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二十四 最終試験1


ほどなくして、社交界の開催が宣言された。

食事は用意されているし、飲み物もアルコールこそ入っていないけれど、様々な物が揃っている。

壁際には席があって、腰を落ち着けて話をする事も出来そうだ。


ルールは、ダンスタイムではパートナーを見つけて一度は踊る事の一点のみ。


それと、揉め事があった場合は決闘を許可するらしい。

──ただし、決闘をする場合は必ず学園側が用意した魔道具を使用し、それ以外での攻撃は禁止されている。


ダンスと、決闘の許可、ね。

うーん、何を見たいのだろうか。いくつか思い浮かぶけれど、どれも確証に乏しいなぁ。

方針としては、壁の花──男の子も含めてだけれど──になっている子に話し掛けていけばいいかな?

折角の社交界で所在無げにしていたら楽しくないだろうし……なんて考えていたら。


「こんにちは。あまりに綺麗なので、つい声を掛けてしまいました。少しお話をしましょう?」


と、僕に赤い飲み物が入ったグラスを差し出しながら声を掛けてきたのは、サラサラの金髪に深い海を思わせる瞳の少年だ。

あぁ、壁際で考え事をしていたから、僕が花だと勘違いをされたか。

それにしても随分話し掛け方が上手いな。

声のトーン、表情や仕草、目線まで計算されている。

場慣れしている感を見ても社交界の経験者かな。

赤い飲み物を持ってきたのも、僕のドレスと瞳の色に合わせたのだろう。


「こんにちは。ありがとうございます。お上手なんですね」


彼の持っているいるグラスを受け取り、ふわりと微笑みながら言葉を返すと、少年は、おや、という表情をした。


「……お話慣れをしているんですね?」

「ふふ、それはお互い様です」


昔は接客業をしていたから多少はね。


「あ、僕の名前はクロード。貴女の名前を聞いても?」

「ぼ……私の名前はミアン。よろしくね、クロード」

「よろしく、ミアン。君みたいな人が壁際で一人でいるなんて、正直意外だったよ。

自分からいくらでも話し掛けられるでしょう?」

「うーん、どの路線で行くか悩んでたんだ」

「──なるほど。ちょっと耳を貸して貰っていいかな」


ほう、それは親密さをアピールして試験官の目を引ける策だね。

ついでに内緒話も出来るといったところかな?


「実は僕は器用貧乏の典型でさ。どの試験もほどほど、だったんだよね。

それで、この試験に呼ばれてチャンスだと思ってさ。幸い人と話すのは得意だし……」

「それで一人でいる子に話し掛けて、社交性をアピールをしようってところ?」

「うん、ご明察。君も同じ事をしようとしてたのかな?」

「ふふ、そろそろ動こうかなって思っていたよ」

「そっかー。邪魔をしちゃったかな」


そう言ってクロードは肩を竦めた。その仕草は様になっている。


「ううん、楽しい時間だったよ。ありがとう」

「そう言って貰えるなら、声を掛けた甲斐があったな。

──そうだ、折角の出会いだし、後で一曲どうかな?」

「うん、喜んで。それじゃあ、また後で」


軽く手を振って、クロードと別れた。

まず一人はダンスのパートナーを捕まえたね。


さて、それじゃ僕も声を掛けていこうかな?


---


あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら一人でポツンとしている子達へ男女問わず話し掛けていく。

話をして少し打ち解けたら、その子を連れて適当なグループに近付いていって輪に加わり、僕だけ抜ける。

グループに入れる前に共通の話題になりそうな事を覚えておいて、輪に加わったら上手く話題に乗せる簡単なお仕事だ。

抜ける時は飲み物を取りに行く、とか適当な理由を付ければ抜けやすい。

うーん、しかし、話をしていて思うけれど、皆割と純粋だなぁ。

なんか打算で動いている自分が汚れている気がしてきた。


……でもまぁ。


ちらり、とさっきまで壁際で寂しそうにしていた女の子を見る。

今では男の子3人、女の子2人のグループに加わって、楽しそうに笑いながら話をしている。

……あの笑顔が見られたんだからいいか。

WinWinってやつである。


「また、変わった事をしてるな」

「ん、グレン。さっきの子達は?」


さっき見掛けた時は女の子二、三人に囲まれてた筈だ。

ま、身長は高い、イケメン、大人びている、と女の子受けはいいだろう。爆発しろ。


「話が落ち着いたところで切り上げてきた」

「ほー。仲良くしておけば、将来良縁が結べるかもしれないのに」


貴族の令嬢だっているだろうに……というか、女の子はほとんどそうかもしれない。

もちろん才能に溢れた市井の子だっているけれども、この会場には少なそうだ。


「うーん……将来ねぇ」


グレンはぽりぽりと頬をかいた。

そう言えば、公爵令嬢のファラもいたな。

さっき見掛けた時は周りには人だかりができていた。

んー、まぁ流石に身分が違い過ぎて難しいかな。


「やぁ、ちょ、ちょっと話そうよ」


のっしのっしと歩いてきたのは体格の良い男の子だ。

身長はグレンより少し低いけれど、横に広い分、圧迫感が凄い。

あまり自分の身体の大きさを考えない話し掛け方だし、普通の女の子なら怖くなって逃げてしまうかもしれないなぁ。

うーん、もう、目的は達した気がするんだよね……今はグレンと話しているし、断ろうかな。


「こんにちは。ええと、今は立て込んでいるので、また後でいいですか?」

「え、な、なんで!?ちょっとくらい、いいだろっ?」


うん、そう言われる気はしていた。

少しばかり強引だなぁ。

ダンスのパートナーが見付からなくて焦っているのかもしれないけれども。

その声のかけ方じゃ、いつまで経ってもパートナーは見つからないだろうに。

そんな事を思いながら口を開こうとしたら、グレンが少年の視線を遮るように、間に立ち塞がった。


「スマートではありませんね。

レディに断られたら、笑顔で退くのも紳士の行いですよ」


ぶふぅ、と吹き出しそうになったのを、口元を塞いで、下を向き、必死に耐えた。

お前、スマートではありませんねって。レディって。

ふ、ふふ……似合わない。ダメだ、笑ってはいけない。


「ほら、可哀想に。レディがこんなに怖がっているじゃないですか」


おいばか、追い打ちを掛けるな!お前、分かってやってるだろ!

顔面と腹筋が崩壊寸前なんだよ!

しかし確かに今、口元を抑えて下を向き、笑い堪えている僕の表情は見えないし、小刻みに震えている。

周りから見ればそう感じ取れたのだろう。僕らの周りから笑い声と話し声が消えていった。

あらら、これは良くない雰囲気かしらん?と、そっと顔を上げると、案の定、少年は周りを見回して顔を真っ赤にしてる。


「あ、あ……、ぅ。ううう!」


上手くいかない苛立ちと、羞恥とプライドが怒りに変換されてしまったようで、今にもグレンに掴み掛かりそうな雰囲気だ。

流石に、そこは堪えたようだが。


「──け、決闘だ!決闘を申し込む!」

「ほお」


あー……頭の中が真っ白になると、冷静に行動出来なくなるもんね……。

ルールを破ってリアルファイトにならなかっただけ、良かったか。

グレンの方は決闘という言葉を聞いて嬉しそうだ。

慣れない場に服装で、鬱憤でも溜まっているのだろうか。


「……良いですね。受けて立ちます」

「あら、面白そうね。私も参加させて頂こうかしら」


そう言って人だかりから進み出てきたのはファラだった。

なんか、本当に突拍子のない人だ。突然の闖入者に周りの子達も驚いている。


「じゃあ!僕も参加するよ!」


僕がはいはい、と勢い良く手を挙げると、周りの動きが完全に止まった。

全員の思っている事は多分一つ、何言ってるんだこいつ、だろうなぁ。

どうぞどうぞ、なんて合いの手は、入らなかった。当たり前か。

グレンまで固まっている。そして、ちらりと目が合うとグレンは吹き出した。


「ぶっ。何でお前が参加するんだよ!ふっふは、おかしいだろ!」

「あはははは、僕もそう思う!」


僕らが大きな声で笑い出した事で、周りまで釣られて──爆笑ではないけれど、其処彼処から笑い声が漏れ出した。

ま、これでさっきまでの嫌な雰囲気はなくなったかな。良かった良かった。


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