十三 グレン
今回の旅では途中にある村や街に必ず立ち寄り、宿を取る予定のため、野宿はないそうだ。
旅路は順調で、三日目の今日はサンダーゲート領を出て、お隣のドンフォールト子爵領に入っている。
そう言えば、亀のような見た目から鈍重なイメージがあった地走竜なのだが、これが意外に軽やかに走るのだ。
短い脚をパタパタと動かして走っている姿はちょっとコミカルで可愛らしい。
うーん、地走竜、欲しいなぁ。高いのだろうか。
「ねぇ、アンロさん。地走竜って高いんですか?」
「ははぁ。欲しくなりましたか?そうですね、個体にもよりますが、200万Cくらいでしょうか」
クローヌ王国の通貨は クロン(C) で表される。
全てが全てではないけれども、大体 1C = 10円 だと思ってほしい。それを踏まえて考えると 200万Cは2000万円、という事になる。
前世の一般庶民的な感覚からすると高いが、物が物だけに、そこまで高くない気もするなぁ。
まぁどちらにせよ現時点では手が出せないね。
「うー、200万ですか……」
「もしも欲しくなった時は、言って下されば知り合いを紹介しますよ」
「うーん、まだ、暫くは機会がなさそうかな」
と、アンロさんに苦笑で返す。
でもいつか、お金を稼いで買ってやろうじゃないか。
待ってろよ地走竜!
道中ではたまに魔物が襲ってきたりするのだが、低位の魔物しか出ない為、地走竜に蹴散らされるか、護衛の冒険者が危なげなく仕留めている。
ドンフォールト子爵領も街道周りの治安は良く、しっかりと維持がされているみたいだ。
そうして馬車に揺られているうちに、本日の滞在予定地の村に着いた。
ドンフォールト子爵領 ベァナ村。
アンロさんと共に滞在予定の宿に着くと、部屋を確認して裏庭に出た。
道中で休憩を挟むとはいえ、馬車での長時間の移動は、かなり身体に負担がかかる。
動かせなくて固まった筋肉を解しておこうと思ったのだ。
もちろん、動けなくてストレスが溜まったので思い切り身体を動かしたいだけ、というのもある。
ゆっくりと一つ一つを丁寧に、止めるところはしっかり止めて身体の動きを確認する。
十分に温まってきたら素早く動きながら型の練習だ。
身体強化があるからそうそう疲労を感じたりはしないのだけれども、僕が使っている剣──学校に行く事を決めた年に、父様と母様から誕生日プレゼントで貰った物──は刃渡り六十cmくらいの一般的なサイズで、結構な重さがある。
身長が漸く百cmを超えたくらいの僕では、魔法がなければまともには振れない。
さて……。
「いや、綺麗だな。見事なもんだ」
と、軽く拍手をしながら感心しきりの表情で近付いて来た彼は、実は結構前から僕の剣を見ていた。
宿を背凭れにしてどかりと座り、堂々と見ていたので途中で気付いてはいたのだ。
しかし、鍛錬を止める理由も彼を止める理由もないので放っておいた。
「ありがとう……ええと、貴方は?」
見た目は、僕より少し年上であろう少年だった。
少し赤みの混じったブラウンの髪色に整った顔立ち。
キリッと上がった目尻と大きな碧眼は意志の強さを感じさせる。
まだ幼さが前に出ているけれど……将来はイケメンになるだろうな。
「あぁ、悪い。俺はグレン。
グローミュートに行く途中なんだ。君も同じだろ?」
──ん?
あれ、つまり同い年か。……おい、身長差が三十cmはあるぞ。
目線を合わせるには見上げなきゃならん。理不尽だ。
それに僕が言うのもなんだけれど、随分としっかりした受け答えをする。
客観的に見ればどう考えても彼は年上だ。
同い年の子供に会うのは生まれて初めてだけれど、こんなものだったかなぁ?
「うん……えーと、グレン君も?」
「おう。それと呼び方はグレンでいいぜ」
「そっか。じゃあ僕もミアンで」
グレンは竹を割ったような性格でとても話し易い。
そうそう、男同士の友情ってのはこう言うものだよね。
つい嬉しくなって頬が緩んでしまう。
「しかし本当に凄いな。そこらの大人よか強いだろ」
「ふふ、ありがとう……でもそれは、グレンも一緒でしょ?」
実は最初からずっと思っていたのだ。
無造作に座って見ていた時も、声を掛けてこちらへ近付いて来る時も、今の立ち姿も。
六歳の子供とは思えないほど堂に入っている。
……恐らく、僕よりも。
大人の人格を持っていて、ちょっとずるをしている者として、自信を失くしてしまうほどだ。
「そりゃま、頑張ってるからな。でも、そう言うんじゃなくてさ。
同い年でここまで出来るやつが居るとは思ってなかったんだ。
少し天狗になっていたんだなってさ」
「うん、それは僕も同じだよ」
「そうか……よし!」
そう言うと、グレンは剣を抜いた。
まさかこの場で模擬戦でもするのか、という考えが一瞬だけ過ぎったが、すぐにそんな短慮な子ではないだろう、と思い直した。
「俺だけ見せて貰うんじゃ不公平だろ。
それに、俺も元々剣を振りに来たんだよ」
「そうだね、僕も見学をさせて貰おうかな」
僕はグレンがさっきまで座っていた場所まで下がって、ちょこんと腰を下ろした。




