表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/88

四十八 体育の時間


運動の授業で行われるものは、剣術や体術だけではなく、サッカーやドッヂボールといった球技、マットや床を使った運動まで様々のようだ。

こういう世界だからてっきり武術や魔法に関する授業が殆どのだろうと思っていたが、それぞれで必要なものが違うため、動きに柔軟性が増すのかな。

一見不必要に見えて、実は根幹を支える一部だった、なんて事も往々にしてあるものだ。確かに全く無駄な事なんて早々ないもんね。


隣に立っているネヴィスが運動に対して並々ならぬ情熱を注いでいる事は知っていたが、今日の気合の入り方はまた格別だ。

体術、特に拳と脚による格闘術は初授業である。そんなに楽しみだったのだろうか。

優しく穏やかに見える風貌からはギャップが凄い。


今日の授業で使われる魔道具は、前に社交界の決闘で使ったものと同じようなシステムを持っているようだ。

格闘である以上、四肢に打撃が当たった事で反応をしては成立はしないので、手足を除いた顔面から胴体に攻撃を当てると判定の音が出るらしい。


攻撃用のグローブ、アンクレット型の魔道具と、防具用のベルト型の魔道具を付けると、ネヴィスと向かい合った。

ギラギラとした瞳で僕を見るネヴィスは……つか、おい、比喩じゃなく目が輝いてるぞ。

これは、もしかしてあれか、真性の脳筋か?


「よーし、全員、組み方はじめー」


ネヴィスは開始の合図と共に、凶悪な笑みを浮かべて飛びかかってきた。凄まじい速さと重さである。

風圧を撒き散らす拳を受け止め、剃刀のような鋭さを伴った蹴りを往なしていると、ネヴィスの姿が変わってきている事に気付いた。

滑らかだった腕と脚に鱗が、何もなかった小さなお尻からは、尻尾が生えている。竜人の戦闘形態か。しかもこの娘さん、興奮し過ぎて気付いてなさそうだ。

舞台に出ていた役者さんのように、ほぼ竜のようにならない辺りは、年齢の違いか、種族の違いか、経験の違いなのかは分からない。


「なんだ、ミアンってなかなかやるじゃん。トロそうなのに」

「あー……うん、見直して貰えて何よりだよ」


普段のおどおどとした喋り方は鳴りを潜め、傲慢で高飛車な話し方だ。戦闘中は人が変わってしまうのだろうか。いや、きっとそうなのだろう。

僕は今、少し遠い目をしている自信がある。ネヴィスは大人しくて荒事は苦手だと思い込んでいたよ……人を見る目がまだまだ甘いなぁ。


そんな事を考えている間も、ネヴィスの猛攻は続いている。

しかし、僕が言うのもなんだけれど、身体能力の高さに頼った戦い方をしているので捌く事は難しくない。

ネヴィスの口は最初こそ耳まで裂けるような弧を描いていたが、今は不満げに固く結ばれ、眉間には皺を寄せている。うん、現実逃避はそろそろ止めにしよう。

薄い金属同士が当たったような、透き通った高い音が三連続で響く。軽く当たったところで引いているので、彼女には押されるような感覚も殆どないだろう。

ネヴィスは簡単に拳打を当てられ、非常に不満気な表情である。


「なにそれぇ!ずるい!あたしにも殴らせろ!」

「え、えぇ?そんな事を言われて……っ!?危ない!」

「えっ?な、きゃあ!?」


ネヴィスの背後から、人が、というかオウルが大きく押されて飛んできた。オウルと組手をしていた相手が、攻撃魔法を使ったらしい。

咄嗟に駆け出して、縺れて倒れそうになるネヴィスとオウルを抱き留めると、二人が頭を打たないように気を付けながら背後へ下がり、勢いを殺す。

火の爆発系魔法を使われたようだが、不幸中の幸いで、オウル自身に目立った傷はない。

しっかりと障壁を張ったのだろう。

──もちろん、今回の組手で魔法の使用許可なんて出ていない。

というか、寧ろはっきりと魔法の禁止が言い渡されていた。


「二人とも、大丈夫?」

「いたた……一体なんなのよ」

「う、なんとか」


ネヴィスは悪態を付きつつも問題なく立ち上がった。竜族の血が入っているだけあって丈夫である。

オウルの方は、立ち上がろうとして、顔を顰めている。


「足を捻ったか何かした?」

「いっつ……はぁ、そうみたい」


縺れ合っている最中に変な風に足を挫いたのかな。地に足を軽く着いただけでも痛そうにしている。


「肩を貸すから、保健室に行こう?」

「え、あ、ありがとう。あの、ごめん。手を煩わさせて」

「ふふ、僕は保健委員だしね。気にしないで」


僕は回復魔法を使えるけれど、治療をする事は許されていない。

学園側としては、預かっている子供に、もしもの事があってはならないからだ。

回復魔法は、下手な掛け方をすればちゃんと治らなくなるし、使う者に悪意があれば、治療をすると見せ掛けて相手の体調を崩す事だってできてしまう。

もし、直ぐに治療をしなければ命がない、とかであれば、後に叱責を受けても治そうとは思っている。


「女々しい男と、女男で、お似合いだな」


オウルと組手をしていた相手で、騒動の張本人であるフィズンが嘲るように言ってのけた。

彼のあまりな言い草に、つい険のある視線を向けてしまう。

僕の事は何て言われても構わない。相手は遥か年下で、腹も立たないから。

でも、故意に禁を破って人に怪我をさせて、それはないだろう。

何か言い返そうかとも思ったが……彼の後ろに立ったランドバーク先生が拳骨を落とすモーションに入ったので、相手にせず、オウルを保健室へ連れて行く事にした。


「気にしないでね。オウルは、オウルの好きなようにしたら良いんだから」

「いや、うん……ありがとう」


ランドバーク先生の怒声をBGMに、オウルを連れ立って校舎に入った。


保健室にたどり着くと、消毒液や医療品の独特の香りが漂ってきた。

この辺りはどこの世界もあまり変わらないみたいだ。

保健医はおらず入り口に、戻る旨の札は掛けてあったので、少し待てばじきに戻ってくるだろう。

オウルには負担を掛けないよう寝台に横になって貰うと、足を高く上げて圧迫固定と患部の冷却を施した。

痛そうではあれど、幸いにも酷く腫れていたり、質の悪い挫き方ではないようで、回復魔法を使わなくても一週間もあれば治ると思う。


「凄い。手際が良いね」


オウルはちょっと意外そうな顔をしている。


「あー、んー、まぁよく父様と一緒に練兵場へ顔を出していたからね」


もちろん嘘ではないけれど、これもやはり、昔運動部にいて処置をしたという経験の方が大きい。

少しあやふやな知識にはなっていたものの、見てくれは、しっかりと処置出来ている、筈だ。

それに、至らないところがあっても先生が戻ってくれば手直しをしてくれるだろう。


「へぇ、そうなんだ。……あ。もう大丈夫だから、ミアンさんは授業に戻ってよ」

「えー、僕が居たら邪魔なの?」


しまった、という顔をするオウル。

うんうん、口下手なだけなのは分かっているよ。

自分に時間を掛けさせるのが申し訳ないんだよね。


「ご、ごめん!そんなつもりじゃなくて!

心配してくれてるのは分かるし、良くしてくれて感謝もしてるよ!」

「ふふ、いや、ごめん。意地悪だったね。

僕の為に言ってくれたのは分かっているから、大丈夫だよ」

「あ、そ、そう」


時間を確認すると、まだ授業時間は残っていた。

んー。向こうの状況がどうなっているかは分からないけれど、ランドバーク先生に報告はしないといけないかな。


「じゃ、先に戻っているから。

保健の先生が来るまでは安静にしていてね」

「うん、分かった。……本当にありがとう」

「いいえ、どういたしまして」


僕はオウルににこりと笑顔を向けると、保健室から出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ