二十 戦闘試験1
グレンは魔法試験を、やはり意外(失礼)にも器用にこなしていた。
内魔力の操作は凄まじい身体強化を見ていて出来るのは知っていたけれど、外魔力の扱いも上手いのだ。
基礎演技は僕と同じように火球を使って攻撃をしていた。
自由演技は何をするのかと思いきや、剣に魔力を注いで甲冑に切り掛かっていた。
やっぱり脳筋である。考える脳筋だ。間違いない。
しかし、一瞬で間合いを詰める速さと、魔法障壁ごと甲冑を豆腐のように切り裂く威力は、試験官も驚いていた。
あの時ミノタウロスの脚を切ったのはこれか。
しかも剣を鞘に収めると同時に甲冑が三つになって落ちるというおまけ付き。気障なやつめ。
ちなみに障壁を破るような魔法を使ったのは僕とグレンも含め四人だけだったようだ。
そんなこんなで、今日は戦闘試験。
先日のうちに待ち合わせ場所を決めていた僕とグレンは、すんなりと合流ができていた。
今日の試験は自信があるのか、グレンの表情が輝いている。ちょっと小突きたくなるくらいだ。
「昨日はミアンにしてやられたからな。今日は挽回してやるぜ」
「はいはい」
戦闘試験は試験官との一騎打ちになる。模擬戦用の武器──木剣だけではなく、槍、杖、棒、斧など様々な物が用意してある──で戦うのだ。
ただ、武器を習う時は基本的に剣から入るし、たまに槍を使う人がいるくらいで殆どの武器は使われていない。
それで戦闘試験の試験官はというと……
「やあ、偶然だね」
「今日もよろしくお願いします」
昨日、魔法試験の担当をしてくれた人だった。
偶然だね。が白々しく聞こえるのは僕の気のせいだろうか。まぁ、あまり考えても仕方がない。
五メートルほど距離を取って、向かい合ってに剣を構えた。
「さて、準備はいいかな?」
「はい」
「それじゃあ……開始、だッ!!」
「っ!?」
木材と木材が激しく擦り合わせられる音と共に、僕は後ろに飛びのいた。
全く考慮をしてなかったわけではないけれど、まさか、合図と同時に切り掛かってくるとは。
しかも六歳の子供に対する速度でも、重さでもないぞ。
ちなみに他の受験者には、何処からでも掛かってきなさい、的な発言があったのになぁ。
「穏やかじゃありませんね」
「うん、良いね」
良くねーよ。少しは人の話を聞け。
「……変種のミノタウロスを六歳の子供が二人で倒したってね」
ぴくり、と僕の眉が跳ねた。うぐ、表情に出てしまうとは、僕もまだまだだ。
しかしそんなに話は広まっていなかったと思うんだけどな。眉唾物の話だし。
「へぇー。ミノタウロスって何ですか?」
「ふふ、有望株が居そうだと思ってね。これだから試験官は面白い」
……会話をするのは諦めよう。これは意図的にこちらの話に答えてない。
返事の代わりに爆発的な踏み込みと共に木剣を打ち込む、が、流石に守りが堅い。
下手に力んで打ち込んだら即座に切り返されそうだ。
「うむ。いいね。良い師の元で努力を重ねたんだろうね」
「随分余裕、ですね!」
まぁ余裕なんだろうな……今に見ていろ。吠え面をかかせてやる。
身体強化の密度を更に上げて、意識を切り替えると、世界の動きがいきなり遅くなった。
僕は、時間に関わるような魔法は使えないけれど、自分の認識する一秒を伸ばすことならば出来る。
謂わば、死の間際等に全てをスローモーションに感じる、火事場の馬鹿力を自力で起こしたのだ。
風を纏い火の魔法の爆発力を推進力にして、スローの世界にあって常よりも更に速く試験官に迫る。
相手の迎撃も常軌を逸した早さだけれども、僕の狙いは、お前の持つ木剣だ。
乾いた音と共に、試験官の持つ木剣が手を離れ、飛んでいった。
「お見事」
試験官はにんまりと笑った。
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「お疲れ、凄かったな」
「はぁ……ありがと……」
まぁでもあまり勝った気がしない。あれは絶対に、まだ余裕があったな。
あの話ぶりだと、恐らくグレンも、同じ試験官になるのだろう。
「グレン、絶対にぎゃふんと言わせてね」
「はは、善処するよ」
グレンの順番が回ってくるまで他の受験者の戦闘試験を見て回った。
魔法試験でもそうなのだけれども、幾人か目を見張るほどの強さを持つ受験者がいた。
「ま、参った……」
「ありがとうございました」
試験を終え手本のような美しいお辞儀をしたのは、先日挨拶をした、ファラ様だった。
ファラ様は受験者にしては珍しく棒術を使うようだ。
グレンが珍しく、熱い視線を送っている。ま、綺麗だからな、彼女。
「おい、ミアン。あいつ強いな」
と思ったらそっちか脳筋め。




