八十一 やっぱり順風満帆とはいかないようで
目的地である街までの道程も残り僅かとなった。
何度か魔物と遭遇したのと、ジャックさんがずっと不貞腐れている事以外、特に問題もなかったのだけれども……。
ついてない、と心の中でひっそりと溜め息を吐いた。
広範囲に展開している探知魔法に反応、しかも、数は三十を超える。
規則性を感じる布陣、そして反応の大きさを考えれば、ほぼ間違いなく人間だ。
恐らく、何処かの野営地か町で目を付けられたのだろう。
ここは例の森に面している街道で、良からぬ事を考える者にとって身を隠す場所に困らない。
手信号でグレンに敵の存在を報せ、御者台まで戻ってホッグスさんに状況を耳打ちする。
馬車の移動速度は牽いている牛や荷物の関係でそこまでの速さは出ない。振り切る事は……無理だろう。
「それ、本当かい?確かに最近、この辺りに盗賊が出るって噂はあったが」
「まず間違いなく。他に旅人や馬車の気配もありません」
「そうか。俺にはまだ何も感じ取れんな……が、経験上、こういう忠告は聞いておくに越した事はない」
待ち伏せをされている以上、このまま進めば相手の思う壺だ。
ここから先は森に沿って道が緩やかに左曲がりになっている。
今でこそ右手は穏やかな草原が広がっているが、カーブの先では徐々に傾斜が付き、反応が集中しているのはその辺りだ。
大きな馬車が擦れ違えるだけの道幅はあれどUターンをするには時間が掛かるし、奇襲を受けて牛達が暴走をしたら堪ったものではない。
傾斜を転がり落ちて足を失い、完全に身動きが取れなくなってしまう。
取り敢えず、一度馬車を停めて貰って作戦を立てなければ。
対策はいくつか考えられるけれど、さて、どうするのが良いか。
まず最も大事なのは雇い主であるホッグスさんの意思なのだけれども……。
「さて、それぞれ意見を求めたい。
俺個人としては近場の町まで引き返してギルドに助力を仰ぐのが良いと思っている。
日程が大きくずれ込むのも出費も痛いが、我々の身の安全には変えられん」
ホッグスさんはとても冷静で、現実的な提案をしている。
力量の分からない相手が多数。
しかもこっちはホッグスさん、ジャックさん、僕ら二人にもう一つの馬車を操っている非戦闘員の御者が一人。
どう考えても多勢に無勢だ。
「つかそもそも、ほんとに賊なんていんのかよ?
そんな遠くの気配が分かるとかそんな魔法聞いた事ねーよ」
とジャックさんは言うが、この魔法自体は僕のオリジナルでも別の方法で遠くの探知が出来る冒険者は少ないながらいるらしいのだ。
技能を大っぴらに明かしたりしないからこう言った噂は少ないものの、よく調べてみれば情報は手に入る。
「俺はミアンみたいな器用な真似は出来ないですけど、今こっちを見ている監視役の気配は感じ取れますよ」
「はぁ?俺に分からないのに駆け出しのお前らが分かるもんか。
お前らの妄想に付き合って引き返すなんて冗談じゃない」
「ふーむ……」
困るのは困るけれど、ジャックさんに信用して貰えないのは、まぁ仕方のない部分もある。
駆け出しの子供がプロスポーツ選手並みのプレイをしますよ、なんて言っても実際に見てみなければ、納得は出来ないだろう。
ならば論より証拠、何か目に見える形で示した方が良いだろう。
「それなら、僕とグレンで見てきますか?」
「いや、三十はいるのだろう。二人で行くのは自殺行為ではないか?」
「ミアン、強いのはいるのか?」
「うん、やっぱり数が多いから……二、三人は」
実際のところ、全員を倒す必要もないし、多少強い反応はあれど僕とグレンで何とかなる筈だ。
ただ、何事にも絶対はない。相手を直接確認もせず多数相手に戦いを始めるのは避けた方が良さそうだと思ってはいる。
グレンは相も変わらず戦闘狂なところがあって、うずうずしているけれど……。
「ほら見ろ。三十いるのに二人で行く?賊なんて本当はいないんだろ」
「えぇと、そこは、結果を見て判断して貰うって事で」
「……仕方がないか。そうだね、でも無理はしないように。
いざとなったら撤退も視野に入れて行ってきてくれ」
「はい」
行く前に撤退の合図、更に万が一に備えて馬車に別働隊が来た場合の合図を決めておく。
後者は周りに敵影はなく、それこそ瞬間移動でもしない限りは、気付ける筈だ。
「よし、んじゃ行くか」
「うん」
それじゃ、まずは森に潜んでこちらを見張っている斥候から片付けようか。
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