七十八 疎遠になったりもする
「あ、ミアン」
休み時間、トイレから教室に戻る為にてってこと廊下を歩いていると、声を掛けられた。
振り返ると声で想像していた通りの人物、グラントが立っていた。
「一人でいるって珍しいじゃねぇか」
「あぁ、うん。トイレの帰り」
グラントも同年代として随分ガタイが良く、僕が横に並ぶと身長差で見上げるくらいだ。
グレン、ローセスも共に発育が良くて皆は恵まれているなぁと思う。
この世界の戦闘能力は魔法と、魔法による身体強化があるから単純な身体の大きさで決まりはしないが
近接戦闘においてはリーチの長さ、質量の大きさはやはり大事だ。
ちなみに、僕の独断と偏見によるイメージではあるけれど、それぞれの体格は
グレンはバレーボールの選手
ローセスは相撲取り
そしてグラントはラグビーの選手、と言ったところか。
尤も、皆はまだまだ成長途中なので本物と比べれば、かなりのミニチュアサイズではあるが。
「ところで、どうしたの?」
実はここ一、二年はグラントとは疎遠なのだ。
何かあったのかと言えば特別な出来事、決定的な仲違いがあった訳ではない。
遊びや鍛錬に誘っても断られる回数が増えていった。
徐々に顔を合わせる機会が減り、今では他の同級生とコミュニティを形成しているみたいだ。
まぁ、だからと言って仲が悪いのかと言えばそうではなく、こういう風にたまに話し掛けられたりもする。
理由は……これは僕の想像でしかないが、恐らくはグレンだろう。
グレンとグラントは体格が似ていて大きいから一緒に居ると良く比較をされる。
グラントの剣の腕はかなりのものだが、グレンは常識や規格の外だ。
そんなものと比べられて少しばかり居心地の悪さを感じていたのではないだろうか。
特に最近は、グレンといる時に声を掛けられた事、ないし。
「いや、これって用はないんだが、見かけたらからよ」
「そっか。……あ、そう言えば、もうすぐ期末考査だね」
中等部三年、Aクラスの皆との付き合いも四ヶ月目だ。
当たり前だけれど、クラスの顔も名前も全員ばっちりだし、関係も良好だ。
ただこれは問題、と言っていいのか、クラスではグレンとよく一緒にいるせいで、割とセット扱いされている。
「テストな、あんま考えたくねぇなぁ……」
なお、グラントは昔から変わらずあまり勉強は得意ではない模様。
うんざりとした表情で肩を落とした。
「あは。勉強は辛いよね」
「成績良いじゃねぇか、別に嫌いじゃないんだろ?」
「うーん……」
分からなかったものが、分かるようになった瞬間。
出来なかった事が、出来るようになった瞬間。
その時の達成感と開放感は筆舌に尽くしがたいと思う。
そう言った意味では難しい事に挑戦する……鍛錬や勉強は好きなのかもしれない。
だがしかし。
いつもトントン拍子で事が運ぶなんて中々ない。
適度に身体を絞り上げ、脳みそに汗を掻く、ならまだしも。
上手く前に進めず、水中を延々と踠き歩き続けている様な苦痛と苦悩。
それ【だけ】を楽しめるかと言えば、素直に首を縦に振れるほど、マゾではない。
そして、苦難は前に進み続けようとすれば、ままある。
──と言うことを延々と語っても彼からすれば鬱陶しいだけだろう。
なので、難しい問題で躓いたりしたらやっぱり勉強は嫌になる、と省略して伝えておく。
「ふーん、なんか、意外だな」
「えぇ?そうかなぁ?」
「勉強で困ってるトコとか見たことねぇし」
うんまぁ、前世の記憶を保持してるって、正直ズルだよね。
ただ、テストではケアレスミスや発想力を試される問題、たまーにある意地の悪い引っ掛け問題で間違えたりするので
実はファラにはテストの成績で負け越す事が多いのだ。
ほんとに、何なんだろう、あの子……。
「うーん、実は結構、悩みはあるんだよ」
「へぇ」
「あ、もしも勉強会とかをする時は声を掛けようか?」
「……いや、俺は」
「おい、グラント。お前何やってるんだ?」
彼が断りの言葉を喋っている途中で、他の男子生徒からグラントに声が掛かった。
そちらに目を向ければ、立っていたのは最近グラントとよく一緒にいるところを見掛ける子だった。
「いや、別に何もしてねぇけど?」
「あぁそう。今度の休みの話しようぜ、こっち来いよ」
「……あぁ。ミアン、じゃあな」
グラントは手を上げて軽く挨拶をすると彼の方へ歩いて行った。
まぁ、他の友人と勉強をするなら僕の出る幕もない。
ただ……。
なんか、彼の友人たちには、僕はあまり良く思われていないらしい。
彼らの視線からは若干、だが、敵意に近い視線を感じるのだ。
特に関わりになってもいないし、恨まれるような事をした覚えもないのだけれども。
まぁ、見た目なり挙動なりが彼らの何かに触れるのだろう。
皆と仲良くいられれば、とは思うが、会う人全てに気に入られるのはとても難しい。
こればかりは仕方がない、よね。




