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七十五 告白1


部屋の前でしっとりと濡れた髪の水気を、タオルを押し当てて吸い取りながら話す順序を考える。

何処から、どう話せば良いのか……なかなか難しい問題だった。


「うん、決めた」


口から小さな独り言を零してから意を決して扉を開く。

グレンは机の前で目を瞑り、腕組みをして座っていた。

考え事だろうか?奇しくも先ほどとは逆になったようだ。


「グレン」

「おう、おかえり」

「ただいま」


ぽすり、と軽い音を立ててベッドの縁に座った。

もう結構長い付き合いになるが、まだまだ元気に僕の身体を支えてくれている。


「聞いて欲しい事があるんだ」

「そうか……なんだ?って、あぁ、ちょっと待ってくれ」


グレンは椅子から立ち上がると、僕の隣に腰を下ろす。

木の軋む音がした辺り、流石に二人分の体重は重いのかな。


確かに隣り合って座った方が面と向かうより話しやすいかも。

あ、そう言えば僕が寝惚けて布団に潜り込む事はあってもグレンが僕のベッドに来るのは珍しいなぁ。

……なんて、変な事ばかり考える辺り、相当混乱しているらしい。


「えっと、その。あの、僕ね、あ、ううん──。

さ、前世の記憶があるんだ」

「ん……?ぜん、せ?」

「そう、前世」


突拍子も無い話だからグレンが呆けるのも仕方がないと思うが、この世界にもご多聞に漏れず、前世と言う概念がある。

ピンと来ないだけで意味は分かって貰える筈だ。


「前世って、あの前世か?」

「前世の概念は一つしか知らないけど、多分、その前世」

「それで、その記憶がある、か……なるほどなぁ」


グレンは腕組みをしながら頷いた。


「えっ」

「ん?」


そんな簡単に納得されても。何かもっとこう、あるでしょ?

頑張って前世の記憶を話して信じて貰う気満々だったのに……。

最悪、信じて貰えなくて狂人扱いされても仕方がないって、僕のさっきまでの悲壮な覚悟は何だったのか。


「その、信じて、くれるの?」

「改まって話をし始めて下らない嘘を吐いたりしないだろ。

ミアンの性格ならな」

「え、えぇー。嬉しいけれど、何だかなぁ」

「ほぉ、じゃあ疑って欲しいのか?」

「いやいやいや、滅相もない!」


僕がぶんぶんと首を横に振ると、グレンはにやにやしながら僕を見た。

揶揄われたらしい。


「しかし、ミアンが『俺』って……似合わねーなぁ。あははは」

「しょ、しょうがないでしょ!?生まれ変わる前みたいに話した方が、信憑性が出ると思ったんだよ!」

「ああ。そうそう、差し支えなきゃ、その前世の記憶ってのを聞いても良いか?

生まれはここか?別の国か?何やってたんだ?」


何やら好奇心で目をキラキラとさせている。

あぁ……そう言えば、こっちの方も信じ難いだろうなぁ。


「それが、この世界じゃないんだ。異世界、と言うか」

「異世界?」

「うん、僕の前世では魔法がなくてね──」


科学が発展していて、治安も良い国、日本。

正直なところ唐突に目の前が真っ白になったから、死んだ理由は全く分からないけれども。

きっと、仕事帰りで夜だったから視界が白くなったのは車のヘッドライトか何かだろう。

交通事故。死因としては一般的だ。


心残りの両親の事も、しっかりとした妹がいるから大丈夫だと思う。

孫の顔も妹が見せてくれたしね。

僕は……残念ながら仕事に熱中し過ぎてお付き合いをしている女性もいなかった。

突然死んでしまった事を考えれば、それも不幸中の幸いだったのかなと思う。


「──ごめんね」

「何がだ?」

「何って、グレンよりずっと年上の、おじさんだったんだよ?」

「あぁ、そこは分かった。で、何で謝るんだ?」

「ん?え?」


意外な言葉に思考が停止して、少しばかり首を傾げた。


「黙ってた、事?」

「別に言わなきゃならない事じゃないだろう。

むしろ、話してくれてありがとな」

「うん……ん?あれ?えっと、中身がおじさんだった事?」

「誰だって年は取るだろ。

それに、種族も違うし見た目と精神年齢が違うのは普通じゃねぇか」


ん、んんん?あれ、なんか、違う気がするんだけれども。

と言うか、精神年齢が全然違うはずなのに何で年下の男の子に論破されているんだろう?


「でも……」

「ま、謝りたくなる気分は分かるさ」

「うん」

「だからってお前はこれから関わる人全員に謝り続けるつもりかよ?

謝るってのは赦しを乞う事。

お前が生まれたのは悪か?違うだろ。

たまたま、何かの間違いで前世の記憶を持って生まれ変わっただけ。

それを受け入れられない奴は、確かに居るかもしれない。

でもそれは、仕方のない事だし、かと言ってミアンが悪い訳じゃない。

ああしろ、こうしろ、と言うつもりは無いが、悪くない事を謝られても困る」

「うん……そっか」


グレンの手が伸びきて、僕の髪を梳かす。


「なぁ、ミアン」

「ん?」

「──いや、なんでもねぇ。

まぁ、さっさと髪を乾かせよ。濡れたままは良くないんだろ?」

「あ、忘れてた」


濡れた髪は痛みやすいし、生乾きにすると雑菌が繁殖して洗った意味が薄くなるからね。

と言っても、既に大分乾き始めているけれども。

一旦話を止めて、髪を乾かす事にした。

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