八十二 接敵
数百メートル先で監視されている以上、その場所に向かうまでにどうしても時間が掛かってしまう。
こっちを見ている人間も監視している場所がバレていて自分に向かってきたと分かれば仲間と合流しようとするだろう。
「皆さん、牛さんの目を塞いでこちらに背を向けておいて下さい」
それぞれが指示に従ったのを確認して魔法を発動した。
強力な閃光が辺りを照らす……とは言え、ただ周りに閃光を発するだけの単純な魔法だ。
しかし、望遠鏡であれ、魔法であれ、視力を強化している人間が直視をすれば暫く目は使い物にならないだろう。
また、もしもこれが防がれた場合は警戒度合いが一段階上がる。
「ん、効いたみたい!行こう!」
「おう」
「うおぉぉおぉ、目、目がぁぁぁ」
ジャックさんがこちらをチラ見していたらしく悶えていた……流石に面倒は見切れない。
それに普通に直視しただけなら、ちょっと経てば問題なく見えるようになるし。
「人相手は久し振りだな」
「ちょっと憂鬱かなぁ……出来れば人とは戦いたくないや」
「分かるが、でも」
「ん、大丈夫。躊躇はしないから」
森に入り木々の間を縫って進むと、木の枝から落ちたのであろう監視役の男が片目を抑えて蹲っていた。
グレンは男の背後に回り素早く拘束すると剣を首筋に当てた。
「暴れたり大声を出せば殺す。お前らの目的はなんだ」
「ヒッ!?あ、あの行商人の積荷を狙、ぁって、ま、ました」
「そうか。全部で何人いる?」
「さっ、三十二人です。な、なぁ、殺さ、殺さねぇでくれェ!」
「ミアン」
「ん」
「あガぁッ!?」
男の頭に手を乗せて電撃を流し込んだ。
と言っても、暴れられてもいないし抵抗の意思もなさそうだから気絶をさせただけだ。
少し強めに掛けたから一日は目を覚まさないと思うけれど……首から下は土に埋めておこう。
「穴を掘るのも一瞬だし、効率的なのは分かるが、見た目がな」
「生首が生えてるように見えるけど、死ぬよりはマシでしょ、多分」
魔物も近くにはいないみたいだから大丈夫だろう。
ここから少し離れた場所にいたもう一人の監視役、及びその連絡役に奇襲をかけて無力化した。今のところは順調だ。
「さて、次はどうだ?」
「挟み撃ちを狙ってるみたいだね。
ここから少し行ったところに十、更に奥に二十、くらいかな」
「大体情報の通りな。後は気付かれる前にどれだけ倒せるか」
連絡役が戻ってこない、馬車がいつまでも通らないとなれば、いずれは気付かれる。
少し経てば少数で様子を見に来ると思うからもう何人かを脱落させる事が出来そうだけれど……変に警戒される前に叩くべきかな?
「先を急ぐ?少し待つ?」
「んー……いや、さっさと行こうぜ」
「うぃ」
速度を出すより気配を消す事に集中して移動していると、一人だけ集団からフラフラと離れて茂みに入った。
グレンとアイコンタクトを取り、音を消して背後に回り、空気の刃で首を搔き切る。
相手の数と距離を考えればもう手加減だとか戦闘不能にするだとか考えてはいられない。
男が倒れ込む音すら魔法で消して、万全を期す、が──。
「テメェら、敵がいるぞ!迎え撃て!」
勘がいい奴がいるらしい。
「ミアン、背中は任せた」
「任された」
グレンが剣を構えると風を置き去りにして駆けていく。
僕は気配を消したまま木の上に飛び乗ると、敵全体を見渡した。
剣か短剣持ちが六、弓持ちが二……更に魔道士っぽいのが一。
「な、なんだ、こァ"ッ!?」
グレンは手近にいた剣持ち、弓持ち一人ずつを瞬く間に切り倒す。
「チッ!油断しやがって馬鹿が!」
奥にいる剣持ちがこの班のリーダー格か……構えにも隙がなく、周りの警戒も怠っていない。
この距離なら電撃が適当だろう。即死もしくは気絶を狙えて魔法に抵抗されても行動を強制的に止める事が出来るのは便利だ。
強烈な閃光と共に大気が叫び声を上げたかの様な破裂音が響き渡った。
「ア"ッッッッ!?!?」
先ずは魔道士から潰させて貰う。他の雑兵はグレン一人でも大丈夫そうだし。
致命傷を受け肉の焼ける嫌な臭いと共に魔道士だった男が倒れた。
特に障壁を張っている様子はなく魔法抵抗も高いわけではなかったようだ。
「ッ、何処かにもう一人いるぞ!」
「馬鹿野郎、木の上だ!」
む、もうバレた。本当に目敏いな、あの人……仕方がない、地面に降りよう。
「あんなガキが……」
「──糞ムカつくが、テメェら、撤退だ。先に戻れ」
「で、でもよぉ」
「あ"ぁ"……?何度も言わせんな、行け」
男の眼光は鋭く威圧を掛けられた手下達は走り去っていく。
あの人がこの盗賊団のボス、なのかな?
「命を懸けて手下を守るのか。殊勝な心掛けだな」
「あ?別に命なんて懸けるつもりねぇが?」
「へぇ、大した自信だ、なッ!」
グレンが盗賊のリーダー格に爆発的な踏み込みで袈裟懸けに切り掛かる……が、危なげなく受け止められた。
「糞生意気な糞餓鬼め……!」
鍔迫り合いでグレンが押し切れないのか。
成長期に入って最近は特に膂力の成長が著しく、教師相手でも正面から捩じ伏せるのに。
それに奴さん、打ち合いながらも僕との間にグレンを置いて、魔法の射線も塞いでいる。
「でも、それで魔法を封じたつもり?」
グレンが前衛である以上は射線を塞ぐにも限界がある。
一足飛びに敵の斜め後方へ回り込み、魔法の照準を付け、雷撃を放
ッ!?
瞬間、視界の端で闇色が一条の線を描き、僕の首筋に真っ直ぐ──。




