二 転生
次こそは、なんて思っておきながらも、来世なんてものはないのだろうな、と考えていた。
それだけに、本当に次の機会に恵まれるとは思ってもみなかった。
意識が深い暗闇に落ちた後、気付いたら僕は赤ん坊になっていた。
ところどころに解れはあるものの、前世と言うべき記憶は保ったままだ。
今生の名前は ミアン。
クローヌ王国 サンダーゲート伯爵領の都市 ロイグ。
サンダーゲート伯爵領を治める地方領主 ジーア=サンダーゲート伯爵と、その妾である ソラス の間に生まれた四男坊。
母様は三人目の側室であり、僕も四男とあって立場は高くないけれど、家庭環境は円満で父様からも母様からもしっかりと愛情を注がれている。
僕は先日、三歳になったばかりだ。
前世の記憶がある分、立ったり、喋り始めた時期は早かった。
少しずるっちい気はするが、かと言って手を抜いて生きるのは違うだろう。
……もう、悔いが残るような生き方をしたくはない。
いきなり何でも出来るようになるのはあまりにも不自然なので猫の皮を被ってはいたが、胸を張って生きられるように、しなければね。
そんなわけで、今の僕の日課は書庫に入り浸る事である。
学術書、歴史書、自叙伝、文学小説、絵本──はたまた、ただの個人の日記からですらも、何かしら得るものがあるのだから、本というものは面白い。
まぁあまりに難しい本を読んでいると流石に目立つので、そっちはこっそりと、だけれども。
「──ァン様、ミアン様ー。何処にいらっしゃるのですかー?」
不意に僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
サンダーゲート伯爵家に勤めている使用人のセリーヌだ。
「はーい。ここだよ、セリーヌ」
返事をしながら書庫の扉を開いた。
「ミアン様、今日も本を読んでいらっしゃったのですね」
「うん、本って楽しいんだ」
「まぁ、それは良かったですね」
セリーヌは白髪混じりだが、髪はピシッと纏められていて、背筋はピンと伸びている。
詳しい年齢は聞いていないから分からないが、見た目は五十前後に見える。
彼女は自分にも、他人にも厳しい。しかし、それも相手を思い遣る優しさ故の事。
たまに浮かべる柔らかな笑顔が人を安心させる、そんな女性だった。
「それで、どうしたの?」
「昼食のご用意が出来ましたので、お呼びに参りました」
「あ……もうそんな時間なんだ。呼びに来てくれてありがとう」
書庫には窓がなく、明かりは室内に置いてある洋燈だけだ。
外に出れば太陽が高く昇っているのだろう。
「いいえ、どういたしまして。さぁ、食堂へ参りましょう。
今日も美味しいご飯を用意致しましたよ」
「はーい」
僕はセリーヌに手を引かれ、書庫を後にした。




