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六十三 ギルド試験


僕の性別が変わった事は、基本的に伏せておくつもりではあるけれども、指導員であるクラフトさんとマイトさん。

それにギルドの職員には話を通しておかないと面倒がありそうだ。

ただ、人の多いギルドのロビーでする話ではないので、二人には後で説明をする事にした。


ギルドの試験は筆記と実技に分けられる。午前中は筆記試験、午後には実技試験が行われる。

筆記試験の内容はギルド規則からサバイバルと応急手当ての仕方、野草やら魔物の知識まで多岐に渡る。

ギルドでは一般にも無料でこの辺りの知識の講義を常に開いている。

入口は冒険者の利用するロビーとは別であるが、恐らく一般の人にもギルドへの敷居を下げ、親しみを持って貰う為ではないだろうか。

それにしたって良くこんな取り組みが出来るなぁと感心してしまう。


筆記試験では全問正解する必要もないが、あまりにあんまりな成績なら講義の受け直しだ。

僕やグレンは学校でも叩き込まれているし勉強も欠かしていないので筆記試験は問題はない。


そして午後になり、実技試験が開始された。試験場はかなり広い正方形の空間になっている。

壁には魔法障壁が貼られている為にちょっとやそっと暴れても問題はない。


「それでは一組目──始め!」


実技試験は実戦形式で行われる。

学園の試合とは違い、刃を潰してあるとはいえ、武具を使用するので気は抜けない。

ただ、対戦相手になる試験官はランク3程度の冒険者が務める。

ランクとしては駆け出しを抜けたくらいだが、大体の場合は受験者との実力に雲泥の差があるので怪我をする事はあまりない。

まぁ、学園の人間や独自に鍛錬を積んだ一部の人間は良い勝負になったりもするのだが、それはそれで初心者を卒業して増長した冒険者の鼻っ柱を叩き折るのに一役買っているのだろう。


「次の受験者……グレン!」

「はい」


だらりと下げた右手に片手剣を持ち、グレンが中央へ歩み出た。

対戦相手は年若い冒険者で可哀想なくらい萎縮してしまっている。

なんだかんだで有名人だからなぁ……。


監督官の始め、の合図と共にグレンが駆け出し、試験官が待ち受ける。

どうやらグレンは身体強化を使わないようだ。

年齢的に成長期にはまだ入っていないだろうに、膂力、反射神経、技術力共にちょっと頭がおかしい水準になっている。

身長もやや追い付いてきた─未だ二十センチメートルは差があるけれど──とは言え、百六十を超えているし。

いやはや。


対してランク3の冒険者は身体強化も使用しての本気モードである。

でも動揺で浮き足立っているから、実力は出し切れないだろうなぁ。


グレンの右下からの切り上げに対して慌てて剣を合わせる試験官。

剣を合わせる時は、グレンを圧倒する膂力か、技術力……もしくは同程度に双方を持ち合わせていないといけない。

身体強化を使用していない今なら膂力で勝る事は出来るが、それもランク3の年若い冒険者では難しい。

まるで自分で放り投げたかのように剣がクルリと回って空を舞い、試験官の喉元にピタリと切っ先が突き付けられた。


「ま、参りました……」


試験官の降参の声と同時に、周りから歓声と拍手が起こった。

今回の試験で初めて試験官を倒した男である。


次は僕の出番なので訓練場の真ん中へと進み出る。

同じ様に出て来た人物は、見知った冒険者だった。


「その節はお世話になりました」


深々と頭を下げたランク3の冒険者。

ひょんな所で知り合った彼女は、当時利き腕に酷い怪我を負っていた。


「あはは……相変わらずだね。あの後は問題ない?

前にも言ったけれど、何か異変を感じたら直ぐに言ってね」


魔物によって負わされた傷は深かった。

彼女は才能に恵まれていたのにも関わらず冒険者の道を絶たれる寸前だった。

ランク3の身の上では満足な治療費を支払う事が出来なくて、腕を残す事すらも諦めなければならなかったくらいだ。

だから僕は、その場で個人的な依頼として治療を請け負った。

費用は相場から多少の値引きはしてもしっかりと頂くという前提で。

格安で怪我を治して貰えるなんて広まれば治療を生業にしている人に偉い迷惑が掛かるからね。

誓約書を書いた上での出世&分割払いにしただけだ。

ここのところメキメキと力を付けているらしい彼女なら問題ないだろう。


「今日は胸を借りるつもりで頑張ります!」

「あ、うん……」


胸の前で両手で握り拳を作り、そんな事を言う彼女の言葉に苦笑してしまう。

貴方が試験官なんだけれどもね。

同じ様に監督官も何とも言えない表情をしていた。


開始の合図と共にお互いに駆け出し、剣と剣が衝突する。

僕の素の(・・)身体能力は残念ながら学園の中では上の下である。

だから魔力による強化は必須だし、剣の腕はグレンの様な超絶技巧でもない。

まぁ彼女が相手ならさっきのグレンと似た様な事は出来るけれども……する必要もないだろう。


袈裟懸けの剣を流れに乗せて振り払うと、彼女の剣が地面を抉る。

返す刀で突きを撃つと慌てて後ろに跳んだ。

彼女はその隙を埋めるようにして、魔法の詠唱をする。


「炎よ敵を討て、火球ファイヤーボール!」


魔力が渦を巻いて火球が発現する。が、そう簡単に隙を埋めさせたりはしない。

プロ野球選手の投球程の速度で火球は真っ直ぐに飛んで来る。

僕は徐に火球に向かって走り出すと、にっこりと微笑んで


「──ッ嘘でしょぉ!?」


飛んで来た火球を素手で握り潰した。

うん、無事に驚いて頂けた様で何よりだ。

驚きで少しばかり身体が硬直した間に距離を詰め、上段から強く剣を打ち下ろすと、寸でのところで受け止められた。

そうしたら即座に背後へと回る。


「そこまで!」

「え?」


呆けている間に背後から彼女の首筋に剣を当てた。

彼女からして見れば消えた様に見えただろう。


「え?えっ?」

「力んだ時に片目を瞑る癖があるから、気を付けてね」

「あ……はい」


やはり悔しかったのかガックリと肩を落としたものの


「ありがとうございました!」


と大きくお辞儀をした。

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