【語り】
いつも一人だった。 母はいる。だが親からもらう愛だけで生きる希望を持てるほど自分は強くなかった。
小学生、中学生、高校生、いつも教室の後ろや端っこに座り、まるで置物のように過ごしていた。始めは耐えきれず他者と関わりを持とうと奮闘していた時期もあったが、いつしか諦めた。
他者を自分の世界から排除し、壁を作ることで傷つくことを避け、事務的なこと以外で他者と関わらない決意をした。
ただ、登校し外で誰とも会話もせず一日を終える。母の前では気丈にふるまう。偽りの笑顔、言葉を投げかけ安心させる。 そんな毎日に疲れていた。
学校が大嫌いだった。
口を開けば恋愛事、一見仲良さそうな友達の悪口を平気で言う女子。はたからみたら何が面白いのかわからない話で盛り上がり意気投合し友達になり、そのくせ些細なことで喧嘩し仲間外れにする男子全てに嫌気がさしていた。
いや、自分がもしももう少し周りに馴染んで生きれていたらこのような感情を抱くこともなく過ごせていただろう。それはわかっている。だが、自分はそういう風に上手に生きれなかった。この腐りきった根暗な性格のせいで周りに合わせて生きれなかった。
その結果孤立し、耐えようのない孤独を味わい続けるハメになったのだが。偽りの馴れ合いなど必要ない。不誠実な恋愛ごっこなど吐き気がする。世の中に本物など存在するのだろうか?全てが偽りでしかない。そう思う反面自分の意思と無関係に孤独の悲しみが襲ってくる。
やつらからは逃げようがなかった。
全てが信じられず、他者から距離を自分から置いているにも関わらず、孤独の苦しみを感じながら生きる。どれほど他者と関わらない決意をしようと孤独感からは逃れられない。自分でもよくわからない状態だ。いっそ死んでしまった方が楽になるのだろうがそんなことする勇気もない。 母がいる。せめて母が先に逝くまではこの命を全うしなければならない。
そんな自分は今年で大学生になろうとしていた。
本当は嫌で嫌で仕方がない。大学への進学は母の願いだった。うちの家には父親がいない。俺の高校入学後に自ら命を絶った。 根は優しい人柄であったが精神的に脆い部分があったため相当追い詰められていたのだろう。当時は悲しみにくれたが今は時折思い出せど昔ほどの悲しみは無くなっていた。
だが母はそのことを気にしてか一人っ子の俺を気遣ってくれている。学費の負担は気にしなくていいとか、将来あんたが幸せになってくれるならとか言われるとどうしても大学に行きたくないとか言うことが出来なかった。
こんなにも必死で笑顔を作って自分のことを考えてくれる人の気遣いを断ることができるだろうか?
自分の選択が正しかったとは言わない。だが後悔はしていなかった。
また置物のようにたんたんと時間を過ごしやるべきことをやるだけだ。問題ない。
明日から大学生活が始まる