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五十一 戦闘訓練


放課後になり、訓練場の一角に陣取るとそれぞれが学園から貸与される魔道具の得物を持ち、順繰りに組手を始めた。

グレン、グラント、ローセス、オウルは剣。ファラは棒。僕とネヴィスは無手である。

僕は剣と拳、どちらも同程度に嗜んでいる。素手は掌からゼロ距離で魔法が使えるのがメリットだ。

……まぁ、訓練中は危ないので外魔力を操る魔法を使わないのだが。

ネヴィスは竜化すれば並の防具より強靭な甲殻を纏える分、僕と違って手甲を持つ必要性は薄いかもしれない。

ちょっと羨ましい。

今回の参加者は全部で七人。一対一で戦えば三組出来て一人が余る。この一人は、休憩と審判、それに他の人の戦い方の観察を兼ねている。


今回の取り組み中は僕が休憩だ。

グレンとネヴィス。ローセスとオウル。ファラとグラントが向かい合い、矛を交えている。


グレンとネヴィスは終始、グレンが優勢。

体格差と武器の差でネヴィスが非常に戦い辛そうだ。

ネヴィスは独特なステップを踏んだり、フェイントを掛けたりと工夫はしているし、グレン自身もハンデとして身体強化を使わずに戦っているが分は悪い。

つか、元より高い身体能力を強化魔法で底上げしているネヴィスを、魔法なしで翻弄するとか、人間としてどうかと思う。

ネヴィスは急いて前に出たところで足を引っ掛けられ、体勢を立て直そうと踏鞴たたらを踏んだところで後頭部を小突かれていた。


ローセスとオウルはやや大柄なローセスと、標準体型のオウルであり、剣が得意なローセスが優勢だ。

オウルは魔法に秀でる分、やや剣の扱いが不得意なようである。

それでも十戦すれば二勝はするくらいなので、前の二人よりは実力が近く、良い勉強になるだろう。


ファラとグラントは……地力の違いが明確に出ていた。

棒術を操るファラに対して、グラントは片手剣の二刀流。

戦いはグラントが懐に入れるかどうかが要となるものの、ファラの技術力が高過ぎる。

リーチの長さを活かして中には入れず、膂力の違いは遠心力で上手く賄っている。

重量で押せる両手持ちの剣や射程の同じ槍ならまだまともな戦いになるのだろうが、両手に片手剣を持つ為に力が足りず、持ち前の素早さもリーチで封じられている。

あぁ、ファラさんや。駄目押しに眉間、喉、鳩尾の三点を同時に突くのは止めたげて。

障壁があっても怪我はしなくても心が折れるから。あんたは鬼か。


---


さて、更に何周か手合わせをして、夕飯の時間も差し迫ってきた。そろそろ帰り支度をしなければならない。


「じゃあ門限も近いし、解さ──」

「あら、ミアン。メインイベントがまだよ?」


ニコニコしながらそんな事を言われてもですね、ファラさん、目が笑っていなくて怖いです。

当の本人グレンが気にしていないのが唯一の救いだろうか。


「ほんとに時間がないから、一戦だけな」

「あぁ。うん、グレンも割と好きだね……」


僕なら、もしファラとグレンの二人が同時に掛かってきたら、勘弁してくれって言いたくなるんだけれども。


他の四人には少し離れて貰って、僕はファラと並んでグレンと対峙する。ネヴィスの合図と共に三人が同時に駆け出した。

僕とファラはグレンの前後を取るように、グレンは死角に入られないように、目紛しく動き回る。

身体が小さく、武器を持たない僕のリーチは非常に狭い。

いくら魔法で身体を強化したところで、僕の方が多少すばしっこいくらいでグレンと大した差はない。

しかし死角に入り込む、という点においてはこれ以上ないくらいの位置取りが出来る。


「お前らの連携、どんどん厭らしくなっていく、なッ!」

「女の子に向かってイヤらしいだなんて、酷いわ。ねぇ、ミアン」


そう言いながら、ファラは僕の居る場所とは少し外れた(・・・・・)場所に視線を送る。

うん、地味に厭らしいと思う。あまり離れた場所だとすぐにバレるからって、ほんの少しだけ、というところが特にね。

僕はグレンの死角から素早く手を伸ばす。実戦であれば捉えた瞬間に魔法を使うため、触れるだけでも勝利条件は達成、というルールになっている。

正に触る直前で、グレンは前方に跳躍してファラとの距離を詰めた。

見えてない筈なのに完全にバレていたようだ。

……まぁそれはこちらも織り込み済みである。


素早く距離を縮め、グレンの間合いの内側を維持する。

グレンは迂闊に手を出せないようにしっかりと牽制を入れてくるが、僕に牽制をするという事は、ファラの負担が減っているという事でもある。

上手く連携が取れずに一対一になれば、各個撃破されてしまうので、片方に集中されるのは不味いのだ。


もしかしたら千日手になるかも、と思っていたのだが、慣れてきたのか、ファラとの連携は想像以上に上手くいっている。

この調子ならば、そう遠くないうちにグレンを追い詰める事が出来る筈……なのだけれども、そうは問屋が卸さないだろうなぁ。


「んなっ!?」


無理矢理身体を捻ると、切っ先が音の壁すら超えそうな速度で顔の横を通り過ぎて行った。

少し遅れて、ボッと言う砂の上に鉄球を落とした様な鈍い音と共に、風が頬を叩いた。


追い詰めるまで残りわずか、というところで、グレンの剣の回転速度が上がった。

今までだって、常識を外れた速さだったというのに。

間合いがほんの少し離れただけ。

それでもまだ間合いの内側、そこから後ろ手に突きをねじ込んでくるなんて!


僕の体勢が崩れたのを見て、ファラがフォローに入った。

でもグレンも、無理に突きを打ったせいで身体が開いている。

引き戻す速度も異常だけれど──これは──速さを制御し切れていないのか。

普段の針の穴を通すような緻密なコントロールはない。ここを凌ぎ切れば、勝てる。


ファラの得物がグレンの剣を真上に弾き飛ばし、流れに身を任せ、棍を振り切った。

更にグレンの逃げ道を塞ぐように僕の手が伸びて、ついに、グレンを捉えた。

グラスでグラスを叩いたような、澄んだ音が、グレンに打ち込んだ僕の拳から鳴った。

──それと、程なくして僕の頭の上からも。


……何故?


僕の頭の上にはグレンが持っていた剣が、切っ先を下に向けて綺麗に乗っていた。

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