三十七 王都に着いて
王都に着くと、僕達は貴族街にあるサンダーゲート伯爵家の邸宅に来ていた。
ロイグにある本邸よりは小さいが、別邸と比べれば大きい。
カイさんとグレンは客人として少し招くならまだしも、何日も滞在をして貰うわけにはいかないので、街に入ったところで別れている。
邸宅の中に入ると執事や給仕、合わせて十人くらいが広間の両脇に並んでいた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「お帰りなさいませ」
老練の執事が恭しく挨拶をすると、全員が一糸乱れぬお辞儀をした。その様は、一朝一夕の訓練で成せる技ではないだろう。
邸宅の中も埃一つ落ちていなさそうで、毎日しっかりと手入れをされている事が分かる。
父様と母様は半月程度、僕は寮の空く一週間程度を、この邸宅で過ごす事になる。
父様は仕事を兼ねて王都に来ているので、その合間を縫って家族三人で王都を見て回る予定だ。
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今日は父様は朝から公務に行っている。
僕と母様は、寮に入った時に必要になる制服や部屋着、日用雑貨を買い揃える事になった。
父様も来たそうな顔をしていたのだけれども、お仕事はしっかりとして貰わねば困るのである。
貴族街に店の類はない。不特定多数の人間が出入りする場所を作るのは、防犯の上で良くないからだ。
一番栄えているのは、初代国王像と噴水のある広場で、広場の一角に冒険者ギルドもある。
中央交差点にほど近い、職人街の一角に貴族の出入りする店があり、食料品、日用品など複数の品目を扱う、前世で言うスーパーマーケットのような商店もあるようだ。
職人街の奥ほど、一見お断りの職人気質の強い人がお店を出していて、冒険者はこちらを利用する事が多い。
平民街や学生街のお店は、基本的に安価なものを取り扱っている。
平民街は日用品や衣料、食料品、それから酒を扱う飲食店。
学生街は雑貨や飲食店──以前にグレンとも入った事がある、カフェスタイルのお店──が軒を連ねている。
母様と一緒に、複合商業施設に入ったのだけれども、これがなかなかに盛況だ。
買い物が一箇所で済むのは便利だもんね。
……そう言えば、日用品を母様と二人で買いに来るのは初めてだ。
ロイグにいる頃は大体の買い物は使用人が済ませてくれていたのだ。勉強と訓練に没頭していて気付かなかったけれど、意外と箱入りだったのかもしれない。
あ、でも練兵場には行ってたし、実力と経験が伴ってからはよく魔物の出る森に入ったりもしていたから、そうでもないのかな。
学校の制服を取り扱う店は複合商業施設内にはないので、その他の衣料品から買っていく事になる。
貴族も立ち入る店だけあって一着一着がそこそこのお値段だ。
かと言って、今は伯爵家の看板を下げている──別に喧伝しているわけではないが──以上、平民街のお店に行くわけにはいかない。
人の口に戸は立てられぬ。どこから噂が漏れるかは分からないのだ。
恵まれているのは間違いないけれど、貴族という立場もなかなか難儀だね。
複合商業施設で買った物は屋敷まで纏めて届けて貰えるようだ。
買った物を持って歩くのは大変そうだな、なんて思っていた辺り、小市民なところは抜けていない。
制服を買う為に学園指定のお店に行き、採寸をして手直しをしてから、こちらも後に届けて貰う手筈になった。
「これで、必要な買い物は終わりですか?」
「そうねぇ。勉強道具は学生街の方が揃っているし……。
疲れたかしら?」
「母様に買い物に付き合って貰っている立場で申し訳ないのですが、少しだけ」
「あら。ミアンの晴れ着を買うのよ?私は楽しかったわ」
あぁ……そういうものなのかな。
僕にも何れ、子供ができたら分かるのかもしれない。
「それじゃあ、カフェに入って休憩しましょうか」
「はい、ありがとうございます。母様」




