五十四 実戦演習2
その後、ゴブリンに遭遇して、何度か戦闘をこなした。
気になっていたオウルは顔を青くしながらも気丈に戦っていた。
張り詰めていたものが抜けて、少しは気持ちに余裕が出来たのだろうか。
先程の遣り取りで彼の心の負担が、少しでも和らいだのなら嬉しいのだけれども。
問題はその他の生徒だ。
僕、ネヴィス、オウルを除いた三人──男子二人に女子一人──は初の実戦だったようで、特に男子一人と女子一人は具合が悪くなって木の根元で蹲っている。
戦闘中はまだマシだったもう一人の男子生徒も、緊張が解けた事と、教師からゴブリンの解体の指導を受けた事で大分顔色が悪い。
「魔物とは言え、解体って気分の良いものではないよね……」
「あ?あー、いや、あれはキツイわ。
ミアンは平気なんか?」
「ん、僕は前に経験があるから、多少はね」
ちなみに僕が解体指導を受けた時は、心臓を持った母様が笑顔で「これがハツよ、うふふ」なんて感じで一つ一つ臓器を持ち上げて、詳しい説明をしてくれたものだ。
シュール過ぎる。
「は、わはは、お前の母ちゃんパねぇな!」
「うん、僕もそう思う」
まだ具合は悪そうだが、笑顔がこぼれた。
もう、彼は大丈夫そうだ。
「……あっちの二人はどうかな?」
木の根元で蹲っている二人にそれぞれ目を向けた。
女の子にはネヴィスが、男の子にはオウルが付いて背中を摩ったり水を飲ませたりしていたのだが、さっきまではほとんど反応はなかった。
今は二人の呼び掛けに応えられるようになったみたいなので、大分良くなってきたのだろう。
そうこうしているうちに、周囲の警戒に当たっていた教員が戻ってきて、僕らの面倒を見ていたもう一人の教員と話をし始めた。
どうやらそろそろ戻る時間のようだ。
必要教員数の関係で探索は六班を二回に分けて、三班ずつ回る事になっている。
僕達は前半の三班だ。先生方は更に後半の三班を見守りながら散策する事になる。
二人でコンビを組むにせよ、長時間五〜六人の児童の面倒を見るのは大変だろうなぁ。
「ミアン」
「あぁ、クロード」
ベースキャンプに戻ると、先に戻っていたらしいクロードに話し掛けられた。
「……そっちも気分を悪くしてしまった子が居たみたいだね」
「うん。と言うことは、クロードの方もかな?
やっぱり自分の手で生き物を殺すのは、少なからず衝撃があるよね」
「あは、なかなか、慣れないよね……」
そう言うと、クロードはちらりと視線を送る。
その先には顔色を悪くしてげっそりとした様子のクラスメイトが居た。
その様を見てか、これから出発する生徒に不安げな顔を見せる子も多い。
「それじゃ、皆にも声を掛けてくるよ」
「ん、行ってらっしゃい」
クロードは気分の優れないクラスメイトに声を掛けて回っている途中だったようだ。
流石は頼れるクラス委員長だ。
そう言えば、他クラスの友人達はどうだろうか。
グレンは、一緒に大立ち回りをした仲だし、失礼ながらファラが顔色を悪くする様子は想像出来ない。
逆にグラントやローセスは少しだけ心配かな……。僕も少し皆の様子を見に行こう。
AクラスとBクラスはお隣さんだけあって出撃拠点も近い。
グレンとグラントは前半組で、既に戻って来ていた。
班員の皆と一緒に談笑している辺り大丈夫だったみたいだ。
「グレン、訓練はどうだった?」
「うちの班は特に問題なかったな」
グレンがそう言うと、グラントも少し誇らしげに首を縦に振っている。
全員問題なしって凄いなぁ。
「俺らの班は平民で集まってるからな。
村で獲物の解体手伝ったりとかして慣れてんだ」
解体の手伝いと実戦はまた少し違う気はするんだけれども……生きる為には怖がってもいられないのかな。
それか、類が友《脳筋》を呼んだのかもしれない。
「お前なんか失礼な事を考えてないか?」
「いや、別に」
グレンがジト目でこっちを睨んでいる。
何故バレたんだろう。口笛でも吹いて誤魔化そう。
「僕のところは慣れていない人が多かったよ」
「そうなのか、ネヴィスとオウルが同じ班だよな?」
「うん。二人とも大丈夫だったよ」
「オウルなんか緊張しそうだが、平気だったんだな」
「うん、まぁちょっと青い顔をしてたけれども。
でも最後までしっかりしてたよ」
「ほーお」
ほんとに、オウルはトラウマを乗り越えて良く頑張ったと思う。
「そろそろ後半の組が出発するみたいだな」
グラントに言われて周りを見渡すと、後半組の生徒が整列して、引率の教師が点呼を取っていた。
なんだかんだで結構長く話し込んでいたみたいだ。
「じゃあ、僕は一旦戻るよ」
「おう、また後でな」
自分のクラスに戻ると、程なくして後半組の生徒達がベースキャンプを出て行った。
前半組の僕達は、後半組のクラスメイトがしていた作業を引き継いだ。
……と言ってもする事は昼食の準備だ。
しかも作る物は胃の中を空っぽにする生徒に配慮して、胃に優しい粥やスープなのだが。




