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八十四 殺し、殺され

たくさんのお気に入りと、ポイント評価ありがとうございました!

幸いな事に次の目的地まで何の襲撃もなく到着し宿に入った。

追加報酬とは別に、今回の盗賊撃退の労いとして、ちょっと良い部屋を用意して貰えた。

こうして相手にも得を取らせる手腕が、ホッグスさんの成功している秘訣の一つなのだろう。


最終目的地はデュベル侯爵領、領主館所在地のカルイーラという街だ。

子供の頃に仕留めた特殊個体のミノタウロスを持ち込んだ街もカルイーラだった。

その隣に位置するこの街も規模としてはなかなか大きく、各施設は良い設備が整っている。


つまり何が言いたいかといえば、ちょっと良い部屋には、シャワールームが付いているのだ!

夏場で暑い中の野宿や戦闘──そりゃ風呂の一つにでも浸かりたくなるってものだ。

魔法で空調を効かせていただろう、とかそんな意見はしらない。


と言うわけで早速、学校のシャワールームでしているのと同じように、大きなお湯の球を作り出して入り込む。


「くうぅぅ〜……!染み渡りますなぁ!」


野宿中でも布で身体は拭いていたけれど、この疲れがじんわりと抜けていく感覚は格別よ、やっぱりお風呂は最高だ。

風呂とシャワーと清拭(せいしき)には超えられない壁があるねぇ!


「……あ。そう言えば……」


いつだったか、グレンも水球風呂に入れてあげるって話をしてたっけ。

いつもは学業の隙間の時間で依頼をしていて野宿なんてしなかったし、今回は他の人の目もあったから、水球風呂に入れてあげる機会がなかったんだよね。

丁度良い機会だから入らせてあげようかな?


よし、思い立ったが吉日だ!

しっかりと暖まってから水球を解除すると、魔法で手早く身体を乾かしていく。

そして寝間着を身に付けて剣の手入れをしているグレンの元に急いだ。


「グレン!朗報だよ!」

「お、おう……なんだ、藪から棒にどうした?」

「お風呂!入る!?」

「うお、なんだ珍しくテンションたけぇな、って風呂?」


グレンは要領を得ない顔をして首を傾げた。


「そう!前にさ、お湯で球を作って簡易的なお風呂に入ってるって言ったでしょ?」

「寮でいつもやってるって奴な。それが……あぁ」


自分で話している途中で得心がいったらしく、胸の前でポンと一つ手を叩いた。


「そうそれ!今だったら試せるからさ、入ってみない?」

「マジか。風呂に入りたいと思ってたんだよ、是非頼むわ」

「そうこなくっちゃ!」


僕はノリが良い子は好きだよ!

そんな事を思っていたら、グレンがふと何かを思い出した顔をした。

何やらちょっと意地の悪い笑顔をしている。


「あ、そう言えば、あん時って確か入れさせて下さいって土下座しろとか言ってたっけなぁ」

「ん?そんな事言ったっけ?」

「おう、言ってた」

「ふーん、そうだっけ。まぁ冗談だろうし、そんなの別にいいよ」

「えぇー……?」


え、何?したかったのかな、土下座。

まぁでも、もう良いって言っちゃってるから却下だね。面倒だし。


「って事で、さっさと入った入った!

身体を洗い終わったら教えてね。その間に髪の毛を乾かしてるから」

「あ、あぁ。まぁ準備出来たら呼ぶわ」


彼を見送った後、髪の毛を乾かしていたら途中で呼ばれてしまった。

髪の毛が長いから時間が掛かりすぎなのか、グレンが身体を洗うのが早いのか、疑問になるところだ。


「ごめん、ちょっと待たせた。髪の毛が中々乾かなくて」

「いや、俺が身体を洗うのが雑なのかもしれん」


どうやら似たような事を考えていたらしい。


グレンは腰に布を巻いて待っていた。

ちょっと前まではお互い全裸でお風呂に入っていたのになぁ、これが思春期ってやつか。

確かに最近は身体付きがかなり大人びてきたかもしれない。

前々から筋肉はあったけれど、そういうのとは違った体型の変化だ。


……って、この中なんか随分あっついなぁ。湿気のせいかな。


逆に僕は薄っぺらい身体にちょっとずつ脂肪が乗ってきた。

ちゃんと鍛えてはいるし、筋肉量もあるけれど、触ってみるとやっぱり柔らかいのだ。

うーん、高等部になるまでバレないように気を付けなくちゃ。


「じゃあ、水球を出すから下がって」


魔力で水を作り出し、同時に温めていく。

グレン一人が余裕で入るくらいの大きさにしたら中に飛び込んで貰う。


「うお、何だこれ。なんか普通の風呂とは感覚が違うな」

「うーん、自然に浮くように調節してるしね。

ちょっと自分の時とは感覚が違うけれど……でも大丈夫そうかな。

力を抜いて横になっても平気だよ」

「マジか!?マジだ!?何だこれ!?

うははは、普通の風呂より気持ちいいな!」


凄いテンションの高さだ。何もしなくても水に浮く感覚は新鮮なのだろう。

でも今思ったのだけれど、これ人が入っている間は、ずっと側で微調整をする必要がある。

この魔法処理能力への負荷は魔力空調の比ではない。

おぉ閃いた……新しい魔法の練習を思い付いてしまったかもしれない。


なんておかしな事を考えているうちに、奇妙なお風呂タイムは終わった。


「うへぇ、さっぱりしたわー。ミアン、助かったぜ」

「あはは、昼間、死ぬほど汗をかいてたもんね」

「おう、こりゃ気持ち良く眠れそうだ。ありがとな」

「どういたしまして」


「……ね、グレン」

「ん?」

「今日、一緒に寝ていいかな」

「……あぁ」


自分のベッドから枕だけを持ってグレンのベッドに入る。

ちょっと狭いけれど……悲しいかな、僕は小さいから何とかなる。


「……」

「……」


「今日さ、正直本当に死ぬかもって、思ったんだ」

「あぁ」

「自分は誰かを殺しておいて身勝手だって分かっているけれど凄く怖かった」

「そうだな」

「覚悟はしていたつもりなのに、震えが止まらなくてさ」

「あぁ」


演習ではなく、僕を本気で殺す気で掛かってきた魔物も、人もいた。

でも、本気で死ぬかもしれないって思ったのは今日が初めてだった。


本当に情けない話だ。だから、気を張って何でもない振りを続けていた。

なのにちょっと気が抜けたらこの様だ。


「ありがと、ちょっと落ち着いたよ」


そう言ってベッドから抜け出そうとすると、逆にグイッと引き寄せられた。

僕はすっぽりとグレンの腕の中に収まった。


「冒険者、辞めるか?」

「……ううん、辞めない」

「そうか」

「うん」


「……」

「……」


「俺も今日、怖かったんだ」

「……え?」

「初めて、目の前で大切な奴が死ぬかもしれないって、思った」

「あ」

「生きていて、良かった」

「ん……ありがとう」


「冒険者、辞める?」

「……辞めねぇ」

「そっか」

「あぁ」


おやすみ、グレン。

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