二十九 王都散策
グレンとは宿が違うため、待ち合わせ場所を決める必要があった。
グローミュートは中央の噴水が一番目立って分かりやすいので、そこを待ち合わせ場所にしてある。
他にも待ち合わせをしていると思わしき人々がいるけれど、噴水の周りをぐるっと見て回れば合流はできるだろう。
そのぐるっと見て回る役はグレンに任せて、僕はボーッと待っているのである。
二人でぐるぐるしていたらコントでしかない。
携帯電話で居る場所を正確に伝えられた前世は本当に便利だったのだと痛感する。
……思えば前世の幼い頃も携帯電話なんてなくて、厳密に待ち合わせの時間と場所を決めていたなぁ。
うーん、携帯電話のように、特定の相手と話ができる魔法はないのだろうか。
魔法は基本的に万能だけれども、生き物に直接作用するような魔法は、ほぼない。
回復魔法は存在するが、相手を信頼して治療を受け入れようとするか、意識がなくて抵抗が出来ない状態でゆっくりと浸透をさせるしかない。
呪いの類は更に難しく、人は無意識のうちに自分が自分であろうとするので、その無意識にすら抵抗をされてしまう。
それでも無いわけではないようだが。
自分の内魔力には無類の影響力を持つが、その代わりに自分以外の内魔力に影響力を持つことが難しいのだ。
ふむ。
じゃあ、例えば──自分の魔力を宿したアンカーのようなものを用意し、その魔力を目掛けて声や音を送る──とかどうだろうか。
あまりに遠い距離は無理でも、近くならば通るのではないだろうか。
基地局の様な中継点が作れれば遠距離でも……なんてつらつらと考えていたら、人ごみの間からグレンが現れた。
「おお、いたいた。待たせてごめん」
「おはよう、グレン。人が多いから、見付けるのに苦労したでしょ?ありがとね」
「あー。まあ思った以上に難儀したなぁ」
「だよねぇ……ま、無事に待ち合わせができて良かったよ。何処に行く?」
「俺は特にする事がないから、ミアンに着いて行くついでに街並みをゆっくりと見物するよ」
「そっか。じゃあ、アクセサリーを見たいから、西に行ってみない?」
「おう、そうしようか」
僕が父様と母様に買っていこうと考えているものは、父様には空色の宝石を基調としたカフスボタン。
母様には真紅の宝石をあしらったヘアバレッタだ。
良いものがあれば何でも構わないのだけれども、パッと思い付いたのはそれくらいだ。
目に付いたアクセサリーショップに片っ端から入ってゆく。
子供二人だけれど、服装から貴族の子供だと判断されているようで、邪険にされることはない。
僕も予算と欲しい物をはっきりと告げているしね。
当初の予定通り、父様と母様のお土産を買った後は、試験の為に連日通っていた学生街に来ていた。
少し気になっていて、入りたかったお店が何軒かあるのだよね。
そのうちの一軒。僕とグレンは落ち着いた雰囲気の喫茶店の中にいた。
落ち着いた色のワンピースに黒のエプロンを掛けた女性の店員さんに注文をする。
「俺は紅茶だな。ミアンは?」
「僕は珈琲を──んー、あと、ショートケーキかな」
なんだかんだでアクセサリーを見て回るのに時間が掛かり、太陽は中天を過ぎている。
あまり遅くまでふらふらしているわけにはいかないから、休憩をしたら喫茶店を出て、軽く街を見て回って帰途につく事になるかな。
暫くして注文した物を先ほどの女性が運んで来てくれた。
グレンは珈琲に口を付ける僕を見て、少し驚いているようだ。
「どうしたの?」
「ミアンは珈琲に砂糖は入れないのか?」
「うん、基本的には。特に今は、ケーキがあるし」
「そうか……苦くないか?」
「んー、このお店のはそこまでじゃないね。
ちょっと飲んでみる?」
珈琲とついでにショートケーキを押し付ける。
グレンは少し嫌がったけれど、何事も経験なのだ。
「あぁ、まぁ……。ケーキと合わせれば美味しいかな」
「ふふ、珈琲は苦手なの?」
グレンの苦手な物って初めて見付けたかもしれない。
「いや、俺はミアンが珈琲を飲めるってのが凄く意外だよ」
「そうかなぁ。色々個性があって楽しいんだよ?」
「何れ俺にも分かるようになるのかねぇ」
と、苦笑をしながら紅茶を啜る。
「そろそろ行くか?……と、その前にちょっとトイレに行ってくるわ」
「はーい」
そう言うとグレンは席を立った。
王都のお店や施設は、衛生面が整えられていて、魔道具を利用したトイレやお風呂がついていたりする。
……うーん、魔道具作りを学んだら電話代わりになるような物も作れるかな?
「すみません。チェックをお願いします」
まぁそれはさて置き、グレンがいない間にお会計を済ませておく。
長い時間、買い物に付き合わせてしまったお礼のようなものだ。
ほどなくしてグレンが戻ってきた。
「おかえり。お会計は済ましたから、行こう?」
「ん?いくらだった?」
「今日は僕がご馳走するから、お金はいらないよ。
買い物に付き合ってくれたお礼」
「別に礼をされるようなことじゃないだろ。
ミアンが居たから俺も王都観光が出来たんだし」
そんな具合に、俺も払う、お礼だから、と押し問答が始まったのだけれど、今回は押し切った。




