三十二 年末年始
サンダーゲート伯爵家の家族説明回です
季節が移ろい大晦を迎えた。
森の木々は葉が落ち、遠くに見える山の景色は大分寂しくなった。
サンダーゲート伯爵領は温暖で過ごしやすい気候なので、雪が降るのは滅多にないのだがそれでもやはり、冬は寒い。
この世界も年末年始は家族が一堂に会する事が多い。
それは貴族の家にあっても変わらないようだ。
遠くの学校に行っていても、夏季と冬季は帰省のための長期休暇が入り、家族で過ごす時間を作れるのだ。
今年は、まず家長であるジーア父様。
正室のフィーア様と、長男ファルガ兄様と三男ベッグ兄様。
一人目の側室ミューズ様
ミューズ様の息女で、長女のマリー姉様は今年の半ばに侯爵家へ嫁いだらしいので、会う機会は少なそうだ。
二人目の側室であるトレス様に、次男アルド兄様と次女メルロ姉様。
それにソラス母様と四男の僕、ミアン。
マリー姉様以外の十人は、本邸の大食堂に揃っていた。
「今日は良く集まってくれた。今年も無事に終えられる事を嬉しく思う。
一同が揃う機会は滅多に作れないからな。今日は、ゆっくりと親睦を深めよう」
父様はそこで一旦話を区切ると、僕達全員を見渡した。
「グラスは揃っているな?
……うむ、それでは、皆の更なる発展と健闘を願って、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
目の前には伯爵家の料理人が、腕によりをかけて作った料理が並んでいる。
ある程度お腹が膨れるまでは隣に座る母様とお話をしながら舌鼓を打つ。
普段食べているものだって、とても美味しいものなのだけれど、年末や年始のご馳走はまた別格だ。
僕も育ち盛りなのである。あまり身長は育ってないけれど、育ち盛りである。きっと。
来年からは僕も夏と年末年始以外は、王都のグローミュートで過ごす事になる。
高等部の卒業をするつもりなので九年間、あまり家に戻らないのだと考えると少し寂しい気もする。
母様を一人残して行くのだし……まぁ子供が心配をするのもおかしな話か。
ちなみに父様からは長期休暇は必ず帰ってくるように懇願された。
家族と過ごせる時間は、実はそれほど長くはない。
余程の事がない限りは戻ってこようと思っている。
自分一人ならばもっと早く行き来が出来るだろうしね。
「よう、ミアン。王都の学園に受かったんだってな」
なんて話し掛けに来たのは、三男のベッグ兄様である。
七つ年上の彼は、今年で十三歳になった。
僕は彼を嫌いではないし、彼も僕を嫌ってはいないと思うが……あまり人に好かれるタイプではあるまい。
そろそろ考え方を変えなければ後で苦労するだろう。
一度根付いてしまった考え方は、歳を経るごとに強固で頑なになり、修正には多大なる労力が必要になる。
前世では自分の性根を治すのは非常に困難だった。
今だってまだ直らない部分があるくらいだ。
「ベッグ兄様。ありがとうございます」
「でも主席合格じゃなかったんだって?
伯爵家として、胸を張れる成績を残さないとダメじゃないか」
「はい、力及ばず恥ずかしい限りです。これから益々精進しようと思います」
「──ベッグ。国立クローヌ中央学園は、非常に競争率が高い。
合格しただけでも褒められるべき事だよ。
それに、ミアンはミノタウロスを倒したというじゃないか。
俺は兄弟として誇らしく思うぞ」
そう僕をフォローしてくれたのはファルガ兄様だ。
「いや、ファルガ兄様。ミノタウロスなんてランク6の冒険者が何人かいれば倒せますよ」
「ん、む?……まぁ、そうだが」
ランク6は冒険者の生涯平均ランクを超えている。
そこまで到達できるなら、十分な実力を備えていると思って相違ない。
だが、ランク6の冒険者が実際にどれほどのものなのか、ベッグ兄様は知らない。
人伝か、本による知識か……何れにせよ、体感を伴わない。
ファルガ兄様は、どう伝えたらいいかねぇ?という困り顔なのだが、ベッグ兄様は自分の意見が正しかった為に、反論できないのだと勘違いしてしまっている。
この辺りはインターネットで調べて、知った気になってしまっていた僕も同じだった。
目で見て、肌で感じなければ、その本質に触れる事は敵わないのに。
「ま、頑張れよ」
「はい」
そう言うとベッグ兄様は正室のフィーア様の元に戻って行った。
「ふぅ、ベッグも別に悪いやつじゃないんだが、どうも視野が狭いな……」
「それは、分かります」
このままだと上手くいかない事が増えるだろう。
壁にぶち当たった時に自分の実力不足を認めて、前向きに努力をしていけるかに掛かっている。
そこで自分の弱さから目を逸らしてしまえば……根拠のない自信に縋って生きていくしかなくなってしまう。
でもこれは、妾の子で末っ子である僕が言っても効果はないだろうなぁ。
ベッグ兄様に心から敬愛する人ができて、その人が本気で忠告をすれば、聞くかもしれない。
そんなこんなで今年最後の夜は更けていった。
噛ませ犬の臭いがするベッグ君
第一夫人の生まれであるため、家内での立場的には上です
主人公に話し掛けたのは、実は彼なりに気を遣った結果ではあるのですが……




