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「マスターのご命令でもそれはきけません」
「いやでも無理があるでしょ」
「お嬢様、私もエンテと同じ意見です。万が一の時に対処できません」
「ぐぬぬ……」
私達三人は絶賛部屋で会議中である。
発端は夕食も食べたし湯浴みもすませたしでさぁ寝ようかという時。
エンテとウイナを武具に戻そうとしたのだ。
流石に三人で一つのベッドに寝るのは大変だからね。
いちおう大人の男の人が寝て十分すぎるくらいの大きさのベッドではあるんだけど、
男の人二人だと結構窮屈(騎士の人たちは大変そうだ)
女で小柄とはいえ三人だとゆっくり休めないしと説明するんだけど…
「マスター、寝ている間に不心得者が来ないとも限りません!
特に今この宿には男の方が多く泊っていますし」
騎士の人達は交代で魔物の警戒にいってるから、半分くらいはいないけどね。
「お嬢様に万が一のことがあってはいけません。
武具に戻ってしまいますと、即座に対応できないのです」
どうやら一度私の管理下になった武具は自らの意志で人型に戻れるとのこと。
ただどうしてもタイムラグは出てくるので、心配なんだそうだ。
二人とも私のことを思っての発言だから、無碍にできないんだよね。
「じゃあどちらかだけいてもらうという事で……」
昨日みたいに二人だったら、問題なく休めそうかな。 と言ったら
「マスター、私が残ります」
「いえ、エンテ。あなたは昼の戦闘では動き続けているし、
ゆっくりお休みください。私がお嬢様の警護をします」
「ウイナ、その心配は必要ありません。
昼程度の動きでは疲労した内にも入りませんから。
それに私の武器は剣です。近接戦闘になっても十分に対処可能です」
「エンテ、疲労というのは自分では気が付かない間に
蓄積されているのです。それにあなた昨日一緒にお休みしたのでしょ。
今日は代わってくれてもいいでしょう」
「ウイナ、昨日一緒の床についた私の方がマスターも安心出来ると思うのです。
あと交代制ではありませんよ」
…………なんだろう。なにか論点がずれてきてる気がする。
あと二人とも目が怖いんですけど。
そんなこんなで――
「ではマスターに選んでいただきましょう」
「わかりました。お嬢様が選ばれるのでしたら異存はありません」
こんな展開になりました。
なにこれ、どっち選んでも選択ミスになりそうなんだけど!?
というわけで……
「ではマスターが真ん中ですね」
「これならばお嬢様も安心ですね」
親子のように川の字で寝ることになりました。
だってどっちかなんて選べないでしょ! あの状態で。
問題は川の字をとれるほどベッドが広くないという事だね。
おもいっきり身体が密着してます。
もし男だったら歓喜してハァハァ言ってると思うね!
残念ながら私は女だ。
二人が密着して寝てるのを観察するのならハァハァ言えるんだけど、
二人ともなぜに私に手足を絡めるのかな?
別の意味でハァハァしそうだよ(息苦しい意味的に)
そして爽やかな朝を迎える。
ん……二人がとんでもない態勢になってたけどあえて何も言うまい。
二人を身体から無理やりひっぺがして、私は起床する。
「マスター、おはようございます」
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう二人とも。
朝ごはんを食べたら昨日のダンジョンを探索する準備をしましょうか」
そう、今日はあのダンジョンの中を調べるのだ。
おっと、そういえば昨日はバタバタしててレベルを上げるのを忘れてたね。
とりあえず死人使いの話もあるので、
エンテとウイナの対悪魔・アンデット系アビリティを上げておこう。
一気に上げたいところだけど、生活費を考えたらそうもいかないなぁ。
どこか町に拠点をもちたいところだね。
雑貨屋さんによって明りや携帯食糧、ロープなんかを買う。
こういう時は雑貨屋さんの品揃えに助けられるね。
店主さんに色々と必需品やあったら便利な物などを聞いておく。
私はもちろんエンテ達もそういった知識はなさそうだからね。
「しっかしお嬢ちゃん達、村の外にいくなら明日にしたほうがいいんじゃないか?」
「えっ?どうしてですか?」
「なに、騎士様方が今日北の魔物の討伐に行くみたいだからな」
なるほど、魔物が討伐された後の方が安心というわけだね。
「ご親切にありがとうございます。ですが少しやることもありますから、
出かけてきますね。村の南に向かうので大丈夫と思いますけど、
無理はしないようにします」
私はにこやかな笑顔でお礼を言う。
ひょっとしたら逃げ出した魔物に遭遇するかもしれないし、油断はできないね。
あまり魔物に遭うこともなく洞窟に到着した。
たぶん昨日結構な数の魔物を倒したからかな。
私達は洞窟に入る前に雑貨屋で買った明りを飲むことにした。
明りを飲む…間違いじゃないよ?
私達が買ったのは暗いところでも視力を維持できる夜目薬なのだ。
雑貨屋さんで売ってたやつだね。実はこの薬、便利な割にそんなにお高くない。
どうやらハンターの人達だけじゃなく、
猟師さんや村の自警団の人たちなど夜間に作業する人もよく使ってるとのこと。
ただし時間制限があるから、そういったことでもなければ使わないけどね。
でも両手が空いているというのは非常に助かるので、
いくつか余分に買っておいた。途中で切れたら洒落にならないもんね。
「ではマスターは私とウイナの間でお願いします」
「お嬢様、迷子にならないでくださいね」
なんというか、昨日の夜から二人の私への態度が過保護になってきている。
エンテはまぁわかるとしても、ウイナまでとは………。
たぶん私が一番頑丈だと思うんだけどなぁ。
洞窟の中は広くもなく、狭くもなくといったかんじだった。
岩壁がむきだしのままで特に整備されてるようにも見えないし、
自然の洞窟なんだろうね。
「マスター、害意を感じます」
エンテが手で皆を制止して小声で伝えてくる。やっぱり魔物がいるっぽいね。
「ここでお待ちください。ウイナ、マスターをお願いします」
「まかされました」
二人が頷き合う。私もとりあえず頷いておいた。
何故か頭を撫でられた。なんで!?
これって護衛対象じゃなくて、保護対象にちかいレベルだよね!?
精神年齢的には私の方がお姉さんだからね!
エンテが足音を殺して魔物に接近する。あれは岩子鬼かな?
魔物も洞窟に住むくらいだし、暗い所で目が利くんだろうけど薬を飲んでる
私達のほうがはっきりと見えるみたい。
エンテが静かに近づいて
――魔物がエンテに気づいた時にはすでに剣の届く範囲だ。
ザシュッ
岩子鬼の首に深い傷が生まれる。そのまま声もたてずに岩子鬼が崩れ落ちる。
あいかわらずハイスペックだねぇ。
ちなみに昨日の夕食の時に騎士の人に魔物の強さ的なことを聞いてみた。
実際にこの世界の人達にとって魔物ってどのくらいの強さなのか。
それによると訓練を受けた騎士さん達であれば、
岩子鬼などは問題ない相手とのこと。
ただし岩鬼になるとそこそこ腕が良くないと一対一では厳しいみたい。
安全に戦う為に、そのレベルの魔物を相手する時は二人組であたるんだって。
洞窟に現れた岩大鬼か岩魔鬼かはそれよりも強く、
一対一では勝てる人がすくないとか。
ちなみにおっさんことガムンさんは、
岩大鬼と一対一で戦っても勝てるみたい。
流石は副団長というところかな。でもそんな人たちが追ってる死人使いって
かなりやばいやつなんじゃなかろうか。
どうやらこの村以外にも騎士団の人達が散らばって動いているらしくて、
結構な人数が死人使いを追っている。
国を挙げての指名手配とかいってたもんね。怖い怖い……。
その後もエンテが問題なく魔物を倒していく。
洞窟は一本道で迷う心配もなく、私とウイナはエンテのあとを警戒しつつ進む。
「マスター、何かあります」
エンテが洞窟の片隅を指す。たしかになにかあるね。
近寄って見るとそれは宝箱だった。
ゲームとかでよくみる形のだね。ただ装飾っぽいのはなく、
ほんとにシンプルな木箱ってかんじだったけど。
……残念ながら開けられていて中身は空っぽだったけどね。
村からそう離れていないダンジョンだし、調べ尽くされてるよね。
魔物は後から後から住み着くんだろうけど。
いちおう二重底になってないかとも思って調べてみたけど、
何の仕掛けもなかったよ。
気を取り直してさらに奥へと進む。この先も宝箱はないだろうけど、
せっかくだし一番奥までいっておきたい。
調べ尽くされてるなら罠もそうそうないだろうし、魔物退治も兼ねてね。
現れる魔物は岩鬼や岩子鬼が多いけど、たまに見たことのない魔物も現れる。
巨大なネズミみたいな魔物や(尻尾がサソリのようになっている。毒持ちかな?)
普通の三倍くらいの大きさの蛇。ネズミの尻尾をした蝙蝠など
……さすがは異世界だわ。
ウイナもエンテでは戦いにくい蝙蝠などを射止めて援護する。
二人とも連携がとれててお姉さん羨ましいよ。私もなにか役立ちたい。
いやまぁ心配させるといけないから、じっとしてますけどね。はぁ。
というわけでほどなく私達は洞窟の最奥へと到達した。ちなみに道中、
宝箱を二つほど見つけたけどもちろん空っぽでした。
最奥でも宝箱は見当たらず、石でできたストーンサークルっぽいものがある。
何か儀式でもしてたのかな? かなりぼろぼろに崩れていて、
そうとう昔に作られたんだろうなと思うけど。
怪しいところはないかとストーンサークルをくるくる回って調べる。
うーん、特にこれといったものは…ん? この下の方に刻まれているのって………
「おひぉぉ」
「マスター!」
「お嬢様!」
私が奇声を上げると何事かと二人が駆け寄る。ごめんごめん、おもわず変な声が出たよ。
私が見つけたのはギフトシンボル。最初にエンテを手に入れた時のあれだ。
思わぬお宝ゲットに変な声が漏れてしまった。
「見て見て! ギフトシンボルだよ!」
私が興奮気味に二人にマークを指さすが、あれ? なんだか怪訝な顔をされる。
「マスター、特に何もないようですけど」
「お嬢様疲れているのでは? 早く外にでてゆっくりしましょう」
なんだか優しい目で見られてしまった。
ウイナにいたっては抱きしめてきて背中さすってくるし。
いやいや、私疲れてるからって幻覚見てるわけじゃないから!
「ひょっとして二人ともこれが見えない?」
なんとかウイナをひっぺがして二人に尋ねるも、
首を振るばかり。ふむ………ひょっとしてこのマークが見れるのって私だけ?
武具乙女を呼び出す力がないと見えないんだろうか。
もしそうだとしたらこの世界で私だけしか見えないのかも。
これは……探索されつくしたダンジョンも見て回る価値があるかもしれないね。
罠とかもあまり心配しなくていいし、
私にしか見えないお宝が待っていると思うとワクワクしてくる。
まずは目の前のギフトシンボルから。
私はガチャを回す時のようなドキドキ感を感じながら、手を伸ばした。