十六 一つ目のミノタウロス
予約投稿を忘れるところでした(´▽`;)
木々の間から現れたのは、長い体毛に覆われた二本の脚、筋肉質な上半身のミノタウロス。
体高は五メートルはあるだろうか。遠近感がおかしい。
「一つ目、のミノタウロス……?」
クラフトさんが呆然と呟いた。
灰色狼達は全て反対側の森へと逃げ去った。
立ち尽くす僕達と、こちらに気付いたミノタウロスとの間に、一瞬の静寂が訪れる。
グレンの方を見ると、彼もこちらを見ていた。おおう、非常に好戦的な笑みをしていらっしゃる。
「貸すよ」
「おう、助かる」
僕の剣をグレンに投げて渡した。
グレンの剣も決して悪い物ではないけれど、彼の力を十全に発揮出来る物ではない。
僕の剣は父様と母様から贈って貰った逸品である。
こちらの方がきっと、彼の力になるだろう。
「馬車を出して!早く!」
「な、何を仰います!ミアン様も!」
「大丈夫。……任せて」
動き出した馬車から、慌てた様子で顔を出したアンロさんに、穏やかに笑いかけた。
もちろん、馬車が逃げ切るまで待ってくれる相手ではない。
ミノタウロスが走り出すのと同時にグレンも飛び出した。
ミノタウロスの動作は早くないのだが、巨体から踏み出される一歩は大きい。
対するグレンも、目にも止まらない疾さで迫り、彼我の距離は一瞬で縮まる。
「──はぁッ!?んな、馬鹿な!」
先程から事態の変化が飲み込めず、呆然としっ放しだったクラフトさんにとって、更に大きな驚きになっただろう。
体高五メートル。その重量は数トンに及ぶだろうか。
グレンは、圧倒的な体格差があるミノタウロスの脚に剣を引っ掛けて、転倒させたのだ。
莫大な魔力により強化された、小さな身体とは不釣り合いな膂力と、それ以上の驚異的な技術がなせる業だ。
相手の力の入らない場所で脚を止め、流れを把握して往なし、見事に転がせてみせた。
動き出した馬車はスピードに乗り、ミノタウロスは目の前の敵しか目に入っていない。
これでもう、馬車が巻き込まれることはないだろう。
マイトさんは走り出した馬車に飛び乗ったようだ。
彼の名誉のために断っておくと、臆病風に吹かれたわけではなく、彼が居なければ馬車を守れる者がいない、と判断したのだろう。
ミノタウロスに追い立てられた魔物が他に残っていないとは限らない。
勢い余って盛大に転げたミノタウロスの隙を逃す手はない。
野生に生きる者だけあって、体勢を立て直すのは早いけれど、それでも僕の放った魔法の方が早い。
一息で作り出した長さ三メートルほどの氷の槍が六本、立て続けに着弾した。
眼や頭に直撃するものは豪腕で防がれ、他の物も多少肉を抉った程度で砕け、致命傷には程遠いようだ。
普通の魔物なら身体が消し飛ぶくらいの威力があるんだけれども……タフだな。
それでもいくらか痛みを与えたようで、殺意の籠った一つ目がギロリとこちらを向いた。
だが僕は今、一人じゃない。此方に気を取られ、無防備な首筋にグレンの鋭い剣戟が走り、肉を裂いた。
「ちっ、くっそかてぇな」
蚊を叩くように手を伸ばしたミノタウロスから、グレンは器用に逃れながらボヤいた。
強固な身体を斬るグレンの技量は驚嘆に値するものだけれど、やはり分厚い筋肉の壁を一息で断つのは難しいようだ。
巨体に見合うだけの体力があるであろうミノタウロスだ。
このまま、ちまちまとした攻撃を続けても、倒すまでどれだけ掛かるか……。
「グレン!脚を止めて!」
「おう!」
そんなわけで、ちょっと、気合いを入れよう。
目を閉じて、祈るように手を組み合わせ、ゆっくりと開く。イメージをするのは全てを消し去る白。
自分の魔力と大気に漂う魔力を合一し、濃密な力の塊を創り出した。
目を開くと、丁度、針金の様な剛毛ごと左脚の腱を切断され、片膝を突いたミノタウロスが見えた。
脚とか特に頑丈そうなのに……どうやったんだあれ……。
ま、後で聞こう。
巨体の前まで跳び、正面に両の手を突き出した。
同時に白光が伸びて直径一メートルほどの光の柱がミノタウロスの頭を飲み込む。
一瞬の後、光の奔流は空へと消え去って、ミノタウロスの首から上は完全に跡形もなくなっていた。
──よし、上手く行った。
と、ホッと一息を吐こうとしたのだけれども。
「あ、しまった……」
片膝を突いた状態で、生き物が息絶えれば崩れ落ちるのは自明の理。
そして倒れる先は、目の前にいる僕のいる場所だ。
後ろに跳んで避けようとしたら、横合いからグレンが飛び出してきた。そのまま僕を抱えて着地。
うーん、お見事。
……うん、横抱きにされているのは触れないでおこう。
「あ、あぁー。ちょっと気が緩んだよ。ありがとう」
「おう……いや、そんな事より、すげぇな!
なんだよあれ!どうやったんだ!?」
「えっ?」
グレンはなにやら、偉い興奮した様子だ。
う、うーん。説明をしろと言われても、いきなり言葉にするのは難しい。
「いや、なんか、気合いを入れてバシュッと、かな。
……それより、グレンこそどうやって脚を切ったの?」
「んん?んあー、根性で力を込めて……こう、ズバッと」
「根性じゃ分からないよ!」
「こっちだって気合いじゃ分からねーよ!」
そう言うと顔を見合わせて、二人で大笑いをした。
うん、良い経験になった。
ストーリーが進まないのにストックだけ消耗する日々……。
まるでタクシーメーターを見ている様です。
料金改定されてからメーターの上がりが早い早い笑




