた階段の途中に足をかけたバランスの悪い体勢だった為か、王子はもんどりうって階段から落ちる。
ガガガガガ、ゴツン!!!
階段を転げ落ちたはずみで頭を階段の支柱にぶつける。
その時、記憶がよみがえってきた。
(いててて、ロザリーめ。何という無礼な、王子を何だと思っているのか。
ん?ロザリー・ベルレアン?どこかで聞いたことがあるような?)
混濁する頭で必死で考える。
(確か、姉がやっていたゲームにそんな名前のライバルが・・・。)
見覚えのない風景と人の顔、それと今見える景色が交差する。
(確か、雪の日アパートの階段で頭をうって・・・それからどうなったっけ?)
「聡ぃ。コンビニでポカリ買ってきて。」
こたつに入ったまま、2つ年上の姉が俺に言う。
「えー。姉ちゃん自分で行きなよ。俺寒いの苦手なんだよ。」
「今いい所なんだから・・・よっしゃー!5又完成!後は糾弾イベントをこなして王子と・・・ぐひひひひひ。」
姉は世間で言う乙女ゲーム“大空の縁”の愛好者で、この手のゲームをやり込んでいた。
「くくくくく、ロザリー・ベルレアンに関してはいろいろ罪を被せたのが良かったんだねぇ。」
驚くべきことに、この手のゲームにしては主人公の取る手段がいろいろ用意されており、清廉潔白な方法もあれば悪逆非道な方法も取れることが売りで人気を博していた。
尻軽女さながら攻略対象全てと結ばれることも可能なのだ。
「聡、ほら肉まん買ってきていいから早く早く。」
「ちぇ、しかたねぇな。」
俺はこたつの上に置かれた財布から千円札を2枚取るとコンビニに向かうべく外へ出る。
外は一面の銀世界であった。
(うわー。寒いと思ったら、結構積もってるな。)
アパートの階段から見える雪景色を横目に下りて行く。
ズル
よそ見をしていた為か、雪が積もっていた為か階段を踏み外した。
ドドドドドドドドド、ゴン!
(いてててて。頭がくらくらする。)
すぐに立ち上がるが、頭を打った衝撃でバランスを崩し倒れ込む。
その上を屋根からの雪が大量に落ちてきた。
(屋根から雪が落ちてきて・・・それが最後の記憶か享年15歳短い生涯だった。・・・という事は凍死か?)
今となっては確認する手段はない。
(とりあえず現状を確認する。)
記憶にある登場人物から考えるに乙女ゲーム“大空の縁”の世界の様だ。
今まさに糾弾にベントの真っ最中であり、俺はこの国の王子、攻略対象者のレオポルドであるということが判る。
そして、その王子たる俺を張り倒したロザリー・ベルレアン公爵令嬢、美人で成績優秀であるが性格がきつい。
そして乙女ゲームの主人公、コゼット・オーランシュ男爵令嬢。
俺は彼女達と共に入場していた。
彼女たちと言うのはコゼットの他に、彼女の義理の妹、10才のセシリア・オーランシュ男爵令嬢、取り巻きのベルレアン公爵の子息リシャール、ビニスティ伯爵の子息セザール、ベタンクール男爵の子息フェリクスとジョエル、騎士見習いアルベール・ブノワの五人である。
(・・・あれ?確か糾弾イベントでは攻略した相手と一緒にパーティに出られるのだったか・・・。)
記憶にある乙女ゲームの糾弾イベントは(姉がやっているのを横で見せつけられていた。)は攻略できたかの確認でもあったのだ。
てことは、この女、6又、尻軽女か!!
記憶にある、このビッチの行動を思い出す。
(そう言えば、フェリクスやジョエルと腕を組んでいたり、セザールと部屋から出てきたとき服が乱れていたり、リシャールと朝帰りもあったか・・・その時は気のせいだと思っていたが何とお目出度いんだこの頭は。)
・・・・・・・・・
不味い!!このままだとこのビッチを娶ることになる!
ロザリーとよりを戻そうにも婚約破棄を宣言してしまったし・・・。
さてどうしたものか・・・。
かといって、オーランシュ男爵は名うての剣豪であり国防の要の人物である。
その令嬢をないがしろにすると別の問題が発生するだろう。
ふとビッチに目をやると、ビッチの義理の妹のセシリアが心配そうに見ている。
確か大人しい少女でいじめを受けており、これを保護することでリシャールの攻略が可能になると姉が言っていたな。
(よし!)
俺は一計を案じる。
「では、あなたはそこのコゼット・オーランシュ男爵令嬢を選ぶというのですね。」
目に涙をためたロザリーが俺に詰め寄る。
無理もない、共に入場してきたのがコゼットだから彼女を選んだと周りの人々も思っていた。
「ふん!コゼットの様な尻軽女はこちらから願い下げだ!!」
「な!」
驚き目をむくコゼット。
「私が何も知らないと思っていたのか。」
俺はコゼットの悪行も糾弾する。
「フェリクスやジョエル、セザール、リシャールと関係を知らないとでも?」
「そ、それは・・・。」
言い淀むコゼット。まさか自分が糾弾されるとは思ってもいなかったようだ。
周りに当の本人がいる為、うっかりしたことも言えない。
「まあいい。それは当事者同士の問題だ。私には関係のない話だ。」
この後、彼らがどうなるか、俺の感知することではない。
なるようにしかならないだろう。
「では、一体誰を???」
俺はため息をつきながら言う
「共に入場してきた令嬢は他にもいるだろう。」
「・・・・・え?」
「私は、このセシリア・オーランシュ男爵令嬢を新たな婚約者に選ぶ。」
「「「「「ええええええええええ!!!!!!」」」」」
その後のことは詳しく覚えていない。
辺りは阿鼻叫喚の悲鳴や怒号、俺に詰め寄るコゼットの叫び声。
セシリアの驚く顔。
まぁ、苦肉の策だったのだが思いの他、うまくいった。
父である現国王、トリスタン三世には
「ロザリーは性格がきつすぎるし、コゼットは王妃に不適格である。
それならオーランシュ男爵の顔を立てる上でもセシリア令嬢を教育した方が良いでしょう。
10才ならばまだ教育に間に合う年齢ですし、何より彼女は大人しいたおやかな性格です。
きっと、王を立てる立派な王妃になってくれると確信しています。」
と言い切った。
「ふむ。なるほど、そなたの考えはよくわかった。」
王は目を閉じ、いろいろ考えている様だ。
そして
「では、王子の新たな婚約者はセシリア・オーランシュ男爵令嬢とし、彼女には王妃としての教育を受けてもらう。そのように手配いたせ!」
「はっ!」
王命をうけ人々が命令を実行すべく退出する。
ついには王と二人きりになって
「王子よ・・・。」
「はい」
「好みの王妃を育てる。それもまたロマンよな。」
そう言うと王はニャリと笑った。