二十五 最終試験2
「うふふ、ミアン、貴女は変わってるわね」
硬直から抜け出したファラも笑いながら話し掛けてきてくれた。
うんうん、もう和やかムードだね。
「ふふ。いいえ、ファラ様には敵いません」
正直、あそこで話に入ってくるとは思わなかった。
あの嫌な空気を吹き飛ばすためには、渡りに船だったので助かったけれど。
「あら。この場では皆同じ立場。敬語も敬称も必要ないわ」
「あ、そうだったね」
ちなみに一番最初に話し掛けてきた少年は、事の推移についてこれず、ポケッとしている。
「あー、えっと、大丈夫?」
「えっ!?え、あぁだ、大丈夫」
「ん。僕はミアン。君の名前は?」
「ろ、ローセス……」
「よろしくね、ローセス。
それで、ローセスは決闘をするのかな?」
ローセスはギョッとした表情をした。
もう冷静になっていそうだし、そうだろうなぁ。
勢いで言ったものの、毒気を抜かれた感じだ。
「……実は、僕は一度、グレンと手合わせをしてみたかったんだよね」
ちらっとグレンを見ると、うん、嬉しそうだね。
旅の途中は真剣しか持っていなかったし、その後も手合わせをする機会には恵まれなかった。
ちょっと特殊な環境だけれど、模擬戦をするには良い機会だと思う。
「確かに、俺も一度は戦ってみたかったんだよな」
「ふふ、だよね」
「ちょっと、私を差し置いて話を進めないで貰っていいかしら。
もちろん参加するわよ」
あらま、ファラも意外と脳筋なのかしら。
「という訳で、ローセスはどうする?」
「え、俺は……いや。うん、やってみようかな」
決闘をする旨を伝えると、試験官は必要な武具を持ってきた。
持ち手の上に鐔の付いた、片手剣くらいの長さの棒と、ベルトの組み合わせだ。
「ベルトを着けた状態で、こっちの片手剣が身体に触れると」
ベルトを着けた試験官はそう言って、棒で自分の足を強かに叩く。
その瞬間にグラス同士をぶつけたような、高く、澄んだ音が辺りに響いた。
「とまぁ、音がするので鳴ったら決着だ。
障壁同士が干渉して、どんなに強く叩いても身体には当たらない。
怪我をしたりはしないから安心してね」
ベルトは着用者の身体に合わせて魔法の障壁を張り、剣型の魔道具が障壁に当たると、音が鳴って跳ね返る仕組みのようだ。
ほうほう。魔道具という物の実物を見るのは初めてだけれど、かなり興味深い。
「それで、誰と誰が決闘をするのかな?」
「四人で決闘をしようって話をしただけで、詳しくは決めてなかったわね」
「うーん、総当たりか?」
「それだと同率一位があり得るよ?」
「あー、そうか。直接対決の戦績で決めても良いけどな……。
まぁ、トーナメントにするか」
「いいわね。そうなると組み合わせは──ミアンとグレン君が戦いたいなら、私とローセス君かしら」
「うん、そうだね。ローセス君はそれでいい?」
「俺は、皆のやり方に従うよ」
最初にファラとローセスの二人が戦って、次に僕とグレンが戦う。
そしてそれぞれの勝者同士が戦い、一番を決める事にした。
「んー、トップになった人に特典があったら、盛り上がらないかな?」
「ほう、なるほど」
「あぁ、じゃあこの場で出来る事よね……何がいいかしら」
「そうだねぇ……」
と、それぞれ考えていると、声を上げたのはローセスだった。
「──あ!じゃあ一ついいか?」
「はい、ローセス君」
「俺、ダンスのパートナーがまだ決まってないんだよ。
ミアンに話し掛けたのも、それで……だから、勝ったらダンスのパートナーを指名出来たら嬉しい」
「あぁー、二人共、どう?」
グレンとファラの顔を見ると、ファラの方は顎に手を当てて何か思案をしているようだ。
「試験官。確認をしておきたいのですが、ダンスは何回くらい踊れるのでしょうか」
「ダンスを踊る機会は一回五曲を三回、計十五曲を予定しているよ。
一曲でも誰かと踊ればそれで良いし、誰と何度踊っても構わない」
「ありがとうございます。なら、私はそれでいいわ」
「僕も大丈夫だよ」
「じゃあ、そうするか」
そう言えば、ローセスはどのくらい動けるのだろうか。
戦闘試験ではファラも試験官に勝っていた辺り、やはり尋常ではないんだろう。
器量は抜群に良し、話をしている限り頭の回転も良くて、武術にも長け、公爵令嬢。
勿論、血の滲むような努力と苦労があったのだろうけれど、こんな完璧超人いるんだなぁ。
ファラは僕より少し身長が高いくらいで、片やローセスは縦にも横にも結構な大きさだ。
二人が並んで立つとその差は顕著に出てい……ん?じゃあ僕とグレンが並ぶと……いや、考えるのはやめよう。
試験官が間に立ち、両者を見遣る。
始め!の一言で飛び出したのはファラだ。踏み込みは力強い。
対するローセス君は正眼に構えて、そのまま剣を突き出す。
ローセス君の対応は基本に忠実で、ファラもそれは想定をしていたようだ。
横にステップを踏んで軽やかに避けると、目を見張る速度でローセス君の背後を取った。
……ローセス君は、とても腕は立つけれど、それでも六歳の規格内だ。
努力を重ねているし、これから更に強くなるのは間違いない。でも……。
背後を取られたローセス君は素晴らしい反応で、ファラの剣を迎撃した。これに反応が出来る時点で凄い。
しかし、ローセス君の行動は想定済みのようで、ファラの剣は鋭く曲がり、受けに回ったローセス君の手首を打った。
「そこまで!」
障壁がぶつかる甲高い音と共に、試験官が試合を止めた。負けたローセス君は晴れ晴れとした表情で肩を竦めた。
「こりゃあ、ぐうの音も出ないな」
「でも、よく反応出来たね」
「ぎりぎりで、なんとか。
けど変に受けようとして、やられちまった。
はぁーあ、もっと頑張らないとな」
「お、そういう前向きなところ、格好良いね」
なんだ、最初の印象に反して素直な良い子じゃないか。
負けても腐らず、なお努力を重ねようとする姿は、好ましく思える。
こういう快い態度が見られるとついつい顔が綻んでしまうね。




