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四十二 休日1


入学式を終えて一月が経った。

父様と母様はロイグに帰り、僕は同い年の子達との学園生活は良好な人間関係を築けているのもあって、順調だ。

高校までに出来る友人は、生涯を通しての友人になるなんて言葉があるけれど、ここで友人になった人達ともそうありたいものだ。


僕は今まで寮に入ったりして、長期間、他の人と一緒に暮らす経験はほとんどなかったので、普段では気付かなかった事が色々とあって楽しい。

そう言えば、同じ部屋で暮らしているグレンが大人びていて、六歳──もし四月生まれであればもう七歳──には到底思えないわけだけれど、意外と可愛いところがある。

寝ている時など顕著で、普段の快活さや利発さは鳴りを潜め、あどけない寝顔だったりするし、たまに「父さん」などと寝言を漏らしたりする。

まぁ僕もあまり人の事は言えず、たまにベッドを間違えたりする。

何故そんな間違いをするのか、寝惚けていると当人ながらさっぱりと理解ができない。

寝言の事でグレンをからかった時は、逆に寝惚けて抱き付いてきたなどとからかわれ、お互いの傷を抉り合う結果になった。


些細なやりとりだが、こういう気兼ねのない友人との交流はそれこそ何年振りになるのか。

非常に快いものだった。

社会人になってからできた友人は、仲が良い、親友とも呼べる存在でも、なかなかどうしたって打算や損得勘定が絡んでしまう。


「──ひえ!?」

「おーい、聞こえてるかー?」

「ちょ、グレン、また耳!」

「何度も話し掛けてるのに、反応しないからなぁ。

今日は街に出るんだろ?」

「あ……ごめん」


しまった。ぼーっとしていて準備の手が止まっていた。

肩甲骨まで伸びた髪の毛を、櫛で丁寧に梳いていく。長くなった髪の手入れをするのにも大分慣れたものだ。手早く纏め上げると、いつもの位置で髪を留める。

まだ春だから良いけれど、これは夏になったら暑いんだろうなぁ。

鏡の前──個室に姿見がないので少し不便──で顔、髪の毛、全身を確認して、準備は完了だ。


今日は王都でも有名な一座がミュージカルをするという話で、僕からグレンを誘った。

こう言った芸術関連は僕自身が好きだし、小さな内から触れておくのは良い事だ。

お誂え向きに学生割引というものがあり、とても安く見られるので嬉しいところだ。

具体的に言えば普通なら1000c〜2000cするものが、概ね十分の一になる。

まぁ所謂SS席とかって言われる特にお高い席には学割が効かないのだが、こればかりは致し方がない。


「待たせてごめんね。準備が出来たよ」

「おう、じゃあ行くか」


手に地図を持って、少しずつ見慣れてきた街並みに繰り出す。

前と違ってGPS付きの携帯電話、なんてものがないので知らない地に行こうとすると苦労する。

大きな劇場はいくつかあり、今回は中央広場から少し平民街に寄ったところにある場所だ。

地図は読めるけれど、大きな通りの近くにあるのは行きやすくて助かる。

今回は王都内の要所を繋ぐ馬車などには乗らず、徒歩で行く事にしている。

僕もグレンも、移動速度と持久力はなかなかのものだ。訓練と、お金の節約なのだ。


「んー、この辺りか?」

「ちょっと待ってね……えーと、ここにランスペイド商店と、羽兎の止まり木亭があって」

「って事は、こっちだな」

「そうだね」


ほどなくして、とても大きな建物に着いた。周りには人が沢山いて活気がある。


「おー。こりゃ凄いなぁ」

「そうだね……受付は、あれかな」


入口に行くと、綺麗なお姉さんが並んでチケットの確認や販売をしていた。

僕達はそのうちの一箇所に近付いた。


「すみません、A席のチケットを二枚、お願いします」

「ありがとうございます。学生証はお持ちですか?」


くすりと笑いながらお姉さんが応対してくれた。

まぁ、確かに客観的に見れば微笑ましいものなのかもしれない。

学生証を提示してお金を支払うと、お姉さんは観劇をするに当たっての注意事項などを詳しく話してくれた。


「ごゆっくりとお楽しみ下さい」


丁寧にお辞儀をするお姉さんに見送られながら建物の中に入ると、軽食や飲み物を楽しめるスペースや、歓談する広場、トイレなどが見える。

世界が変わってもこういう場所の雰囲気は、少し似ている気がする。

今日の演目は良く童話としても読まれている、女神様と王子様のお話だ。

僕も、母様に読んで貰っていたなぁ。


「グレンもこのお話は知っているよね?」

「有名だからな」

「そうだね。……あ、そう言えば母様に、王子様になりたい?

それとも王子様のお嫁さんになりたい?って聞かれた事があるんだよ」

「なんじゃそりゃ」

「あはは、僕にもよく分からないんだよね」


いや、あれは今でも意味が分かってない。

父様と母様の僕の扱い方は、ちょっと変だ。

もしかして女の子が欲しかったのかなぁ。


「ただ、そうだな」


グレンはそう呟くと、僕の事を上から下までジーッと見た。


「ミアンはお姫様の方が似合うかもなぁ」

「う、うーん、褒められてる……のかな?」

「いや、微妙」

「ですよねー……」

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