四十 入学式1
自己紹介が終わり、まだ入学式まで時間が余っていたので少しコミュニケーションを取る時間が作られた。
大きく席を移動して話す子は殆どおらず、大体は前後、左右の席で言葉を交わしているようだ。
一部は知己がいるのか、知り合いと思わしき子と話をする姿もある。
僕は大部分の生徒と同じように、すぐ後ろの席の子に話し掛けていた。
「ネヴィスだよね、改めてよろしくね」
「あ、ミアン……さん、こちらこそ、よろしく」
透き通った翡翠のような髪の色、金色の瞳。
頭側部からS字を描くように角な生えた、少し引っ込み思案な様子の可愛らしい女の子だ。
天然パーマなのか髪の毛がところどころで、ぴょこぴょこと跳ねているのが愛らしいところだろうか。
「うーん、自己紹介って緊張するよね」
「あたしは、自己紹介とか苦手で……ミアンさんは緊張してたように見えないのに、緊張してたの?」
「あはは、するよ。昨日から何を話そうか悩んで、眠れなかったくらいにね」
「そ、そうなんだ。あたし、魔法試験でもミアンさんを見掛けたんだけど、堂々としてたし、綺麗で羨ましいなーって思ってたんだ」
「あぁ……あの時?なんか恥ずかしいな。でも、ありがとう」
そう言ってにっこりと微笑むと、ネヴィスも花が綻ぶような笑顔を見せてくれるようになった。
おどおどとした女の子は庇護欲を誘って、それはそれで良いと思うけれど、やはり笑顔が一番可愛いよね。
その後も、僕らの様子をちらちらと見ていた、ネヴィスの後ろにいるオウルという男の子も混ぜて三人でお喋りをした。
オウルとも無事に打ち解けられて、入学式が終わったら三人で昼食を食べよう、という事になった。
最初はクラス全体でもボソボソとした話し声だったが、それぞれが打ち解けられたのか、終わり際にはワイワイと言って良いくらいの盛り上がりになった。
「よーし!それじゃ、そろそろ大広間に移動するぞ。
あー、廊下に……一列目はアベル君を先頭にキール君まで、二列目はリリィさんを先頭にジン君まで、出席番号順で並んでくれ」
皆が割とスムーズに並ぶ中、どうしたらいいのか分からず、戸惑っている生徒も何人かいるようだ。
全員の顔と名前が一致しているわけではないので、誘導は出来ないけれど、隣でおろおろとしていたネヴィスの手を引いて列に並んだ。
他のクラスもほぼ同時に並び始めたので、廊下の光景は結構壮観だ。
何の気なしにBクラスの方を眺めてみると、グレンがいた。
相変わらず頭が一個飛び出ている。
うん、僕の身長が低いのは認めるけれど、あいつは高過ぎる。
グレンもこちらの視線に気付いたのか、手を振ってきた。
こっちを見付けるのは難しい筈なのだが、目敏い奴だ。
とりあえず手を振り返しておいた。
「あ、あの男の子って、試験の時に一緒にいた子だよね?」
それに気付いたネヴィスが声を掛けてきた。
「あぁ、うん、ちょっとした縁でね」
「そうなんだぁ……いいなァ」
ネヴィスがグレンの方を見ながら言った最後の、いいなぁ、は大分小さな声である。
んー、イケメンは爆発しろ、とでも言っておけば良いのだろうか。
……あれ?なんか、グレンがなんか驚いた表情をしている。
なんだろう、視線はネヴィスに向いているけれど、彼女と顔見知りだったりするのだろうか。
「この順番は、入学式後も整列の時の基本になるから、自分の前後にいる子を覚えてくれなー。
それじゃ移動するから、順番に着いてきてくれ」
---
大広間に着くと、椅子が用意されていて、上級生や保護者が会場が割れんばかりの拍手で迎えてくれた。
在校生は人数的に、初等部の二年と三年だけだろう。
保護者や来賓を除けば、僕らのAクラスは一番壁よりに並んでいる。それで隣にBクラス、Cクラスと順になっていて、二年、三年といった並び方になっていた。
Aクラスの二列目とBクラスの一列目は距離が近いため、グレンとはほぼ隣に座る事になる。
「おう、また会ったな」
「そうだね。イケメンは爆発すればいいよ」
「あん?なんだ、何の話だ」
おっと、口が滑ってしまった。
「いや、ところでグレン、ネヴィスとは知り合いなの?」
「ネヴィス?……って、誰だ?」
「え、あれ」
ネヴィスの方を見るとめちゃくちゃ挙動不審である。 うーん、知り合いじゃないのか?
「この子なんだけれども……。ねぇネヴィス」
「ひゃいっ!?」
おぅ、ちょっと吃驚した。
ネヴィスは焦っているのか結構大きな返事だった。
まだ並び終えていないので周りは結構ざわついているのに、少し人目を引くくらいには。
「む、さっきの……んー、会った事はないと思うが」
「そうなんだ」
あらま、僕の勘違いか。
じゃあ試験で見掛けたネヴィスが一目惚れ──恋と自覚しているかはさて置き──でもしたのだろうか。
「ネヴィスは今日から友達になったんだ。グレンも仲良くしてね。
ネヴィス、僕の友人でルームメイトのグレンだよ」
「はは、はい。よりょしく、おねがいしまぅ!」
「あ、あぁ、よろしく」
それから、グレンにはオウルのことも紹介し、グレンの後ろに座っていたグラントという少年のことを紹介して貰った。
──おっと、どうやら新入生の入場が終わったようだ。
「皆さん、静粛に。これより王国歴一三二二年度の入学式を始めます」
進行役の教師が式の開始を宣言し、学園長からの式辞が述べられた。
学園の概要や目的、更に庭の桜がなんたらって世間話を交えているのにも関わらず、学園長の言葉が長いとは感じなかった。
昔は眠くて仕方がなかった記憶があるんだけれども。
うーん、この辺は思い出の補正があるのだろうか?
さり気なく周りを見渡してみると、やはり退屈そうにしている生徒はいた。感覚の問題かなぁ。
そうして学園長が壇上から降りても、子供にとってはつまらない話が続くのが、入学式である。
個人的に壇上に立った人物が何を話すのか、割と楽しく聞けるのだが、そんな趣味を持っている人間は六歳や七歳という年齢の中では少数かな。
「続きまして、国王陛下から祝辞を頂きます」
陛下って、おお。マジか。すげーな、さすが国立。
祝電──というのかは分からないけれど──くらいはあるのだろうと思っていたのだが。
席から立ち上がった人の方を見れば、身に纏う服も、立ち振る舞いも、確かに周りとは少し違う。
まさか国王陛下ご本人だったとはなぁ……。
国王陛下が壇上に上がった瞬間に、空気が変わった。
一切の音がせず、シンと鎮まり返り、名状しがたい雰囲気が場を包んだ。
場に居るだけで、出ただけで、善し悪しはあれど雰囲気をガラリと変える人間がいる。
前世では職業柄、色々な人間に会ってきた自負があれど、ここまで強烈なカリスマ性は初めてである。
うーん、すげー鳥肌が立った。
流石は、一国の主。
この国では政治の舵取りを行う貴族こそいるものの、国王の権力は絶大だ。
その立場と重圧の中で錬磨されてきた、魔法でも魔力でもなんでもない、人としての力なのだろう。
もしこの人に気圧されずに話をするには、途轍もない胆力が必要になりそうだ。
「まずは、諸君らの国立クローヌ中央学園の門戸を叩いてくれた事に感謝をする。
君達はこの国の宝であり、将来を担っていく希望の芽である。
苦渋の決断をする時があるだろう。
辛酸を嘗める時もあるだろう。
しかし、困難は己の魂を磨く糧である。
負けず、折れず、挫けず、目標を胸に前へ進め。
然すれば選んだ道が何者であれ、成功を掴み取る事ができるだろう。
入学、おめでとう。
──以上だ」
直後に巻き起こった拍手は、会場にいる人間が一体になったかのような、凄まじい轟音だ。
万雷の拍手では表現をしきれない。人の持つ力に対して敏感な、一部の子は涙すら流している。
父様は国王が名君だと話していた。人となりは、まだ分からないけれど、圧倒的な人を寄せ付ける力を持っているのは間違いなかった。
お気に入りが100件を超えました。
いつも見に来て下さりありがとうございます。




