六十六 実際のところ
平民街の商店が立ち並ぶ一角の服屋に入ると、愛想と恰幅の良い、年嵩の女性が出迎えてくれた。
以前母様と一緒に学生服を買いに行った事のある複合商業施設は、普段着を買うにしては少し高い。
勿論、貴族ならば普通の値段だし一般の人だって少し稼ぎが良い人なら問題なく買える値段だが、僕は養って貰っている学生の身である。
幾らかの臨時収入があって懐事情に余裕はあるのものの、じゃあ贅を凝らして良いのかと言えばNOだ。
「あらま、可愛いお嬢ちゃんだこと。今日は何が入り用かね」
「こんにちは。ええと、何が、と言われると難しいのですが」
曖昧に苦笑する。服を一式、何セットか……って中々そんな人はいないだろうし。
別にこのお店で全てを揃える必要もないし、良さそうな服があれば買うで良いかな。
「ちょっと色々あって、普段着で使える物を何セットか欲しいのですが」
「そうなの?……少し良いかい」
そう言うと、女性は僕の肩や腰などに軽く触れ、着ている衣服を見詰める。
「ははぁ、中性的なデザインだけど、これ男の子用だねぇ。
ふんふん、なるほどなるほど」
更に僕と側に立っているグレンとを見比べて得心した様である。
「よし、お嬢ちゃんの為におばちゃん、可愛い服を見繕ってあげるからね!」
「え?いや、今の服と似た様なデザインで大丈夫です」
「何言ってるの、勇気出して来たんだから、ちゃんとしたの買わないと!」
「えぇ!?」
洋服屋のおばさん、何か勘違いしてる!?
おばさんはにこにことした笑顔のままガシリと僕の手を取る。
「似合う服持って来てあげるから、こっちで待ってて!」
「ちょ、ま、グレ、グレン!」
半ば引き摺られながらグレンに助けを求めるが、グレンは遠い目をして呟いた。
「そうなった年配の女性には、逆らってはいけない。許せミアン」
ちょ、何を悟っちゃってるのー!?
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着せ替え人形にさせられる事小一時間。
おばさんの言う可愛い服を3セット程購入した。
別に、買わされたわけじゃないし。
僕自身も可愛いかなって思ったし。
……はぁ。
細やかな抵抗として、最初に着た物と似たデザインの物も購入した。
と言うかばりばり女の子の格好で寮に帰る訳にはいかないからね。
それはそれとして、同じ様な格好なのにも関わらず、やはり着心地が大分違う。
ぱっと見では分かり辛くともそれだけ体型の変化があったのだろう。
男児用Sサイズを買うだけで、スリーサイズなんて測った事は無かったけれど、これからは定期的に測った方が良いのかな。
勿論、おばさんの勢いに押されて下着まで全て購入済み。
要らないと抗弁したのだが、女の子の下着の重要性を懇々と説かれたので致し方がない。
実際に着てみると、やはり着け心地は格段に違うものだった。
んー……僕にも来るのかなぁ、生理。……来るんだろうなぁ。
因みに下着選びの時はグレンも流石に抵抗があったようで、少し離れたところでそっぽを向いていた。
まぁ何であれ、色々と収穫のある時間だった。
帰りは日の傾きも大きくなり、空に深い青が混じり始めた頃だった。
二人で並んで歩いているとグレンがやや戸惑いがちに口を開いた。
「あのさ」
「ん?」
「下着を買うところとか、俺が一緒にいて良かったのか?」
十二歳と言えば、もう思春期に入った頃だ。
今回の買い物はやはり色々と複雑だったのだろうか。
「あ、うん。僕は平気だったけれども……嫌だった?」
「いや、俺は別に。ミアンが嫌じゃなかったかが気になってさ」
あぁ。確かに普通の女の子なら、同級生の男の子に下着を選んでいるところを見られるのは嫌かもしれないなぁ。
でも僕は普通の女の子ではないし、グレンなら気にならないから、それは杞憂と言うものだ。
それに、気になったとしても、一緒に寮生活をする上で下着を完全に隠すのは不可能だろう。
「見ず知らずの相手なら兎に角、グレンが相手なら平気だよ」
「そ、そうなのか」
「寧ろ、女性下着を着けてるところを見せちゃって、気持ち悪いなって思わせたらごめんね」
「そんな事は、ないと思うが……」
グレンは少し居た堪れなくなったのか、視線をふいと地面に移した。
こうして実際に生活を始めるとなるとグレンに随分と負担を掛ける。
無理だけはして貰いたくないなぁ。
「ね。もしも一緒に居るのがしんどくなったら、正直に言ってね。
その時はナトリィ先生に相談をして、部屋を変えて貰うから」
グレンは口を開こうとして少し考え、口を閉じると言う動作を何回か繰り返してから。
「あぁ、もしもそう思ったら、言うよ」
と答えた。




