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「なんだか不思議な光景ですね…」
ウイナがつぶやく。
私は石の中に半分くらい腕を突っ込んだ格好で物を探る。
たしかに傍から見たら不思議だよねぇ。
とりあえず気にしないでゴソゴソと漁る。
おっ、何かあった。
私は手に当たったそれを握り締めると石から手を出す。
「これは、見事な槍ですね」
エンテは私が取りだした物を見て感嘆の声を漏らす。
たしかに見事な槍だ。これは★★★の雷槍ジュネだったかな。
しかし……剣は鞘に収まってるからいいとして、
槍や斧とか取りだす時危ないんじゃなかろうか?
剥き出しの刃だもんね。
投擲武器に円月輪の女の子がいたと思うんだけどヤバくね?
私が雷槍を意識すると情報が流れ込んでくる。
★★★雷槍ジュネ 槍タイプ
アルギル族に伝わる天の怒りを代弁するとされる槍。
黒凛鋼の穂先に雷獅子の牙と爪をあしらった槍で、
時に紫電がほとばしる。
非常に開放的な性格で、格好もラフで動きやすいものを好む。
アビリティ
・攻撃時、確率で同列のバックへもダメージを与える :Lv-1
・攻撃時、確率で雷属性の追加ダメージを発生させる :Lv-1
スペシャルスキル
・天雷の一撃 敵フロントの一体へ雷属性の極大ダメージをあたえる
うむ、エンテと同じ★★★の女の子だ。
ちなみにガチャで出る武具のレアリティは
★★★が80%、★★★★が18%、★★★★★が2%となっている。
なかなかに厳しい確率だよね。
ゲームによってはさらに凄まじい確率のもあるけど。
★★はドロップでしかでない。
★★★以上ももちろんドロップで出るんだけど、確率は推して知るべし・・。
★★★が出ただけでも歓喜するほどといっておこう。
あと女の子のレベルは武具ごとに共通しているので、
同キャラは入手した時点で
その武具の最高レベルに統一される。たとえば10レベルのエンテがいたら、
新しくエンテを入手した時点で10レベルになっている。
ただ同キャラは同じ部隊に配置できないんだよね。
いろんな女の子をパーティに入れたいから、私は同キャラは重ねるほうだけどね。
重ねるというのは同じ武具を一つにまとめることで、
少しだけレベルが上がる以外は強さに変化はない。
ただし見た目というか色違いを選べるようになるんだよね。
たとえばエンテだったら二人目を重ねると緑の鎧に金髪という姿になる。
たしか三人目の黒髪に漆黒の鎧のエンテが結構人気があった気がする。
名前は白銀剣のままだけど。
巷には銀のエンテと黒のエンテの百合本というのがあってだね、
そりゃもう色々と妄想が……
「あの、マスター? 色欲がもれているようですけど…」
おおっとエンテさんから突っ込みを頂きました。
ウイナはそんな生温かい目で見ないように。
まぁ何が言いたかったかというと、
★★★★以上のはなかなか出なさそうだなぁということ。
雷槍ジュネはステータス的にはエンテよりも少し劣るものの
(エンテが同レアリティで高めというのもあるけど)
攻撃能力ではエンテ以上だ。
特に雷属性は弱点の敵はいれど耐性を持つ敵がいなかったからね。
アビリティを高めるとそりゃもうガンガンと敵を倒してくれる。
あとスペシャルスキル。
「武具乙女」では対ボス戦で使うかどうかくらいだったけど
(一日一回しか使えないからね)
この現実になった世界では初めて私に攻撃手段が出来たことを意味する。
これでみんなの役に立てるよ! 一日一回だけ。
「それじゃあ呼び出す……のは洞窟から出てからにしようか」
わざわざ狭い場所でさらに人口密度を上げる必要もないよね。
私達は特に魔物と遭遇することもなく洞窟から外に出る。
今はお昼すぎくらいかな。ちょっとお腹が減ってきてる。
呼び出す前に三人でお弁当を食べることにした。
まさか新しく女の子が増えるとは思ってなかったから、
お弁当は三つしかないんだよ。
「新しく仲間になる方ってどんな方なんでしょうね」
エンテが楽しみですという顔をする。
私は「武具乙女」の時のジュネを想像して……あの姿で出るのかとちょっと考える。
開放的な性格でラフな格好を好むというだけあって、かなり露出が高い。
ウイナは極端に露出が少ない姿だけど、ジュネはその逆だ。
絵だとそう感じなかったエンテでさえなかなかに眩しく思うほどだから、
ジュネが現実の存在として現れたら………痴女扱いされないように祈っておこう。
「それじゃあ呼ぶわね。秘められし魂よここに………サモン!」
私が力ある言葉を唱えると、
手に持つ槍の感覚が消えて目の前には一人の女性が……ってうわっぷ!?
「まぁ、あなたが私の主様ですね! なんて可愛らしい主様なのかしら!」
いきなり抱きついてきた小麦色の肌をしたナイスバディな女性。
「な、な、な、――マスターからはなれなさい!」
エンテが私からジュネを引っぺがす。
「まぁ、私と主様を引き離すなんて意地悪なのね」
いやはや、いきなり抱きつかれるとは思わなかった。
「お嬢様、これはまた個性の強い方ですね…」
うん。ウイナの意見に大賛成だよ。
「改めまして、雷槍ジュネと申します。なんなりとご命令くださいませ主様」
エンテがジトッとした目で見ているが、
気にした風でもなく挨拶をするジュネ。
改めて見てもなかなかに露出が高いな。
赤みがかかった茶髪をサイドに長く垂らした髪型。
可愛いというよりは美人さんな顔立ち。
健康的な小麦色の肌をしており均整のとれたプロポーション。
胸の大きさはウイナよりは少し小さいがエンテよりはある。
というか、全体的に「武具乙女」は胸が大きい女の子多いんだよ。
絵としての見栄えもあるから大きめに描いたりするだろうけど、
現実になったら結構な存在感がある。
私もこの姿になるまではもう少しあったのに……
いや悲しい現実に直面しそうだからやめとこう。
服装はビキニの水着に近い。
さすがにそれよりは布面積はあるものの、かなり刺激的だわ。
下半身はパレオを巻きつけたようなスカート状の布を巻いているけど、
その脚線美を隠すほどではない。
戦士というよりは踊り子といった印象を受ける。
「んふふ」
私を見る目がなかなかにやばい。獲物を狙う獣の目だ。いかがわしい意味で。
「武具乙女」でも積極的な言動が多かったから、
男性プレイヤーに人気があったけど(露出も高いし)
女の子も行けるタイプなのかな? それとも召喚主の性別でその辺り変わるとか?
どちらにしても夜は気を付けないといけない。貞操的な意味で。
「とりあえずジュネの戦闘能力も確認したいし、魔物を探そうか」
「ええ、主様に良いところをお見せいたしますわ」
なんにせよこれで仲間は三人。
しかも強さ的にはこの世界でも第一線で戦えるくらいだし、
そろそろ町かどこか拠点を探したいな。
村まで少し迂回して戻ることにする。
それにしても行商の人も言ってたけど、この世界は魔物が多いね。
しかも岩鬼クラスも結構強い部類だし。私達はそう感じないけど。
(私は戦闘能力ないから強敵だけどね。というか魔物全てがやばい)
「武具乙女」では魔物の種類がそんなに多くはなかったけど、
強い魔物の中にはドラゴンとかもいる。
この世界でも間違いなくいるだろうけど、いったいどれほどの強さなのか……
遭いたいような遭いたくない様な。
「マスター、害意を感じます」
あいかわらずのエンテ高感度センサー。遠くには岩鬼と岩子鬼が二体見える。
いつもならウイナに先制してもらうんだけど
今回はジュネにがんばってもらおう。
「ジュネ、よろしくね。エンテとウイナはジュネをサポートしてあげて」
私の指示に三人が応える。警戒しつつ近寄ると魔物もこちらを見つけたようだ。
おぉ、やっぱり魔物が襲いかかってくるのを見るのは怖いな。
ウイナが加入してからはだいたい先制で終わってたし、
こうやって迫ってくる魔物を見るのも久しぶりだ。
ジュネは落ち着いた様子で槍を構える。そのまま軽やかに魔物へ向かって駆けていく。
しなやかな動きは猫科の獣をイメージさせる。黒豹とかそんなかんじ。
エンテほどの直線的な素早さはないけど、魔物の動きに合わせて柔軟に対応できそう。
「ふふん」
魔物に接敵すると槍のリーチを生かして素早い突きを繰り出す。
岩子鬼は反応すらできずに胸を貫かれる。魔物達は憤ってジュネを囲もうとするけど、
バックステップで魔物と一瞬で間合いをとる。
間髪いれずに足元を狙って槍を振るう。
向かってこようとしていた岩子鬼は自分から槍に当たりに行ったかのようだ。
そのまま槍で岩子鬼を貫くと最後に残った岩鬼へと岩子鬼を押しやる。
「ガァァッガァ!!」
岩鬼は憤怒の形相で岩子鬼を弾き飛ばすも、
その背後から迫っていた雷槍の突きをどてっ腹に受ける。
次の瞬間雷槍が紫電を迸らせる。あれはオーバーキルだと思う。
けど強いね。
「エンテ、どう?」
私は同じ近接攻撃タイプのエンテに意見を聞いてみる。
「強いですね。槍のリーチを生かしてますし、戦い慣れているようです」
ふむ、たしかに熟練の戦士って動きだったね。
エンテとはタイプが違うけど、岩鬼程度では相手にならないみたい。
「心強い方が仲間になりましたね」
ウイナも微笑んでいる。たしかに前衛で戦える人が増えると安定感が増すもんね。
若干の心配ごともあるけど………特に夜寝る時。
雷槍 ジュネ
見た目 十七歳前後
髪型 サイドテール 赤みがかかった茶髪
服装 トップス 布を巻いたような服(露出高)
ボトムス 布を巻いたような服(露出高) パレオ
性格 開放的で積極的。可愛いもの好き。
口調 主様