十八 学力試験会場で
受験の申し込みをしたり、学園やその周りを確認していたりしていたらあっという間に試験の開始日になった。
その間も勉強はもちろんしているけれど……回り道なども見ておけば、何かの役に立つかもしれないからね。
試験の初日は非常に簡単なものだった。
受験人数が多過ぎるために、ある程度で足切りをしなければならないからだ。
簡便な筆記試験、魔力測定、体力測定を行った。
魔力測定は魔力を注ぐと色の変わる水晶玉を使う。
体力測定は魔力による強化も加味した身体能力を測る。
一番時間が掛かるのが体力測定だったが、大人数で一気にできるものが選ばれていたので、全てを夕方までに終える事ができた。
三つのうち一つでも基準を満たせば良いので簡単だ。
それでも上手く行かなかったのか、家名を出して試験のやり直しを求めている貴族の子供もいたのだけれど……取り合われてなかった。
貴族だからと特別扱いしない、と言うのは結構徹底されているみたいだ。
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そして試験本番。
今日は筆記試験で受験番号によって午前と午後に別れている。僕は午後からの試験だった。
午後二時から三時間の予定なので、昼食を取って、午後一時に学園に入って待機をする。
前もって着いていればトラブルに巻き込まれて遅れてしまう、なんて事もないからね。
どんな事情があっても試験を受けられなければ合格しないのは当たり前である。
同じような事を考える人は多いようで、試験の教室──使用教室が高等部だからか、教卓を中心に円形に机が配置されていてイメージとしては大学に近い──には既に何人かいて、勉強をしているようだ。
僕も自分の席に座って勉強をして待つ事にした。
……とは言え、このトンチや謎々を解いているかのような試験の勉強は難しい。
もちろん殆どの場合は解けるのだけれど、閃きが必要な問題で思い付かない時は、どれだけ考えてもダメなのだ。
生まれ変わっても、勉強をしても、頭の固さはなかなか変わらないのだった。要努力、である。
そんなこんなで勉強を進めていると、不意に周りの空気が変わった。
「あ……ファラ様だ……」
隣の席の男の子がポッと呟いた。
視線の先を見ると、そこには絶世の美女……になるであろう、綺麗な女の子が教室に入ってきたところだった。
頭の天辺から爪先まで、まるで人智を超えた存在に造られた様な均整の取れた身体。
その様は高名な芸術家でも再現する事を諦めるだろう。
腰まですらりと伸びた紫銀の髪に、同じ色の勝気な瞳は、そこに居るだけで目を引く。
容姿だけでも凄く目立つのだけれども有名人なのだろうか。
「あの、ちょっといい?」
「あ、え……な、何?」
そう言って顔を赤くする男の子。人と話すのが苦手なのか。
僕も若い頃は人と話すのが苦手だったから良く分かる。
いきなり知らない人に話しかけられると驚いて身構えてしまうのだ。
真摯に対応して嫌われたら仕方ない、くらいの心持ちでいれば楽になるのだが、まぁ、慣れだ。
頑張れ少年。
「ファラ様って?」
「えっと、今教室に入ってきた、公爵家のお嬢様だよ」
「そうだったんだ。ありがとう」
公爵家の令嬢であの美しさ、ね。
そりゃ有名人なわけだ。
父様なら一度くらいは会ったことがあるのかもしれないけれど、僕は社交界に出てないからなぁ。
そう言えば、席順は受験番号の順なのだが、前もって登録をした貴族は若い番号が多い。
僕も多分に漏れず番号が若いので隣の少年も恐らく貴族の家の出なのだろう。
なんとなしに話題の人を見ていたら、その公爵令嬢と目が合った。
うーん、すぐに逸らすのは失礼に当たるだろうなぁ。ここはにこりと微笑んでやり過ごそう。
日本人の必殺技、愛想笑いである。
それがどんな興味を誘ったのか、ファラは軽く目を見張り、僕の前まで歩いてきた。
「御機嫌よう、私はファラ。ファラ=ブリオングロード。あなたは?」
「御機嫌よう、ファラ様。僕はミアン=サンダーゲートです。お会いできて光栄です」
ファラ様は鷹揚に頷いた。まぁ今の今まで知らなかったけどね。
「今日は良い出会いができたわ。これからもよろしくね、ミアン」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
表面上はにこにことしているが、内心は大混乱である。
僕の戸惑いをよそに、当のファラ様は自分の席へと歩いて行った。
隣の男の子も口をポカンと開けて驚いている。一体なんだったんだろうか。




