三十五 父とグレン
部屋の戸締りを確認して、グレンも連れ立って宿を出た。
父様がグレンに会いたがっていた、と伝えると、グレンは日が沈む前までならと時間を作ってくれたのだ。
ふぅむ、てっきり貴族である父様と会うのは嫌がるかな、と思っていただけに意外だった。
「グレン君は剣を扱うのが上手いと聞いていたけれど、立ち振る舞いが歴戦の戦士と同じね。
正直、信じられないくらい」
「そう言って貰えるなら嬉しいです」
「ふふ……でも、ジーアも凄いわよ?」
「ミアンの父さんですよね。……楽しみです」
グレンは非常に良い笑顔である。僕もちょっぴり楽しみだ。
自分では実力を測る事ができない猛者同士の邂逅というのには、心躍るものがある。
僕達が宿に入ると父様は村長の家から戻っていた。
グレンを一目見て、ピンときたようだ。
「君が、グレン君かな?」
「はい、ミアンとは仲良くさせて頂いてます」
「なるほど……良ければ、少し手合わせをしないか?」
「父様、まだ会ったばかりです」
「いや、ミアン、俺からもお願いしたい」
あぁ、二人とも非常に好戦的な笑みをしてらっしゃる。
なんか僕の周りにはなんでこう、戦い好きが多いんだろう。
……まぁ僕も人の事は言えないか。
母様は普段とあまり変わらず、にこにことしている。
僕達の泊まっている宿は、以前のものよりもう少し広い、庭園と呼べるようなスペースがある。
だが、よく手入れをされている庭園で剣を合わせるわけにはいかないため、少し歩いたところにある広場まで出てきた。
木剣を持って向かい合う二人からは、既にピリピリとした雰囲気が醸し出されている。
審判はいない。多少の怪我なら、母様と僕がいるから治せるだろう。
父様は先手を譲るつもりのようで、悠然と構えている。
「行きます!」
一声掛けてから踏み込んだグレンは、今までより遥かに速い。
体格が大きい、とは言えあくまで同世代の話であり、まだ六歳であるグレンは百四十センチメートルを下回る。
片や父様の身長は百八十センチメートル以上だ。
その大きな身長差にも関わらず、グレンは正面から剣を合わせた。
父様の身体強化はとても強い。元より屈強な身体が、魔法により更に強化されるのだ。
膂力でグレンに勝つ道理は、ない、と思っていたのだが……そう言えばミノタウロスを転がしてなぁ、あいつ。
「剣の神童……噂に偽りはないようだ!」
一歩も引かず剣を合わせるグレンに、父様も驚いた様子だ。
押し込み、引き、流し、合わせる。
そうした力と力のやり取りが剣の一合毎に、信じられない速度でなされている。
グレンが鋭い三つの剣閃を放ったかと思えば、父様は三つを払い落として更に、脳天から切り落としを見舞う。
どちらも負けてはいないが……力を巧みに操るグレンに対し、父様は技量に加えて大きな膂力で細かな駆け引きを全て吹き飛ばすこともできる。
僕が見る限り、父様が優勢だ。
父様の大上段からの斬撃を、グレンがいなす。
一瞬の鍔迫り合いの合間。
押し込まれた力を受け流すのが、上手くいかなかったのか。
それとも、上手くいったが故に、大きな負荷が掛かったのか。
グレンの扱う木剣は呆気ないほど、ばきり、と音を立てて折れてしまった。
「ぐ……参りました」
一瞬固まったグレンは嘆息してそう告げた。その顔には悔しさが滲んでいる。
「あと数合、剣が保てばグレン君の勝ちだったかもしれないな」
「えっ?」
「あのまま続けていれば、俺は致命的な隙を作らされていただろう」
「いいえ。だから少し強引でも剣を折りに来たのでしょう?
保たせられなかった、俺の負けです」
うーん……僕には全然分からなかったが、当人同士の間では、決着の流れが見えていたみたいだ。
一見悪手が続いていても、達人同士の戦いは決着が付かなければ、素人には分からないようなものなのだろうか。
「こんな若者がいるとはな……気に入ったぞ」
おお、どうやら父様のお眼鏡に適ったようだ。男二人で固い握手を交わしている。
これは本当に、メルロー姉様との縁談が進むのかもしれないなぁ。
思えば投稿を始めてから一月が経ち、評価ポイントが200を超えました。
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