因果応報の男
児木ふり男は生まれながらの勝者である。
有名モデルの母とアメリカ人とのハーフである父との間に生まれた結果、素晴らしい美形を手に入れた。家も大企業を経営していて彼はその跡取り息子である。運動神経も良く、成績も小中高大学主席で卒業した程の頭が良かった。
まさに勝者であった。
彼には大っ嫌いな存在がいた。
一ノ前優太郎。ふり男の同い年のはとこである。
小太りな体型にのほほんとした顔。ふり男のはとこであったが、父親は平社員、母親は専業主婦と言う一般的な庶民家族であった。運動神経も成績もいつも下から数えた方が早かった。
ふり男はこのはとこが、敗者が大っ嫌いだった。
どう言う訳か優太郎は小中高ふり男と同じ学校だった。ふり男は優太郎に自分とは血縁関係ではなく、赤の他人として接しろと命じた。愚鈍なはとこは笑いながらそれを了承した。
しかし、事ある事に彼はふり男を窘めた。
「児木君。あんまり女の子をとっかえひっかえするのはどうかと思うよ」
「児木君。少しは桜川さん(ふり男の当時の彼女)の気持ちを考えなよ」
「児木君。コンドームは男のエチケットだし、女の人の心を守る大切な物だよ。だから付けてあげなよ」
「児木君。先に生徒会の仕事を終わらせてから遊びに行こうよ」
「児木君。大谷君(ふり男が当時いじめていた男子生徒)を虐めるのは止めろよ」
あまりに言うものだから、ふり男は大谷から優太郎にターゲットを変えたのは遅くはなかった。彼は取り巻きを使って、靴箱や机の中をゴミだらけにしたり、ある時は暴力を振るったりした。一部の取り巻きはカツアゲをしていたそうだが、彼は無視した。身体を丸めて無様に暴力の嵐に耐える優太郎の姿にふり男は影で嘲笑った。
大学は流石に一緒になる事はなく、そうしてふり男は優太郎と二度と会う事はなかった。
その後のふり男は順調だった。
会社の後を継ぐ為に大学卒業後、直ぐに入社した。その後は順調に好成績を出し、ついには専務にまで上り詰めた。確かに彼はこの時光り輝いていた。
女性には困らなかったふり男だっだが、気になる女性が二人いた。
一人は営業課の左右田莉李亜。
頭の悪そうな女であったが、そそる身体だった。セフレになっても良い女だった。営業課に勤める事が出来たのもその身体を使ったのだろう。
二人目は総務課の鈴野倫子。
彼女は左右田と違って地味な女だった。しかし、よく見れば中々整った顔立ちをしていて、化粧をすれば愛人としてやっても良いと思ったのだ。
なのにこの二人はふり男の誘いを断った。
鈴野に至っては「最近寝ぼけていますか?」と言って笑いながら断ったのだ。プライドだけは人一倍高いふり男はコレに怒った。二人に復讐すると誓った。
そんな時に彼の従姉妹であり、恋人でもあった児木りふこが離婚したと耳にしたのだ。
りふことは一度結婚しても良いと思った女であったが、両方の両親の強い反対で結局別れる事になった。しかし、別れた後も人目を憚る様に会って愛を育んだ。……それはりふこが結婚した後でも。
りふこの一番が自分であれば、別にどこの男と何しようが関係がなかった。
そのりふこの悪い癖のせいで子供を取られ、慰謝料と養育費を払う羽目になったと聞くとある事を思いついた。
そうだ。あの女達を辞めさせて、りふこを雇おう。営業課の方は大学の後輩に優秀な奴がいたからソイツを雇おう。二人共優秀だからきっと会社の役になるだろう。そう愚かな事を考えた。
早速彼女達の上司に命令して解雇し、二人を雇った。
彼等が活躍すれば父や祖父も勝手に社員をクビにした事を許してくれるだろうと確信したふり男。
ソレが間違いだと告げられたのは三カ月後。
ある日、父から呼ばれて大会議室に向かった。その途中でりふこと後輩に出会い、二人も父に呼ばれたと知る。
何故呼ばれたかと傾げるふり男だが、もしかしたら昇格の話かもと意気揚々と会議室に向かった。
会議室には上座に会長である祖父、その両隣には社長である父、副社長である伯母が鎮座している。そしてずらっと役員達が地位順に座っている。一番下は総務課と営業課の部長が三人を睨んでいた。
「……お前達が何故呼ばれたのか、分かっているのか?」
会長に言われて思わずお互いの顔を見合わせる三人。その様子に重い溜息を吐く会長。
「……専務。君は私や社長がいない間に女性社員を二人、勝手に辞めさせたね。…………二人の勤務態度を見ても解雇される理由はない筈だが」
会長に言われて思わず言葉を詰まらせるふり男。何とか言いわけしようと口を開いた途端。
「もう良い。何も言うな。お前の身勝手な理由で真面目な社員を二人解雇した事は分かっているんだ」
父である社長にその様に切り捨てられて思わずむっとする。
「お言葉ですが、専務が公私混同をするような人ではありません」
後輩が援護射撃をするが、ソレを鼻で笑う社長。
「営業部長。総務部長。左右田莉李亜さんと鈴野倫子さんが辞めさせられた後の君達の職場がどうなったか教えてくれたまえ」
「「はい」」
「最初に。鈴野君の教育係は児木でした。勤務態度はそこまで悪くなく、勤務年数も積んでいた為彼女に任せました。それから五カ月後に彼女は一度退職したのですが、鈴野君は総務の戦力として立派に活躍していました。
ある日私が長期出張から帰ってきたら、……いつも静かな総務が、まるで大嵐の如く電話の鳴る音、応対する声、謝る声、怒鳴る声で修羅場状態でした。
問い質すと鈴野君が辞めた日から少しずつ仕事の量が増え、いつの間にか仕事が間に合わない所まで陥っていたのです。
直ぐに原因を調べた所……鈴野君がやっていた仕事の量が五人分の仕事量だった事が判明しました」
五人分!? これには周りの役員も騒ぎ出す。
「一人でそんな数の量を処理していたなんて信じられない。普通は潰れる筈じゃあ……」
役員の一人が総務部長に質問する。
「鈴野君は社会に初めて入った為、この量が世間一般的な
普通と思ったのでしょう。そして、それを助長したのは児木君、君だね」
「ち、ちがいまっ」
「言い訳無用。君の取り巻き達が全て話したよ。世間知らずのお嬢さんに自分達の仕事を押し付けた事をね。彼女達に本来の仕事を振り分けさせましたが、何せ何年も鈴野君が一人でやっていたいましたから、手際が悪いのは仕方ないし、残業する時間も増えたのは自業自得です。…………しかし児木、貴女は残業もせずに、定時で帰ってましたね。貴女が処理しなければ他に仕事が回らないのが幾つもあったのに、それすら処理せずに帰ったお陰で、周りがどれだけ迷惑かけたのか分かります? ……長期の過酷な残業で、どれだけの社員が体調不良で休職したと思っているのです?」
笑顔が特徴の総務部長が能面の様な無表情な姿でりふこを見る。彼が本気でキレている事が分かる。
「今回の件で君の取り巻き達も目が覚めて色々話してくれたよ。君が寿退社する前から新人をいびっていた事も、同僚の恋人を略奪しゴミの様に捨てた事も。……専務がソレを指示した事もね」
そうです。実は一度だけどうしても邪魔な女社員がいて、その人が付き合っていた恋人をりふこに頼んで略奪して貰ったのだ。そのお陰で女社員は退職し、元恋人もりふこに振られた後に自殺未遂をして鬱病で会社を辞めたと聞いていた。
「…………どこまで腐っているんだ貴様は」
「情けない! お前をそんな淫売に育てた覚えはないわよ!!」
父である社長は眉間に幾つもの皺を作り、憎しみを耐えていて、副社長(実はりふこの実の母)は顔を両手で隠している。
「そもそもお前を復職する事は反対だったのですよ!! お前の性格からして他の社員に迷惑を掛けているのは目に見ていたのに」
「だ、だって、あんな額の慰謝料と養育費なんて簡単に払いきれないよ……しかも子供に会う事も許されないしっ」
「当たり前です!! 幼い優太を家に放って置き、自分の火の不始末で息子を殺そうとした挙句、その時のお前は危険ドラックを吸いながらの乱交たなんて……優一さんにどれだけ申し訳なかったか!! 母恋しい年齢の筈の優太が、お前の顔を見て泣き叫ぶ時点で、お前がどれだけ最低だったか分かるでしょうが!?」
「だ、だって淋しかったから……」
「お黙り!! 元はと言えばお前の我がままで買った住宅のローンを少しでも返す為に、優一さんが頑張っていたのよ!? それに優一さんは休日の時は、ちゃんと家族サービスをしていた事を皆知っているのよ!」
因みに住宅ローンは副社長夫婦が慰謝料の一つとして全部払った。(まあ、直ぐに家は売ったが)
まさかそんな事をしていたなんて。何時も簡単に誘いに乗るからてっきりベビーシッターを雇っていたと思っていた。
ぽかんと思わず後輩の顔を見る。後輩も同じ気持ちなのか口を開いている。
「口を開いている暇はないぞ木鰤君」
鬼の営業部長がその名の通り鬼の様な顔をもっと凶悪にさせていた。
「木鰤君。確かに有名大出身だがソレがどうした。例え高卒でも優秀な人間もいるし逆の人間もいる。お前さんの様にな」
営業部長の嫌味に思わずムッとした表情を作る後輩。営業部長はソレを鼻で嘲笑う。
「加野世・木枝・九野木・毛野・小村・茲宮。……この名前に覚えはないか?」
聞き覚えがないのか首を傾げる後輩。その姿に役員だけではなくふり男も驚愕する。
その六名はわが社のブラックリストに入るクレーマーだ。ただ、文句を言う程度なら害はないのだが、この六名は行動力のある事に有名で、匿名サイトで大暴れしたり噂話をしたりして会社の評判を落とそうと頑張る人間達だ。
だからこの六人を相手をするのは、相当の手慣れでないと相手に出来ない為新人には必ずこの六人の名前を、もし対応せざるを得ない時はその時のマニュアルを見ながら対応する様にと厳命している筈だ。教育係がちゃんと教育していなかったのだろうか?
「お前さんの教育係だった篠田は一生懸命に教えていたよ。君を立派に成って欲しかったからね。しかし、確かお前さんはそんな篠田君に何て言ったけ? 確か『高卒の分際で偉そうに語るな』『底辺の癖に』『貧乏人が』だったかな? …………篠田君が高校生の時に父親が亡くなって、少しでも家族が楽に成れる様に自分から就職の道を選んだ彼を侮辱する事は俺が許さん」
営業部長の形相に思わず腰を抜かしてしまった後輩。ふり男の方は何とか耐えたが、少しでも気を抜いたら後輩よりも酷い醜態を晒しそうだ。
「専務、君の様子だと何も知らない様だな。君が推薦した後輩がどんな事をやらかしたか」
「えっ?」
此処三ヶ月は忙しく、本社に通わないと言う日が多かった。
「木鰤君はね、あろう事かK6全員を怒らせてクレームの嵐を起こしたんだ。お陰でその日のサーバー、電話線はパンクしその日の仕事がお釈迦にしたんだよ」
「な、何ですって!!」
後輩は勿論、りふこにもそんな話は聞いていない。何故そんな重要な話をしなかったんだ!! そう
りふ男は二人に怒鳴った。
「だ、だってふり男が言っていたじゃない。『各自の判断に任せる』って」
「『自分が重要ではないと判断した物は俺に報告するな』て言ったのは先輩じゃあないですか」
確かにふり男はそう言った。だけど、事態の大きさを考えれば分かる筈であろう。
三人の姿に会長と社長と副社長は同時に溜息を吐く。
「相変わらず変わらんなお前は。それに比べて優太郎君はどれだけ素晴らしい人間だったか」
憎たらしい人間の名前が祖父の口から聞いたふり男は、かっとなって思わず怒鳴った。
あの男は容姿も成績も運動も何もかも自分より下だった。何故そんな奴は優秀で、自分は劣っていると言うのだ、と。
その答えは副社長が父や兄達の代わりに答えた。
「あのねふり男。人の優秀さを語るのに容姿や成績や運動神経は関係ないの。勿論それも要因にもなるけど、一番大切なのはその人の人柄なのよ。ふり男、お前が学生生活の女性関係の尻拭い、そしてイジメを止めていたのは優太郎君なのよ」
『イジメ』の単語を聞いてふり男はギクリとする。
「知らないと思っていたのか? お前が高校の時に付き合っていた桜川さんは会長の恩師の曾孫。今は世界的な会社の社長と結婚しているが。優太郎君の前に虐めていた大谷君は、若いながらも次期総理大臣と言われている敏腕政治家。特にいじめ問題に取り組んでいるそうだ」
高校以降交流がなかった二人の今に、驚きを通り越して思考停止するふり男。
「爛れた女性関係をすれば大きな問題が出る。それなのにどうして問題に成らなかったと思う? 優太郎君が振った女性達のメンタルケアをしたり、付き合っていた女性達に頭を下げてピルを飲んで貰ったり、コンドームを持たせて付けさせるように頼んだりしていたんだよ」
「優太郎君のイジメの事だって『自分がここでリタイヤすれば、彼はまた他の人間を虐めるだろう』と私達を止めてワザワザ生贄に買って出たのよ」
「……優太郎君の祖母は私の姉だ。彼女は私の妻、エリザベスの結婚を唯一認めてくれた人だった。親戚達を黙らせる為に尽力してくれた人だ。そもそも、庶民家系の一ノ前に嫁いだのは、姉さんをどこぞのドラ息子に嫁がせて権力を握ろうとした馬鹿の陰謀を聞いて先手を打ったのだ。……一ノ前の人達は姉をとても大切にしてくれた事と姉夫婦が愛し合っていた事が救いだ」
三人の、特に祖父の話は初めて聞く話だ。優太郎の祖母は勝ち組のレールから落ちた敗者だとふり男が勝手に思っていたから、彼女のお陰で祖父母が結ばれたと知ってガラガラと何かが壊れる音がした。
「まあ、いろんな言葉を掛けてもお前は変わらんだろう。今回お前達を呼んだのは処分を言い渡す為だ」
「専務が私情で社員を解雇した挙句、採用した社員は会社を混乱させる大失態を起こさせた。なのに当の本人はその事を気付かないと言う、専務としての職務を果たしていなかった。他の二人は説明はいらないでしょうね」
そこまで言われて三人は初めて気付いたのだ。この場は三人の断罪の場所だと。
「児木りふこは沖縄の支店に転勤。慰謝料や養育費は給料から差し引きます」
「そんな!!」
「お黙りなさい!!!! 今のお前がそんな事を言える立場ではありません!! 先方には連絡済みですから今から行きなさい!!」
どこからか副社長のボディーガード達がやって来てりふこを連れて行った。りふこは暴れながら「悪いのはふり男よ! 私は悪くない!!」と喚きながら。
「木鰤は北海道の支店に転勤。北海道には鬼と呼ばれている人物がいるから彼の元、その腐った根性を直してきなさい。因みに辞めても構わないけど、この話は他の企業にも話しているから、大企業は狙えないと思いなさい。……まあ、君の所業はわが社が言わなくても他の社では有名な話しだけどね。……此方としては不名誉だけど」
後輩は魂が抜けた様に膝を付いたが。またボディーガードが出てきて後輩を軽々と連れて行った。
「ふり男。お前は潰れかけの会社の再建に行け。お前は優秀だろう? 会社の再生も簡単な筈だ。当分の間は転勤生活だと思え。取りあえず最初は長野だ」
「それと、今日から母親の名字を名乗りなさい。今回の問題は不相応な権力を持ったから起きた事件だ。これからは児木家の力を借りずに仕事をしなさい」
最後の言葉はふり男にとって死刑判決と同じ威力があった。
それからふり男は長野から始まり、色んな県に出向いた。
何とか再建出来た会社もあったが、出来なかった会社が多かった。時に銀行に頭を下げて融資を願い出た事もあった。プライドの高い彼には死にたくなる程の出来事であったが、それで融資出来れば良いのが、ほとんどの場合が断れるから彼のプライドはズタズタ。
専務の時は高級な車やブランドのスーツなど買えたのだが、一般社員の給料に落とされ、仕送りも家賃や生活費以外、梃子としてあげる事はなかった。
生活の質を下げる羽目になったふり男は、毎晩の様に酒を飲む様になった。
ある日、付けっぱなしのテレビからあの男の名前が流れ出した。
『今回のゲストは子供から大人まで感動の涙を流し、映画化にまでなった児童向け小説『そらの冒険』シリーズの作者である一ノ前優太郎さんです』
映画化!? 作者?!
ふり男は食い入る様にテレビを見た。そこにはいたのは少々ふっくらした体型をした穏やかで優しそうな顔立ちの眼鏡を掛けた男だった。
しかし、しっかりと面影が残っている。彼こそふり男がいじめていた大っ嫌いだった優太郎だと。
直ぐにふり男はスマホで調べた。
『そらの冒険』は少年そらが色んな世界に旅に出るが、その度に困難な壁が立つ。その度に彼は仲間と共に勇気と知恵を使って立ち向かう。
このシリーズは世界にも翻訳されていて、ついにはアニメ映画化にまで発展したのだ。ハリウッドでは実写映画化のオファーまでされている。しかも作者と共同製作するとまで監督が豪語していとテレビで紹介されている。
『この『そらの冒険』シリーズは差別や戦争など児童向け小説には不向きなテーマが多いのですが、先生の手によって子供にも読みやすい様に書かれてます』
『少しでも子供達に世界の問題を考えて欲しくって、編集者や友人達と話しあって書いています。そう考えればこの本は皆の努力の証かもしれませんね』
『特に反響が良かった第七巻。テーマは『いじめ』ですが、噂では先生は学生の頃にいじめを受けていたとか?』
『ええ、まあ。僕の友人がいじめられていたので止めに入ったのですが、逆にいじめられるようになりまして。自分が我慢すれば……と考えて卒業までに耐えていたのですが……社会に出てから僕の行動はいじめををした人達にも駄目だったと考え始めたんです』
『と言うと?』
『彼等は自分の行いが悪い事だと気付かないまま社会に出る。そして最後にはその報いが返る。僕が学生時代に何らかの罰を与えていればそんな考えを矯正出来た筈です。現に学生時代そのチャンスがあったんですから』
間違いなく自分の事を言っているのだとふり男は心の中で思う。
ふり男のくだらない自尊心のせいで輝かしい未来が、一瞬で消え去ったのだから。
『ここで特別ゲストをお呼びいたしましょう。一ノ前優太郎先生の奥様である一ノ前莉李亜さんです!!」
司会者の声と共にスタジオに入ってきたのは、何と左右田莉李亜だった。
『奥様は大学の頃からお付き合いをなさっていたそうですね』
『ええ。私はこの通り見た目が派手でしょう? お陰でチャラチャラとした人に絡まれたり、悪い噂を信じて中々友人達も出来なくって。彼だけは嘘の悪口を信じず、『私』と言う一個人を見てくれて。それから私が彼に猛アタックしたんです』
『失礼ですが旦那様が有名な作家で、財産目当ての結婚だと周りから思われているんじゃあないですか?』
『ああ。その心配はないですよ。私の実家は旧家なので贅沢さえしなければお金はありますわ。まあ、早く孫の顔を見せろと親が五月蠅いのでそろそろ……」
『ちょっと莉李亜さん。此処で言わないで下さいよ』
恥ずかしそうにしている優太郎と『ごめんなさいね』と左程反省していない莉李亜。『幸せですね~』と言うアナウンサーの言葉に耐えきれなくなってふり男はテレビを消した。
あまりにも自分の今が惨めで涙が出て止まらなかった。