三十六 同行
翌日になって、カイさんの体調も万全に整ったようだ。
グレンを気に入ったらしい父様は、なんやかんや言いつつ二人を伯爵家の馬車に乗せていた。
カイさんは父様が伯爵である事、回復魔法を掛けて貰った恩と、豪華な馬車の同乗に恐縮しきりである。
うーん……ガチガチに緊張しているのを見ると、少し可哀想になるなぁ。
グレンの方はというと、敬語こそ使っているものの、どこか気安さを感じさせる。
父様もそれが嬉しいようで二人の間で通じ合うものがあったのだろう。
「グレン君は素晴らしい少年ですな。これもカイ殿の教育の賜物でしょう」
「いえ、私など何も。多少、訓練で剣を握った事があったので、最初こそ教えていましたが、あっという間に追い抜かれる始末で……お恥ずかしい限りです。
その後はグレン自身が腕の立つ冒険者に声を掛けて教えを請うてました。正直、私には勿体無いくらいの息子です。
ジーア様こそ、ミアン君は素晴らしいお子様です」
「む、それこそ私は仕事に感けて何も……。
確かに、ミアンも手の掛からん子ですな。ソラスの接し方も良いのでしょう」
なんて会話を眼の前で繰り広げられても困る。
僕とグレンと、母様も一緒に目を見合わせて苦笑している。
……たまに思うのだけれども、両親には、僕が前世の記憶と呼べるものを持っている、と告げた方が良いのだろうか?
パッと見て分かってしまうものならば、露見してからではなく、自分から伝えるのが良いと思っている。
でもこれは、胸の内にしまって墓の中まで持って行けば、誰にも分からない事だ。
秘密を打ち明けて欲しいと思う人もいるだろうけれども、知らない方が良い事はある。
最後まで騙し通すのが優しさで、良心の呵責に負けて話してしまうのは弱さなのか。
そして、もう一つ。
本当の事を伝えたとして、相手に受け入れて貰おうなんて烏滸がまし──
「ぴっ!?」
耳を摘まれたので、驚いて横を見るとグレンだった。
「何を考えてるのかは分からないけど……ま、何かあったら話してくれ」
「……あぁ、うん、ありがとう」
そう言えば、よく感情が耳に出るって言われてたっけ。
直そうとはしたんだけれども、考え事をしていると、無意識のうちに動いてしまうんだよなぁ。
……んー。グレンにそのうち、相談をしてみても良いかもしれないね……。
「うむ。二人は本当に仲が良いのだな」
「はい、話をした期間なんて一ヶ月かそこらなのに、不思議です」
「ミアン。仲良くなるのに時間なんて関係ないのよ?」
あぁ、確かに。それはそうだ。
「変わった子だけれども、グレン君、宜しくね」
「こちらこそ、迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いします」
「ふふ、大丈夫よ。絶対にミアンの方が騒動を起こすから」
「えー?母様、なんか地味に酷くないですか……」
僕が騒動、ねぇ。
品行方正で行くつもりだし、いっそ生徒会長になってやろうとすら思っているのに心外である。
……まぁ、僕よりファラの方が生徒会長は似合いそうだが。
そんな一幕はあったものの、王都への道程は順調に進んでいった。




