六十七 男はケダモノ
仲の良い友人を集めて校舎の陰に陣取ると、性別が変わってしまった事を伝えた。
見た目はそんなに変わらないし、年齢的にもまだ、柔軟に受け入れて貰える年……の筈だ。
放課後とあってグラウンドには沢山の人が居るが、魔法で音を遮断している為に、僕達の周りはシンと静まり返っている。
元々知っているグレンは腕組みをして涼しい顔をしていて、自力で気付いたネヴィスも得心した様だ。
しかし、クロードは考え事をする時の癖が出ていて、口と顎を覆うように手を当てているし、ローセスとオウルは驚いた様子でぽかんとした顔をしている。
そしてファラからは物凄い勢いで見られている。
もし、視線に力があるならば僕の身体は全身蜂の巣になっていただろう。
「え、えっと、困惑させて、ごめんね?」
背を伝う汗を感じながらも平静を装って謝った。
音を遮断するのに風の魔法を使っているからだろうか、変に空気が暑い気がする。
まだ風が吹けば冷たさを感じる季節の筈なのになぁ。
「じゃあ、ミアンは」
「う、うん」
「近いうちに女子寮に来るのかしら?」
あぁ、やっぱり男子生徒だと思っていた人間が女子寮に移るかもしれないと思うと、複雑なのかな。
いくら仲が良いと思っていたって、そこは男子と女子だ。特にファラは精神的に早熟だから仕方があるまい。
元々精緻に整っていた容貌は更に磨かれ、歳を重ねて思春期を迎えた身体は女性らしさを帯びてきている。
後五年もすれば、全ての男──いや、女性ですら一度は目を奪われるだろう。
「あ、そこは安心して欲しいな。
来年までは男で通すし、個室寮になっても男子寮に居るか──」
「ダメよ!」
「らって……ん?……なんて?」
「そんなのダメよ。男はケダモノなのよ」
お、おう。
それで言うなら僕も先日まで、ケダモノの一員だったわけなのだけれども。
まぁそれはそれとして、女子寮に移れない理由を説明しておこう。
「──なるほど。僕達に話したのは、個室寮に移るまでの間のフォローを頼みたいから、かな?」
ずっと話を聞きながら思案顔だったクロードも納得がいったのか顔を上げた。
「ううん。そういう側面があるのを否定するわけではないけれども。
僕はあまり隠し事って好きじゃないからさ」
「そっか。じゃあ、ありがとうって言うべきかな?」
クロードは首を傾げて爽やかな笑みを浮かべる。
どうやら問題なく受け入れて貰えたみたいだ。
まだまだ幼さが残るものの、クロードも大分男性らしさが出てきた。
言うまでもなく、正統派王子様タイプの彼はよくモテる。
「はぁ。まぁ、それじゃ仕方がない、か」
腕を組んで唸っていたファラも、何とか納得してくれた様で何よりだ。
「クロードもちゃんとフォローして上げてね」
「うん?もちろん、そのつもりだよ」
「ミアンが確りしているのは分かっているけれど、ちゃんと気を付けるのよ?……特にグレンには」
と、目線でグレンを示す。
「え、何でグレン?」
首を傾げてグレンを見ると、グレンも怪訝そうな顔でファラを見ていた。
女になってから知り合った相手、もしくはあまり親しくない相手だったならば、確かに注意が必要かと思う。
けれど、グレンは一番付き合いも深く、共に過ごした時間も長い親友だ。
同室で寝食を共にしているから僕が男である事も良く分かっている。
そりゃ部屋の中を素っ裸でウロウロするのは論外だとしても、普通に接する分には問題はあるまい。
見た目が男の時とほぼ変わらないから尚更だ。
「男だと思って接していても、女だと分かったら手の平を返すのが男なのよ」
「う、うーん。そんな事はないと思うけれども」
「……随分具体的だが、それは誰かから聞いたのか?」
グレンが呆れ半分でファラの話を促す。
「お母様が言っていたのよ!」
……カリーナ様。貴方はお嬢様にどんな教育をしているんですか……?
今からこんな調子だと結婚とか大丈夫なのだろうか。
まぁ、心を許せる許嫁でも居るなら別なんだろうけれども。
ファラは綺麗なのに浮いた話を聞かないなぁ、とは思っていた。
彼女自身が、ではなく、誰かに懸想されて告白されたっておかしくはない。
いくら公爵令嬢だとは言え、釣り合うだけの男が学園にいないわけではないのだから。
それに、そう言うのを抜きに想いを告げる男がいても良いと思っていたのだ。
もしかしたら、表面的には凄く話しやすくとも、恋慕の情を表に出す事を赦さない雰囲気を出しているのかもしれない。
「だから相手が誰であっても気を付けるのよ」
「あぁ、うん……そうだね。気を付けるよ」
凄く真剣な眼差しをするファラに対し、僕は苦笑交じりに返す事しか出来なかった。
此処までで現在のストックはおしまいです。
明日以降は、書き上がり次第の更新になります!




