三十一 帰宅
行きはよいよい帰りは怖いなどと言うけれども、特に何か問題が起こるわけではなく、弱い魔物が散発的に出てきただけだった。
……まぁあれは違う意味だから当たり前か。
ベァナ村でグレンと再会の約束をしてから別れ、一路ロイグへ向かう。
知り合ってから一ヶ月程度だけれど、初めて出来た同年代の友人なのでまた会うのが楽しみだ。
故郷である都市ロイグに着き、本邸へ入ると、すぐに父様が飛んできた。
合格の証書を渡せば、滂沱の涙を流して喜んでくれた。
それだけ喜んで貰えると、僕も凄く嬉しいんだけれども……短く揃えた髭は頂けないなぁ。
父様、痛いです。
「母様、ただいま帰りました」
「おかえりなさい。王都は楽しかった?」
「はい、とっても。得難い友人もできました」
「それならよかった。後で、土産話を聞かせて貰えるのを楽しみにしているわ」
公務に一区切りつけて別邸にきた父様と母様にお土産を渡しながら、ここ一ヶ月であったことを話した。
父様はミノタウロスの話になった時に顔面蒼白になり、次の瞬間にドンフォールト子爵に抗議をしてくる!と顔を赤くしたりと忙しい。
母様も流石に眉を顰めていた。ミノタウロスに関しては両親の心配も致し方がないところだ。
実際に、もしも僕とグレンが普通の六歳だったなら、命の危機だっただろう。
護衛についていたクラフトさんとマイトさんは正義感に溢れた青年だったから、命に代えても逃がしてくれていたかもしれないが。
そして次に両親が食い付いたのはグレンに関してだった。
「ドンフォールト子爵領に剣の神童と呼ばれる子供がいるのは知っていたが、その子か。
聞いているだけでも凄まじい技量だな……まぁ、うちのミアンも負けていないがな!わはは!」
親馬鹿である。確かに、魔法に関してはそうかもしれない。
ただ剣術の腕に関してはグレンが遥か格上だ。
まぁ前衛と後衛で丁度バランスが取れているとは思う。
「ところで、そのグレンって子は、良い子なのか?」
「はい、とても」
「そうか。見た目はどうだ?」
「え?……えぇと、鳶色の髪に、碧色の瞳です」
「う、うむ──いや、格好は良いのか?」
「はぁ。顔立ちが整っているので、将来は美丈夫になるのではないでしょうか」
うーん、青田刈りでサンダーゲート伯爵家に婿として迎え入れるつもりなのだろうか。
確か二人目の側室トレス様の娘で、サンダーゲート伯爵家の次女、メルロ姉様は十一歳のはずだ。
五歳年上……ちょっと離れているように感じるけれども、グレンの好みはどうなんだろう?
「うむ……今度、連れてきなさい」
「はい。機会がありましたら」
でもグレンは堅苦しいのは好きじゃなさそうだなぁ。
将来はやはり騎士ではなく、冒険者を目指すのではないだろうか。
まぁ本人が判断する事だから、まずは話だけでもしてみるのは良いのかな。
「あ。あと、ブリオングロード公爵家のファラ様にも良くして頂きました」
「ほう、カリーナ卿のご息女か。夜会で会った事があるが、とても聡明で礼儀正しい子だったな」
「はい。今回の試験で最も優秀な成績を収め、新入生代表にも選ばれていました。
……ところで、カリーナ卿というのは?」
「ブリオングロード公爵家は代々優秀な女性を多く輩出していてな。
女性の当主も多いのだが、今代当主のカリーナ卿もまた素晴らしい人物だぞ。
今度会った時には私からも世話になったと、挨拶をしておこう」
「ありがとうございます」
家族の団欒は夜遅くまで続き、とても久し振りに三人で川の字になって眠りについた。
因みにお土産に関しては、伯爵という立場からすれば大した物ではないのに、狂喜乱舞する程に喜んで貰えた。
いやはや、苦心して選んだ物だけに、こちらも嬉しくなるね。




