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三十九 初顔合わせ


四月に入って、初等部一年のクラス分けが発表された。

僕もファラもグレンも、別のクラスになっていた。

うーん、試験の成績で均等に分けられているのだろうか。

クラス自体がAクラス〜Hクラスの計八クラスあるのでただの偶然という可能性もある。


同じクラス──ちなみに僕はAクラスだった──の中には見知った顔もいた。

最終試験で一緒に踊ることになった、クロードだ。


クロード=スコシュアー。

王都のお隣に領地を構える、スコシュアー侯爵家の長男なんだそうだ。

そりゃ社交界慣れしているわけだね。


「おはよう、クロード。久し振りだね!」

「ああ、おはよう──」


にっこり笑って話し掛けると、クロードもにこにこと笑顔で返してくれたが、二の句は出てこない。

頭の中ではハテナマークが浮かんでいるようだ。

絶対に見たことがあるのに、誰だか思い出せなくて脳内検索フル活用といったところか。

こういうコミュニケーション能力の塊のような人は、一度会った人の顔を忘れないようにしている筈だ。

そして、クロードは間違いなくその努力を怠った事がないだろうから、絶対に会っているのに思い出せないのが信じられない、と言ったところか。


僕の容姿は化粧前後で、そこまで大きくは変わらないと思う。

でも、あの時は化粧をしていたのに加えて髪を結い上げていたし、真っ赤なドレスを着ていたのだ。

今の髪の毛を後ろで束ねていて、かつ男子制服を着た僕とは結びつかなくても仕方がない。


「あぁー……非常に申し訳ないのですけれど、何処でお会いしましたか?」

「う、うふふ、いや、こっちこそごめん。少し意地悪だったね。

改めて、僕はミアン。これからよろしくね」

「え……ミ、あぁぁァッ!!?」


クロードは漸く疑問が氷解したのか、大きな声を上げて目を瞬かせている。

周りの皆何事かとこちらを見ている。

普段は貴公子然としたクロードだけれども、今の表情は、素のものなのだろう。

あどけない少年に見える。


「え、え?どどど、どういうこと、ですか?」


口元を押さえ、挙動不審になっているクロードは、ちょっとばかり口調が乱れている。動揺は大きいようだ。


「えーと、落ち着こう……あの時は、学園側の勘違いで用意されていたのは女の子のドレスだったんだよ。

それで、試験に出る為には、あのドレスを着るしかなかったんだよ」

「あ……ん?ミアンって男の子、なのか?」


クロードは僕の頭の天辺から爪先まで二度三度往復させて、首をひねった。


「う、うーん……分かり辛いけれど、まぁ、分かったよ」

「分かって貰えて何よりだよ」

「しかし、そうか。いや、こう言っては失礼だと思ってはいるのだけれども。

……女子制服の方が似合いそうだね……」


あぁ、まぁ、最近はそういう自覚もある。髪長いし。母様似だし。

かと言って髪を短くして父様をしょんぼりもさせたくはない。


私服なら目立たないのにな、なんて思ったりもするが、生徒の平等を謳う以上は統一の制服は必要だ。

服はパッと見ただけで素材の良し悪しが分かる。

高価なものを身に付ける傾向にある貴族と、コストの低い服を選ぶ平民とで明確な差が付いてしまう。

見た目に対して敏感に反応をする子供には、いくら平等と言ったって通じない。

画一的な質を持つ制服を定めるのが良いのではないか、と思う。


さて、今日はクラスで点呼と挨拶をして、入学式のために大広間へと移動する。

入学式が終わってしまえば解散だ。


カラカラと軽い音を立てて、綺麗な木目の付いた扉が開き、Aクラスの担任であろう男子教諭が入ってきた。

側頭部の髪は刈り上げていて、真ん中の髪も短めだ。……んー、俗に言うソフトモヒカンのようなものだろうか。

髪の毛が真っ赤なので燃え上がっている炎のようにも見える。


「諸君、入学おめでとう!Aクラスの担任になる、ランドバークだ。

得意な事は剣術。一年間、よろしくな!」


ランドバーク先生は、ニカッと快い顔で笑った。

赤いトレーニングウェアを着た短い赤髪の教師。

体格も良いし、体育が専門なのかな。

僕の中のイメージは見た目と相俟って熱血教師だ。

これで音楽の先生だったりしたら全力で突っ込むわ。


ちなみに僕も制服を買いに行った時に、学校指定のジャージというものも買って貰っている。

値段もなかなかリーズナブルで動きやすいのだが、色は黒だ。

……赤なんて売ってなかったよなぁ……特注品なんだろうな。


「それでは、入学式までの時間を使って、皆も俺がしたように自己紹介をしていこう!

窓際の手前の子から、名前と、趣味や好きな物とか……まぁなんでもいい。適当に言っていってくれ!」


そうして自己紹介が始まった。懐かしいなぁ。

慣れないと頭が真っ白になって、何を言っていいのか分からなくなるんだよね。

僕は昔からこういう時に適当な言葉は出てこないので、前もって言う事を決めて何度か復唱をしてきている。

その場で上手くいかないのであれば、上手くいくように下準備をしておくのが大事なのである。


皆の自己紹介は、やはり様々だ。堂々と話す子もいれば、少し声が上擦ってしまう子もいる。

淡々と、名前を言った後に趣味はありません、なんて終わらせてしまう子も……ちなみに昔は僕もこのタイプだった。


さて、クロードはと言うと──


「初めまして、僕はクロード。趣味は読書。

純文学から絵本まで、なんでも好きだよ。オススメがあったら教えてね。


今日こうして出会った、大切な仲間と楽しい思い出を作りたいと思っているんだ。

もしも困っている事があったら何でも相談をして欲しい。

僕は不器用だけれど、一緒に悩ませて貰えたら嬉しいな。


一年間、よろしくね!」


生き生きとした笑顔と、少し大袈裟なジェスチャー。最後のよろしくね、で、お辞儀をした時には艶のあるブロンドの髪がさらりと流れた。

うーん、相も変わらずコミュ力の塊である。周りからも今までに比べて一際大きな拍手が飛んだ。


──さて、そろそろ僕の番だ。

僕の席は最前列で先生の目の前なので、まずは皆の方へ振り向かねばなるまい。

先生に向かって自己紹介をしても仕方がないからね。


「おはようございます!ミアンです!僕は魔法を色々な事に使うのが趣味です。

って言っても分かり辛いかな──ええと、例えばこんな感じに」


そう言って、魔法試験の時のように、くるりとステップを踏んで風、火、雷、光の魔法を発動──もちろん、周りに被害が出ないように──させる。

その様子で、試験の時に見た覚えのある子は、あっ、という顔をした。

それ以外の子も少し驚いた顔だ。うん、掴みは上々だね。


「皆といっぱいお喋りをしたいな、と思っています。

話し掛けても逃げないでね。……以上です!」


自己紹介を終えて座ると、沢山の拍手が貰えた。うん、上手くいったようで何よりだね。


「あー、うーん、ミアン君、いい自己紹介だったと思う。

ただ、言っていなかったが、校内で先生の許可なく魔法を使わないようにね」

「う、ごめんなさい。……あはは、こんな風にちょっと調子に乗っちゃう時もあるので許して下さいね」


くすくす、という笑い声が其処彼処から聞こえてきた。少し恥ずかしそうに謝る。

クロードの方を見ると口パクで「あざとい」の一言を頂いた。うーむ、バレたか。


その後も特に問題は起こらずに自己紹介は進んでいった。

やっぱり、こうした自己主張の機会では、色々と個性が出て面白いものだなぁ。

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