二十八 試験終了
最終試験は恙無く終わった。
決闘騒ぎに触発されて腕試し程度の決闘が他にも二、三件あったくらいだ。
試験官に終了を告げられて控え室に戻り、ドレスを脱いで化粧を落とすと、漸く人心地がついた。
ドレスは動き辛いし、化粧は顔に薄皮を一枚、被せてあるようで落ち着かなかった。
毎回これに耐える女性は凄いなぁ。
慣れれば何とでもなるのだろうか。
試験結果の発表は二日後。
その内容を確認したら、サンダーゲート領の都市ロイグへ戻る事になる。
今回のグローミュートへの旅は、たくさんの収穫があった。
入学試験は横に置いておいても貴重な体験ができたと思う。
少し旅に出る程度でも、自分の知らないものを実際に見て、触れるのは良い勉強になる。
ましてや、これだけの長期に渡る旅になれば尚更なのかもしれない。
明日はグローミュート滞在の日のうち、完全に何も考えずに休める日だ。
「グレン、明日の予定は?」
「ないな。適当に街を見て回ろうかなってくらいか」
「だよね。じゃあ、一緒に街を見て回らない?」
「おぉ、いいな。一人じゃ多分、すぐに飽きるだろうからな」
僕は父様と母様へのお土産を見るつもりだ。
グレンは……あまり無駄遣いはできないだろうし、村の人達のお土産だってグレンのお父さんが用意するだろう。
街並みだけを見て歩いていても楽しいとはいえ、あまり長くもいられないよね。
「二人共、お疲れ様」
そう言いながらにこやかに話し掛けてきたのは、ファラだ。
ドレスから大人しい私服──とは言え公爵令嬢だけあって、服の質自体は最高級だが──に戻っているのに身に纏う優雅さが損なわれない辺りが凄い人だ。
美しい立ち振る舞いと姿勢は貴族として見習わねばなるまい。
……そう言えば、結局グレンはファラとは踊らなかったようだ。
まぁファラの周りには常に数人の人が居たから仕方がないのかな?
「ファラ様も、お疲れ様でした。今お帰りですか?」
「あら、つれないのね。同じ学園の生徒になるのだから、お互いに敬語はなしにしましょう?」
「ふふ、まだ受かるか分かりませんから。少し気が早いかと」
「ミアンが合格しないのであれば、今年の合格者は居ないかもしれないわね」
「そらそうだなぁ」
グレンは切り替えが早いらしく、ファラに対しては割と気安い。
剣で語り合った仲、ということだろうか。
「ところで……ミアン、話は変わるのだけれど。
私の侍女になる気はないかしら」
おっと、これはびっくり。
今の僕の顔は鳩が豆鉄砲を当てたれたような顔をしているだろう。
侍女とは言うが、公爵令嬢の侍女というのは、中々なれるものではない。
地方領主の、ましてや末っ子にとっては栄達と言っても良い──ただし、僕が女の子であれば、ね。
ファラは僕の顔を見て、驚かせる事に成功したせいか、ニンマリとした笑みを浮かべている。
グレンは必死に笑いを堪えているけれど……これは僕の間抜けな顔と、ファラの勘違い両方に対してだな。
うん、後で叩こう。
「有難いお話だとは思いますが、僕はファラ様の侍女にはなれません」
おいこらグレン、聞こえたぞ。吹き出すなよ。
ファラは意外そうだ。まぁ、そりゃそうだよね。
「……何故かしら。自分で言うのもなんだけれど、良い条件だと思うわよ?」
「僕は、男なので」
「え?」
普段は凛としたファラが、年相応の女の子に見えるくらい、ポカンとした表情をしている。
うーん、図らずもさっきとは立場が逆転してしまった。
「ん?……あ、冗談、かしら?」
「これが、百パーセント、本気でして」
呆気に取られたファラは、助けを求めるように、グレンの方を見た。
神妙な顔でグレンは頷いたが、口角はヒクヒクと痙攣している。
この野郎、人をネタにして楽しみやがって。ちょっとイラッとした。
「でもパーティーは、ドレスで……あ、なるほど」
僅かな情報から僕が言っている事が推測ができたようだ。
やっぱりファラは聡い。
「そう、そうなのね……。でも、大丈夫!
確かに、侍女にはしてあげられないけれど、私は貴女の事を女の子だと思っているから!」
ファラは真摯な表情で僕の手を両手で優しく包み込んだ。
あああぁ。もう!何もかもが!もう!盛大に違う!
とうとうグレンの腹筋は崩壊したようだ。
四つん這いになり、地面をバンバンと叩いている。
すげーイラッとした。
言葉を尽くして説明をしたけれど、ファラは最後まで首を傾げていた。




