六十八 幕間 グレンの心情
少し気分を変えてグレンの視点から
難産です……。
別に大した事じゃないんだが……いや、大した事か?
兎も角、付き合いの長い親友が、突然女子になった。
髪は月の様に金にも銀にも見えるような不思議な色、真紅の瞳、小さな体躯。
元から随分と可愛らしい容姿をしていたが、それでも紛れもなく男子だった。
まさか性別が変わるなどと夢にも思っていなかった。
ただ……ミアンの両親の不可解な行動に納得が行ったのも確かだ。
ミアンの父親であるジーア伯爵には度々ミアンを頼む、と言われていたし、奥方のソラス様もたまに少し心配そうな目で見ていた。
しっかり者なのに時々凄く天然を見せるミアンを、やや親馬鹿気味に心配しているのだと勘違いしていたが、ソラス様の手紙を見て理解した。
そりゃ後々性別が変わるであろう事が予見されているなら心配もする。
まぁしっかりしているし、何があっても笑顔で切り抜けるイメージしか、俺には持てないが。
大体からして、突然性別が変わるなどと言う、天と地がひっくり返るような出来事があったにも関わらず
「あは、困ったね。どうしようかな」
程度の認識だ。いくら戻れると分かっていても淡白過ぎる。
あまつさえ、大丈夫か?と言う俺の問いかけに対して、何が?と返す豪胆さ。
酷く狼狽する俺が可笑しいのかと思ってしまったくらいだ。
よく分からないところで落ち込んだりするくせに、今回の件は耳を見る限り全く気になっていないらしい。
まぁ、いくら気にしていないとは言え、下着選びに付き合わされたのには参った。
下着の必要性を諭されたミアンが、下着を選んでいる間、店の外に出ていようとする俺を見たのだ。
捨てられた子犬の様な目で見られたら外に行くとは言えなかった。
普段は超然とした様子だから尚更だった。
だが、その下着を着ける事があるのだと思うとどうも落ち着かない。
自分は男にも女にも興味がないとずっと思っていたのに、そうでもなかったらしい。
そんな動揺がミアンにも伝わったのだろう。
「気持ち悪かったら言ってくれ」なんて事を言わせてしまった。
気持ち悪いなんて一欠片たりとも思っていない。
男であった大切な相棒に、軽くとは言え劣情の類いを抱いてしまった、自分に愕然としたのだ。
だが、そんな事を正直に言うわけにはいかない。
口から出ない言葉をいくつか重ねた末に「もしもそう思ったら言う」とだけ返した。
そんな思いがあったからだろう。
ファラが「グレンに気を付けろ」とミアンに告げた時、思わず片眉が跳ねた。
それでもその程度の反応で済ませられた自分を褒めたいところだ。
見縊るなと思う。
親友であり、最高の相棒であるミアンの信頼を、裏切る真似などするわけがない。
その言葉に少し苛立つ気持ちと共に、何処か憎めない心持ちになった。
──ファラに対しては自分でもよく分からない感情を抱く事がある。
ある種の絶大なまでの信頼と、仄かな敵愾心。
そして、相手も同様な事を思っているだろうという思いもある。
……まぁ、そんな事はどうでもいい。
今は兎に角、変わってしまった相棒を支える事だけを考えよう。




