二十三 勘違い
どうしてこうなった……。
愕然とした僕が見つめる先。
姿見の中には、真っ赤なドレスで着飾った、僕がいた。
事の次第は一昨日まで遡る。
衣装の申請をして、採寸を行ったところまでは、良かったはずだ。
衣装を借りる為に、個室に通されて待機していた──恐らく学園の教師だと思われる──女性に身体のサイズを測って貰った。
そして名前を告げて帰ったのだけれども……そう言えば性別は言っていなかった。
でも僕は性別の申請が必要だと思っていなかったし、女性も疑問に思わなかったのだろう。
そして今日。僕の性別は女性だと間違えられていたみたいで、用意されていたのは真っ赤なドレス。
そりゃ勘違いですって言ったところで後の祭りだ。
今から僕の身体に合った衣装を探して、準備をしていたら開始時間には間に合わない、と言われてしまった。
……だからと言ってドレスを着るのもどうかと思ったのだけれども……。
ここで取れる選択肢は二つ。
遅刻を覚悟で男児用衣装を探して貰って準備をする。
その場合は、こちらに手落ちはないので、少々遅刻をしても責任は問わないとの事だ。
ただし、そもそも合う衣装が、時間内に見つからないない可能性があるのだ。そうなると試験自体が受けられない。
遅刻ならまだしも、居なかった場合は──採点のしようがない。
もう一つは、用意して貰った赤いドレスを着る。
男性でありながら、女性の衣装を使っている事に関しては、不問にされる。
これなら試験は受けられるし、遅刻もしない。
は僕が受け入れられるかどうかだ。
これが絶望的に似合わないのならば、形振り構わず拒否をしていたのだけれども、なぁ……。
ふぅ、と溜息をつく鏡の中の僕は、まぁ、貴族の令嬢に見える。
胸元は開いていないけれど──当たり前か──背中が大きく開いた、膝上丈のワンピースドレス。
ウェストはキュッと絞られていて、背中側で大きなリボンになっていた。裾は大きく広がってフワフワだし、生地はサラサラキラキラしている。
薄く化粧を施し、髪は結い上げられていて、自分でなければつい目で追ってしまうかもしれない出来だ。
……うん、よし、腹を決めよう。ここまで来て後戻りは出来ないし、あまりゆっくりしている時間もない。
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会場に入ると、おめかしを終えて試験の開始を待っている人が大勢いた。
僕は説明を受けたり、悩んだりする時間があった分、少し遅い方なのだろう。
さて、会場は広くても百人くらいしかいないから、ちょっと見渡せばきっと……あぁ、居た居た。
こういう場に慣れていないせいか、落ち着かず、きょどきょどしている様子が見て取れる。
いつもと違ってスーツを着た姿は、堂々としていれば貴族のご子息に見えるのだけれども。
うーん、グレンと合流すべきだろうか。知っている人に見られるのは少し気恥ずかしい。
試験的に多くの人と知り合って、社交性を示すのが得点に繋がる気がするんだよね。
慣れている人と一緒に居ると、ずっと離れなくなりそうだし、他の人も話しかけ辛いだろうし。
……いや、まぁ、始まったら別行動にすればいいか。
とことことグレンの前まで歩いてきた。
しかし、視界に入っていないのか反応はない。
遠くに目をやって、きょろきょろしているだけだ。
「グレン」
「ん?えーと、どちら、さ……おぅ……」
そう言ったまま、グレンは固まってしまった。
おい、そんな得も言われぬ顔をするな。
こっちだって恥ずかしさを我慢しているのだ。
「うん、気持ちは分かる」
「あー……言いたい事は色々あるんだが、とりあえず何があった?」
「申請の時に性別を間違えられたらしい」
「あぁ、分かりやすいな──あーなんだ、まぁ、似合ってるぞ」
「うーん、ありがとう、で、いいのかなぁ?」
似合わなければ、それはそれで問題だし、似合うと言われるのもどうなのか、と首を傾げてしまう。
「そうだ、試験が始まったら別行動にしようね」
「む、そうなるよな……気が重いなぁ」
「グレンなら大丈夫。スーツ姿、似合ってるよ」
「おー、さんきゅ。まぁなるようになれだ。
──あ?ミアンは大丈夫なのか?」
「うん、僕は人と話すのは好きだからね」
「いや……そっちの心配はしてないよ。
んー、例えばさ、ここで仲良くなったとするじゃないか」
「うん、社交界だからね。で、なったとして?」
「仲良くなった人が皆めでたく合格した場合……入学した時にミアンの事をどう思うんだ?って」
どう思うって、何の話をしているんだ──って!
そうか、この格好で仲良くなったとして、次に会う時は男子の制服を着ているんじゃないか?
な、なんと言う事だ。こんな落とし穴があるなんて。
全然気付かなかった、というか、学園側が気付いてくれよ……なんて言うのは、まぁ甘えか。
「あぁーまぁ、俺は気にしないから」
おー……なるように、なれかなぁ……。




