六十一 変わったところ
寮母さんを訪ねて鍵を貰って個室のシャワールームに入った。
普段はあまり使われていない場所ではあるものの、良く手入れをされているようで、床や壁は真っ白だ。
寮の管理は結構な重労働らしく、寮母さんが汗を流すのに使う他。
僕のように性別の問題を抱えた生徒や、怪我をして介添えが必要な場合などに使われるようだ。
シャワールームだけあって風呂桶は無く、二畳くらいのスペースにシャワーと鏡だけ取り付けてある。
朝はバタバタとしていたし、昼は学校に居たので、性別が変わってからこうして素っ裸になって自分の姿を見るのは初めてだ。
少しばかり隆起をした胸、それに反して細くなった腰、そしてちょっと大きくなったお尻。
まじまじと眺めて見ると確かに男の時とは違うのが見て取れるが、自分の身体である意識が強いのか、なんの感慨も湧かない。
……いやまぁ、そもそも女としては未成熟過ぎるのが原因だろうか。
胸元を見たグレンが少し顔を赤らめていた辺り、元男だと分かっていても、同年代の男の子から見れば女の子に見えるのだろう。
「ま、いいや」
そう独り言ちる。
身体に違和感を感じるでもなく、体調が悪いわけでもない。
環境が整えば戻れる公算が高いのだから焦って何かをする必要もあるまい。
頭を切り替えると、シャワーの蛇口を捻らずに、魔法で自分の身体より大きな水球を発現させる。
温度は39度くらいで良いだろうか。
水球へ身を投じると、じゃぼん、という音が鳴った。
つまりは魔法で作った即席の風呂である。
構想は練っていたし、温水で水球を作るのは成功させていたが、流石に服を着たまま湯に浸かるわけにはいかないし、皆がいる浴場だと目立ち過ぎる。
身体が変わった事でこうして実際に試す機会に恵まれたのだから、世の中分からないものだ。
しかし、湯で出来た水球にぷかぷかと浮くのも悪くはない。
水の流れを操作して水球の中をくるくると回ってみたり、普通のお風呂とはまた違った味わいだ。
今度機会があればグレンを放り込んでみよう。
ああ、これから暑くなったら水着を着て皆で遊んでみても良いかもしれない。
愉快な想像をしながら鼻歌を歌い、貴重なお風呂の時間を堪能した。
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髪の毛の水気をタオルに染み込ませながらペタペタと廊下を歩く。
いつもより長い時間を掛けてお風呂から戻ると、グレンは既に部屋に戻っていた。
「おう、おかえ、り」
「うん、ただいま。どうかした?」
「いや、なんでもない」
「そう?」
その割に言葉を閊えていた気がするのだけれども、と首を傾げる。
「そっちはシャワーしかないんだろ?
風呂が好きなのに残念だな」
「えへへぇ、良くぞ聞いてくれました」
得意満面になって先程の事を話すと、何やら名状し難い表情をした。
なんだその変な顔は。
「お前、ほんと馬鹿な」
「なっ」
「すげー頭が良いのに馬鹿。魔法馬鹿だな、間違いない」
このやろう、なんて言い草だ。
グレンなんて剣術馬鹿の癖に。
「ふーんだ。入れてくれって頼まれても入れてあげないからね」
「そんな機会ないだろ」
「そんな事ないし。野営十日とかしたら入りたくなるし」
「とお……あー、そこまで長いと確かにそうかもな……」
「ふふん。でしょ?」
僕は二、三日の野営でも、お湯で湿らせたタオルで拭くだけでは物足りない。
我儘を言えない状況なら勿論我慢はするけれども。
「その時は入れさせて下さいって土下座でもして貰おうかな!」
「……」
「……?」
「あぁ、まぁ、そうだな」
グレンの表情が凄く腑に落ちないのは何でだろう……。




