二十七 最終試験4
最終試験も半ばに入って、最初のダンスの時間がやってきた。
ダンスミュージックはどうやら在校生の先輩方が演奏をしてくれるようだ。
流れる曲は、僕でも知っているくらい、この世界では有名な曲。
テンポが速くも遅くもなくて、踊りやすいし導入となる一曲目には丁度良い。
「よし、行くか」
と言いつつ、僕の手を取るグレンは少し緊張しているみたいだ。
剣を持って強者と戦う時は緊張どころか大喜びするくせ、意外なところで小心者だ。
「グレン、リラックスリラックス。
ミスをしたって相手は僕なんだから大丈夫だよ」
「いや、そりゃ分かってるけどな……」
まぁ多少のミスなら僕が挽回すればいいし、一緒に練習をしてたんだから大丈夫だろう。
なんて思っていたのだけれど、グレンは想像以上に上手くて、少し不慣れな部分はあれどミスはない。
二人での練習を終えた後も自分の宿で細かな練習をしていたんだろうな、と思える動きだ。
これなら最初からファラと踊っても問題なかったんじゃないかな。
ファラは社交界の経験も豊富だろうから、フォローだって僕より上手だろう。
「んー、これなら誰と踊っても大丈夫じゃない?」
「そうか?まだ今一、分からない事も多いんだが」
「後はノリと勢いで何とかなるよ。
コツは振りを間違えても、素知らぬ顔で踊ることかな」
「そら難しいな……」
まぁ、確かに。
一曲目が終わってグレンと離れると、様子を見ていた女の子が何人か駆け寄って行った。
さっきの決闘を見ていてグレンのファンになったのか、数が増えている。
僕は遠巻きに見られているのだけれど、誰も近寄ってこない──と思っていたらクロードが来た。
「やぁ、お姫様。僕と一曲踊って頂けませんか?」
クロードはやや芝居掛かった仕草で僕をダンスに誘う。
まぁ、ここでお姫様じゃない、なんて言うのは野暮だ。
「はい、宜しくお願いします」
にこりと笑って応えた。
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踊り始めてから少し経ち、少しだけ眉を八の字にしたクロードが、唐突に口を開いた。
「ミアン、その……利用しちゃって、ごめんね」
「あぁ、目立っていたからね」
「──ほんと、驚くな。ミアンって本当に同い年?」
おう、そりゃ聞かないお約束だぜ。複雑な事情があるからね。
でもそれは、お互い様だ。
グレン、ファラ、クロード……皆異様なほどしっかりしている。
僕が昔、六歳だった頃は、ちょっとした事でぴーぴー泣いていたのにな。
「ミアンは魔法試験も、今も、試験官の注目度は抜群だと思う」
「こうして一緒に仲良く踊っていれば、クロードも試験官の目に……良い意味で触れる、と」
「──うん、そうだね」
「クロードは優しいんだね」
「……、何故?僕はこうしてミアンを利用しているのに」
「だってそれ、別に言う必要はなかったでしょ?
既にこうして、仲良く一緒に踊っている事実があるんだから。
僕がそれに気付いていても、いなくても、クロードにとって問題はないわけじゃない。
それでも口に出したのは、きっと罪悪感があるからだよね。
そして、そうした感情を抱けるクロードは、優しいなって思っただけ」
彼は目を見張った後に、穏やかに笑った。
「……あは、こりゃ、参ったな。
あ、でもさ、それが良い人に思わせる演技だったら?」
「ふふふ、そこまで綺麗に騙してくれるなら、いっそ清々しいね」
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もしも都合が合えばもう一曲踊ろう、なんて約束をしてクロードと別れた。
彼は社交性の塊のような人間だ。他にも約束を交わした人は沢山いるのだろう。
僕はというと、やっぱり視線は感じるものの、誰にも話し掛けられないので、目的の人物、ローセス君を探した。
彼は少しマイペースなだけで、根は真っ直ぐで純朴な少年だ。
それを分かってくれる人がいれば良いのだけれど。
「ローセス君」
なんて思っていたら、壁際で暗い顔をしたローセス君を見付けた。
「あ、ミアン。……どうしたんだ?」
「ダンスのパートナーは見付かった?」
ローセス君はグッと息を詰まらせて、小さく首を横に振った。
んー、ちょっと不器用だもんね。
あとは身体が大きいのも不利な点かもしれない。
少し近付き方を考えないと威圧感があるからなぁ。
「さっきの騒ぎもあって、話し掛けるだけで怖がられて……。
あ、いや、自業自得だって分かってるし、ミアン達を責めてるわけじゃないんだ」
「うん、分かるよ。……諦めるの?」
「諦めたりなんかしない、けどさ」
ローセス君の顔は俯いていて、表情も暗い。
瞳も少し潤んでいる。
「でも少し、辛くて心が折れかけてたんだね」
「う……いや……うん。そうだな……」
「仕方ないよ。人に逃げられたり、怖がられるのは辛いもの。
でも、じゃあ、あと一度だけ頑張ってみよう?」
「……ああ、そう、だな。って、一度だけ……?」
僕はただ、笑顔でローセスを見るだけだ。
困惑したローセスと、僕との間で短くない、沈黙の時間が流れる。
んーまぁ、分からないかな。
「ね、ローセス君。……僕はまだ誘われてないよ?」
「えっ?あ、確かに、誘ってない、けど」
僕をちらりと見ると、困惑の表情を強めた。
もう、僕がこれ以上何も言う事はない。
ローセス君は少しの時間、逡巡した後にガバッと凄い勢いで頭を下げた。
「俺と、踊って下さい!」
良く出来ました。
「……はい、喜んで」




