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十五 狂乱


サンダーゲート領の都市、ロイグを発ってから五日目。

丁度近くに大きな街がなくなり、街道の近くに深い森があるため、魔物が襲ってくる頻度が今までよりも高い。


グレンと一緒に馬車に乗るようになってからは、護衛の冒険者に無理を言って、僕達も魔物との戦いに参加をさせて貰っている。

グレンはこれまでの道中でも露払いを買っていたようで、それを聞いて僕も護衛依頼の予行練習をしたいと思ったからだ。

実地での経験は、何よりの宝だ。


「いやー、最初は無謀だと思ったんだけど、寧ろ二人が居てくれて助かるなぁ」


なんて気さくに笑うのはクラフトさん。

助かるなぁ、なんて言いつつも、僕らがミスをしても問題が起きないよう注意を払ってくれている。


「そうだな。俺達が六歳の頃にしてたのは、チャンバラごっこに毛が生えたようなもんだったんだが……」


そう言って相槌を打つのはマイトさん。二人とも同じ村の出身で、幼馴染なんだそうだ。

チャンバラごっこ、なんて謙遜をしているけれど、二人とも若いながら実力は確かだった。


冒険者ギルド。

成り立てからのランク1からランク10までの十段階で表される、世界各地に存在する中立組織。

様々な分野から世界への貢献を活動の主軸としていて、加入が可能になるのは十二歳から。

基本的に誰でも加入は出来るけれど、あまりに公序良俗に反する場合や、規約違反を繰り返す場合は、かなり厳しい処罰をされるようだ。


二人は元服を迎えた十五歳で村を出て冒険者になり、先達に恵まれて良い経験を積んだらしい。

一般的な冒険者の、引退する時のランク平均が5。二十歳にしてそれを達成している二人は、将来を嘱望される優秀な冒険者だ。

実際に二人の動きや知識に触れていると凄く勉強になるのだ。

多少動けても、絶対的な経験不足は如何ともし難い。

きっと五年の間、ランクが上がっても慢心せず、細かな努力を積み重ねた結果だろう。


「そう言えばさ、二人とも学校を出た後はどうすんだ?

そん時ゃ、引く手数多だろうなぁ。

あぁ、ミアちゃんは家でお兄さんの補佐をするのかな?」

「僕は四男なので家を出るかも──あ、でも父様と母様には親孝行をしたいです」


補佐には去年に成人した、次男のアルド兄様がいるしなぁ。僕の出る幕はなさそうだ。


「そっかぁ、偉いなぁ。グレン君は?」


グレンは君付けで、僕はちゃん付けである。

いや、いいけどさ。


「俺は……村の人達に恩返しをする為にも、冒険者で身を立てていこうと思ってます」


グレンは学校に行く為に、村の人達にもお金を出して貰っているようだ。

確かに、いくら学費が安くても、掛かる経費を一般家庭でいっぺんに捻出するのは難しかったのだろう。


「そうか。確かにグレンなら稼げるようになるだろうな。

でも、自分で言うのもなんだが、収入は不安定だし危険が伴うぞ。

冒険者にはいつでもなれるし、恩返しというなら、まずは騎士を目指してみるのも良いんじゃないか?」

「うーん、確かにそうですね」


---


「俺が前を引き受ける!」

「任せた。グレン君、ミアちゃん、付いてきてくれ!」


魔物の多いこの街道を八割ほど過ぎた時、唐突に飛び出してきた灰色狼グレイウルフの群れと遭遇した。

大型犬くらいの大きさがあり、四、五匹の群れで狩りをする点、強靭な筋肉から生み出される俊敏さと、鋭い牙がある点から危険度は高い。


……とは言え、その程度。

クラフトさんやマイトさんにとってはこの程度の魔物と戦う事は日常茶飯事だろうし、僕やグレンが遅れを取る事もない。

今までも何度か遭遇をして、その度に撃退をしている。賢いので何匹か退治されて敵わないと理解すれば逃げていくのだ。

今回の遭遇でおかしいのは群れとしては数が多過ぎる点と、僕らから離れた場所から出てきた灰色狼グレイウルフはこちらに目もくれず、街道を挟んだ反対側の森へと駆けて抜けて行く点だ。

仕留めた数だけで既に十を超え、周りを次々と走り抜けて行くため、こちらも下手に動けない。


「こりゃ尋常じゃないな」


隣で剣を振るうクラフトさんの呟きが耳に入った。

恐らく、マイトさんも、グレンも、馬車に乗っているお客さんですら、同じ事を思っているだろう。

灰色狼グレイウルフの血走った眼。何だろう──これは、何かから、逃げている?


「……っ!」


こちらに向かって来た灰色狼グレイウルフを氷の矢で迎撃した。

頭から氷の矢を生やした狼は足を縺れさせて転び、数度痙攣した後に動かなくった。


「これ、何かから逃げているんじゃないですか?」

「逃げる?ここらじゃ灰色狼グレイウルフの天敵なんて居ない、の、に……?!」


狼達の走る音や鳴き声に混じって断続的に聞こえてきた地響き、そして倒れた木々の悲鳴。

──そして、僕らの前に、そいつは現れた。

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