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四十七 昼食


十分ほどの休み時間の間に用を足して手を洗う。

もう大分暖かくなってきていて、蛇口から出る水も気持ちの良いくらいになってきた。

口に咥えていたハンカチで手を拭うと、目の前にある鏡で身嗜みを確認する。

軽く絡まった部分を手櫛で整えながら、そろそろ髪の毛を切ろうかな、なんて考えた。

腰までは届かないものの、肩甲骨を覆うほどの長さは、少し目立つ。

髪の毛を後ろで纏めていても、頸が隠れるほどだ。


「──おや、ミアン。偶然だね」


柔かな微笑みと共に話し掛けながら、御手洗に入って来たのはクロードだった。


「うん、偶然だね。あー、ねぇクロード、髪の毛を切ろうと思うんだけれど、どう思う?」

「うん?うーん……綺麗だし、なんか勿体無い気もするね。

どのくらい切るんだい?」


トイレを済ませたクロードが、隣に来て手を洗う。

手の洗い方一つを取っても品の良さが滲み出るなぁ。


「気分転換にばっさりいきたい気もする」

「へぇ、手入れにも時間が掛かりそうだもんね」

「そうなんだよねー。でも、あまり切ると父様も母様も悲しみそうだなぁ」


髪の毛が短くなっていて、しょんぼりとする父様の顔を想像すると、ふふ、ちょっと面白いのだけれども。

母様はあらまぁ、と残念そうに溜息をつきそうだ。


「あー、そう。その髪型は両親のご意向なのか」

「ん?いや、まぁ、父様も母様も、僕が嫌なら強要はしないと思うよ。

変じゃないし、僕が好きでしている部分はあるかな」

「変じゃないっていうか、似合い過ぎていて怖いよ。

……はは、トイレに入った時に、女子トイレと間違えたんじゃないかって驚くくらいには、ね」

「う、お騒がせしています……」


クロードは思い出し笑いをしながらそんな事を言った。

以前、入り口で鉢合わせた見知らぬ男子生徒が僕を見て、女子トイレに入ったと勘違いをしたのだ。

凄い勢いで謝ってトイレから飛び出し、止める間もなく女子トイレに入って行ってしまった事があった。


更に運悪く女の子と鉢合わせたようで可哀想なくらいに狼狽えていた。

僕は申し訳なさでいっぱいである。

ちょっとした騒ぎになって、その男の子が悪くない事を必死に伝えて一緒に謝ったのだけれども、勘違いを解くのはなかなかに難しい。

まだ簡単に男女仲が拗れるような歳ではなかったのが不幸中の幸いだった。


「あ、ところで。今日の昼食、久し振りに一緒にいかがかな?」

「いいね。ふふ、クロードの周りには人が集まっているから、僕から誘うのは悪い気がしてね」

「いやいや、ミアンも人の事は言えないじゃないか。

じゃあ、まぁそういう事で。教室に戻ろうか」


---


教室に戻り、普段よく共に昼食を取る、ネヴィスとオウルに今日はクロードと食べる旨を伝える。

昼休みになって僕とクロードは食堂に向かい、適当な席を確保すると食事を始めた。


「学園の食事って美味しいよね」

「うん、そう思う……でも、クロードは実家から通っているし、家に専属の料理人がいるでしょ?」


クロードは焼き立てのパンにバターを塗り、もぐもぐと食べている。こんがりと焼けたお肉にシチューとサラダも付いているので育ち盛りにも安心だ。

僕はというと、ご飯とお魚のセットだ。この世界にもお米があり、普通に流通している。長粒から短粒までなんでもござれだ。

短粒種で有名なのはヒノモトという国なのだけれども、現在僕が行ってみたい国のダントツ一位である。


「ま、料理は、美味しいけどね」

「──あー、そういう事。苦労するねぇ」


侯爵家の長男である彼は、優遇されるのと同時に厳しい教育を受けているのだろう。

礼を失するような真似はさて置き、ガッチガチのテーブルマナーを気にしながらの食事は、クロードにしても肩が凝るのかな。


「しなきゃならないのが分かっていても、たまには肩の力を抜きたいよね」

「そうそう。だから学園でのご飯、特にミアンが相手なら気を張らなくて済むから嬉しいよ」


クロードはいつもの計算された笑顔とは違う、ほんわかとした笑みでシチューに口を付けた。


「くすくす、それは光栄だね」


確かに、以前から僕の前ではちょこちょこ侯爵家の長男の仮面が剥がれているもんなぁ。

これからも一緒に居ると息抜きの出来る、気の置けない親しい友人であれるよう頑張ろう。

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