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二十六 最終試験3


さて、と。

グレンの様子を窺うと、口角が上がり、ギラギラとした好戦的な瞳で僕の方を見ている。

そう言えば、こんな目で人に見られたのは初めてかもしれない。

稽古をつけてくれた騎士のカールさんも、父様や母様も、ファルガ兄様も。

真剣に立会いはしても、それはあくまで稽古の範疇を出る事はなかった。戦闘狂でもないし。

グレンは僕を一人のライバルとして見ているのだ。ふふ、ちょっと嬉しいな。


「準備は良いかな?」


黙って首肯する。グレンが相手なら最初っから全力だ。

周りの動きが急激に遅くなる。


ゆっくりと試験官の手が振り下ろされ、長い、長い始めの合図が出た瞬間に、跳んだ。

グレンも目を見張ったが、頭上で逆さになりながら剣を振り下ろす僕をしっかりと認識している。

余裕を持って剣を受け止められてしまった。

グレンは空中にいる僕を逃す気はないらしく、二度、三度と切りつけてくる。

狙いが的確で非常に受け流し辛いし、剣速も早い。

やっぱりこいつも知覚速度を早めているようだ。

で、恐らく着地の瞬間を狙っているんだろう。

防げないように腕を上手く誘導されているのが分かる。


でも、僕だって無策に跳んだわけじゃない。


足の裏に風と火の魔法を併用した即席の足場を作り出し、宙を蹴る。

文字通り爆発的な踏み込みと共に袈裟懸けに振り下ろしたが、グレンは軽く一歩下がると、そこを僕の剣が通り過ぎた。

彼は流れる様に一歩を踏み込んできて、そのまま突きを放つ。

僕は振り下ろした剣をVの字に跳ね上げてその突きを弾くと、グレンはそのまま後ろへ距離を取った。


「いいね。今度はこっちから行くぞ」

「え、やだよ。来るなよ」


僕の言葉には御構い無しで、グレンが突っ込んできた。

こいつに攻めさせる前に決めておきたかったな……だからわざわざ変則的な速攻をかけたのに。


グレンの剣は苛烈だった。凄まじい速さに加えて、理論と直感を併せ持った攻め方をしてくる。

あの試験官がやり辛そうな顔をしていたのが身に染みて分かる。


僕もグレンの裏をかく打開の一手を打つけれど、それすらも想定されていたかのように、潰されてしまう。

ガンッと強く剣を弾かれて、身体が開いたところに、音もなく切っ先が迫っていた。


キン


額に軽く当たった剣が、高い音を立てた。


「それまで!」

「む……ぅ」


直接当たっていないし、痛いわけではないけれど、額を抑えた。

悔しい。

グレンはそんな僕の表情の変化を読み取ったらしい。


「相手が誰であれ剣だけの戦いで、負ける気はないんだよ。

ま……何でもありだったらこうは行かないさ」


グレンはそう言って、ポンと僕の頭の上に手を置いた。

うーん、魔法を使ってもなんか、避けて切って流されて距離を詰められるイメージしか湧かないわ。

こいつ今までどんな生活をしていたんだろう?


---


「次は私の番ね。疲れていた、なんて言い訳は聞かないわよ?」

「おう、するわけないな」

「二人とも、準備は良いですね?」


二人の──特にファラの鬼気迫る雰囲気は、こちらまで伝わってくる。

彼女には彼女の矜持があるのだろう。


「では……始め!」


そうして始まった戦いの勝敗は、一瞬で決した。


僕と同じ様に、グレンに攻められれば防戦一方の末に負けると思ったのだろう。

残像が生じるほどの速度で飛び込んだのはファラだ。

姿勢は低く、ローセスの時よりも更に鋭く、速く。下段から閃光と見紛う刺突を放った。

対して横合から力を去なすグレン、食らい付くファラ。

一瞬の交錯で複雑な力と技の駆け引きが行われ……斯くして刺突は弾かれ、返す刃が雷のような切り下ろしを放つ。

カァン!と高い音を立てて、グレンの剣がファラへと吸い込まれて行った。


「そこまで!」


姿勢を正したファラが嘆息する。


「なんなのこいつ。理不尽だわ……」

「僕も同意するよ……」


そうして、二人して溜息をついた。対するグレンは少し所在無げだ。


「なんか、勝ったはずなのに肩身が狭いんだが」


ふん、二人掛かりで八つ当たりしてやる。


「で、貴方は誰をダンスのパートナーにするのよ?

もちろん、ローセスよね?」


ファラが含み笑いを漏らしながら冗談を言う。

……ふふふ、ここでもしもローセス君を指名したらすげー面白いのになぁ。

って、男女でダンスの仕方が違うから、仮に指名しても踊れないと思うけれどもね。

選ぶのは言うまでもなくファラだろう。


「ミアン」

「──んえ?」


と言うと、僕の頭の上にポン、と手を置いた。


「……なんでそんなに意外そうなんだよ」

「え、だって、これだけ綺麗な子と踊る機会なんて他にないよ?」


国中──いや、世界中を見渡してすら、トップクラスの美しさだろうに。

そりゃまだ六歳だけれど、グレンにとっては同い年だし。

そんな事を考えていたら、グレンは僕を見て呆れたような表情をした。

そして指をくいくいっと動かして、ちょっと耳を貸せ、のジェスチャーをする。


「正直、他の人間と上手く踊れる自信がない」


あー……うーん、確かに練習する時間はあまりなかったからなぁ。

グレンの飲み込みは早かったけれど、一日の詰め込みじゃ自信がないのも頷ける。

可愛い女の子の前では格好付けたいのは、男の子の性なのかな。


……と言うか、ダンスのパートナーくらい普通に頼まれても、したのになぁ。

余談ですが何でもありの場合は、大体主人公が勝ちます。

ただし至近距離での戦闘開始だとグレンの方が有利です。

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