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私達はクタクタな足取りで村へと辿りついた。ウイナを買うためとはいえ、
ちょっと無理をしすぎた気がする。私も何度かダメージをうけたくらいだしね。
そのたびにエンテから泣きそうな顔で怒られたけど、
ダメージを引き受けるくらいしか私には出来ないんだよ…。
少しはエンテの負担を軽くしてあげたいんだよね。
でもその甲斐あってか、ウイナを買って余りある資金を入手できたのだ!
ウイナを買うってなんだか響きが妖しいね。
異世界もので奴隷を買おうとする描写があるけど、
それに近いものがあるかもしれない。
まぁ普通の人から見たら、弓買おうとしてるだけなんですけど。
「いくら頑丈とはいえ、マスターが攻撃されるのを見るのは嫌なのです」
エンテはほんとに私のことを心配してくれてるんだなぁ。いい娘やで、ほんまに。
「うん、ごめんね、お姉ちゃん」
しおらしくお姉ちゃんと言ってみる。
おぉ、そんなに顔を赤くされたらこっちまで恥ずかしいじゃないか。
ひょっとしたら行商のお爺さんと姉妹見たいって話してたのを聞いてたのかな?
たまには甘えてみるのもいいかもしれないね! 中身アラサーですけど。
「ほぉ、お主らが女将の言ってた姉妹か」
その時突然野太い声をかけられた。
エンテがスッと私と声の主との間を遮るように移動する。
声をかけてきたのは、山賊か? と思う顔だちの武骨な鎧を着たおっさんだった。
「おいおい、そんなに警戒せんでくれ。 おじさん傷つくじゃないか」
おっさんがすねても可愛くないから!
まぁ敵意があるというかんじじゃなさそうだし、
私はエンテの横から顔を出して尋ねる。
「あの、どちらさまでしょうか?」
女将が言ってたということは宿の知り合いだと思うんだけど。
「わしはベルト国の騎士、ガムンという。ちと仕事でこの付近を調査しておってな。
女将に最近このへんに見かけない人物が来なかったかと聞いたのだ」
ほほぉ、騎士さんなのか。
ベルト国というのは「武具乙女」にも名前が出てきた国だ。
見かけない人物か。そりゃ私達がまず思い浮かぶでしょうねぇ。
どう考えても理由ありな二人組だし。
「そうなんですか。私はヤト、こちらはエンテと申します。
少し遠い国から旅をしてきました」
他にどんな国があるか知らないから、遠い国で通すしかない!
「ふむ、遠いというとマダかエリュートあたりか……
まさか海の向こうのイバンではあるまいが………」
私はさぁどうでしょうと意味深な微笑みでごまかした。
どの国の名前も聞いたことないですから!
「まぁ深くは詮索はするまい。 探している人物ではありえんからな」
騎士がわざわざ探してる人物かぁ。厄介事の臭いしかしないね。
変にフラグたつとまずいし、このまま話をおえ――
「実は探している人物というのは――
「えぇぇっ!!」
「む? どうした娘」
「……いえ、こちらの話です」
フラグから突っ込んでくるなんて、避けようがないじゃないの。
というか機密とかじゃないのか。
「探している人物というのは、死人使いのガングァという男だ。
元々は王都の魔術院にいたのだが、つい最近王都で禁忌を犯してな。
国をあげて指名手配中なのだ」
死人使い…ネクロマンサーってやつかな。
しかし王都で禁忌ってどんだけやばいことしたんだろ。
「死人使いや死霊使いなどは扱う術が術だけに、
様々な制約があるのだがその中で最も陥りやすく
取り返しのつかない禁忌とされる行動がある。奴はそれをした。
操る死人を作る為に生きている者の命を奪うというな」
詳しく聞くと死人使いや死霊使いと呼ばれる人たちは
別に悪の魔法使いとかそういうのではなく、普通に職としてあるそうな。
ただ死という繊細な事象を扱う以上、様々な制約が課せられているとのこと。
中でも禁忌とされる犯してはならない、けれど陥りやすい行動として
ふたつあるそうな。
ひとつ、死者を蘇らせようとする行い。
死人使いなら普通にしてるんじゃあと思うかもしれないけど、
ここでいう蘇らせるというのは魂まで含めての完全蘇生のこと。
いわゆるアンデッドとして復活させるのではなく
人として復活させようとすることを指すんだね。
ただこれは成功したという話はないとのこと。
そりゃ成功させたら神様か何かかと思うよね。
大抵は蘇生させようとしても歪な魂になってグールなどになってしまうみたい。
そしてもうひとつが生きている者を死者に変えて従わせようとする行い。
これは単純に殺人でそれだけで罪なんだけど、
死人使いの場合は殺人の罪以上に重くとられる。
そりゃいくら従える死体が欲しいからって、私欲のために殺人起こすようになったら
第一級の危険人物だわね。
制約は他にも許可のない死体に術をかけてはならないとか、
町中などの公共の場で死人を連れまわしてはいけないとか
細かいものはかなりあるみたい。
「それで……そのガングァという人物がこのあたりに潜んでいるんでしょうか?」
そんな危険人物がうろついてるとしたら、ちょっと村の外で魔物退治したくないな。
いや、金稼ぐためにはしないとだめなんだけど。
「王都からこちらのほうに向かったという情報があってな。
部下を連れて調査しているのだ」
ふむぅ……確定ではないけど可能性はあるというかんじかな。
「お嬢ちゃんたちは村の外にでかけていたようだな。
できれば村からでないほうがいいが、もしどうしても出かけるならば気を付けてな」
「はい、ありがとうございます!」
私は満点の笑顔で返事をした。
なんだ、最初は山賊かと思って悪いことをしちゃったかな。
危険を教えてくれる良い人じゃないか。
「そうそう、わしと部下の騎士たちも今日はここの宿に泊る予定なのだ。
飯でも共に食おうではないか」
おいおい、褒めた途端にデレっとした顔でご飯誘ってくるとか…
たぶん子供がいたら娘と同じくらいだと思うよ。今の私。
「ほほぉ、二人は姉妹ではないのか」
はい、騎士のみなさんと食事中です。
今晩は緑魔イノシシのシチューと香辛料を利かせたあぶり焼き。
女将さんのいったとおり、結構なご馳走でした。騎士のみなさんも上機嫌だ。
でもかなり酔ってる人もいるけど大丈夫かな?
「私が姉妹なんて恐れ多い……ヤト様は私が使えるべきマスターです」
エンテとガムンさんが絶賛会話中。それを私は横にチョコンと座って聞いてます。
エンテの私に接する態度からの会話。
エンテは真面目で素直だからね。
私に対して姉として接するように演じるのは難しかった模様。
別に姉妹で通す必要もないし、勘違いされてたということにしておこう。
「なるほど……やはりやんごとなき身分の方であろうか……まさかどこかの姫君!?」
ガムンさん最後呟いてるように喋ってますけど、普通に大声で聞こえてるから。
かなり酔っ払ってる人ってガムンさんのことだから。
姫君は流石に自分でも恥ずかしい。
とりあえず聞こえなかったことにしてコップを傾けて顔を隠す。
ちなみに飲んでるのはジュースだ。お酒を飲もうとしたら止められた。
発泡酒が恋しいわぁ。
あと、ガムンさんたちはここから北西にあるバルーザの町にいつもは居るらしい。
バルーザの町は「武具乙女」にも出てきた町だ。
この国でもかなり大きめな町なんだって。
いずれは行ってみたいですと言うとかなり喜んでくれた。
この村にいつまでもいるわけにはいかないし、本気で考えて見てもいいかもね。
ちなみに他の騎士さん達はかなりの紳士でした。
いやぁ、最初はベルト国大丈夫か!?と思ったけど杞憂だったわ。
それと驚いたのは……
「副団長、そろそろ酒は止めたほうがいいのでは?」
「ぶぁぁかやろぉぉぅ。 こんくらぁいでぇやぁめれるかぁぁい」
いや、やめとこうよおっさん。副団長がそれでいいのか。
「というわけで、今私達は村の外に来ています」
「マスターいきなりどうしたのですか?」
エンテが心配そうにしているが、
ちょっとテンションが上がってるだけだから気にしないで。
ガムンさん達と食事を終えた次の日の朝、私は速攻で行商の人から弓を買ってきた。
ちょうどお爺さんと会って、なんとおまけをしてくれたというラッキーな出来事も。
そんなわけで弓を手にしてちょっと人のいない場所まで来たというわけです。
「エンテ、今から出てくる人は仲間だからね。警戒しなくても大丈夫」
「はい。 私のような存在なのでしょうか?」
「うん、エンテと同じく武具に宿った魂の存在だね」
エンテも緊張した面持ちで私の手にある弓を見つめる。
そりゃ同じ存在なんてあったことないだろうからね。
人型になったのも初めてっていってたし。
「それじゃあ呼ぶわね。秘められし魂よここに………サモン!」
私が言葉を紡ぐとエンテの時と同様に手に持つ弓の感覚がなくなりそして――
「はじめましてお嬢様。 閃光弓ウイナと申します」
私の目の前には閃光弓を持ち楚々として佇むメイドさんが立っていた。
★★閃光弓ウイナ 弓タイプ
魔を浄化すると言われる聖霊樹を用いて作られた弓。
その弓を引き絞ると輝く矢が生み出され、敵を貫く。
楚々としたメイドの姿をしており
本人も奉仕することに喜びを見出すタイプである。
アビリティ
・悪魔、アンデッド系の敵に対して確率でダメージ+30% :Lv-1
・攻撃時、確率で二回攻撃になる :Lv-1
スペシャルスキル
・浄化の加護 味方全体の悪魔、アンデッドへのダメージを上昇させる
ふむぅ…ウイナも「武具乙女」と同じかんじだね。
エンテと同じく悪魔系・アンデッド系に対してはかなり強い。
アビリティを両方とも高めることで高い確率で高ダメージを二回与えることが出来るのと、
スペシャルスキルの効果がパーティ全体に乗るのとで、すごい相乗効果がでるんだよね。
まぁスペシャルスキルは一日一回だけなんだけど。
ただ、素のステータスは攻撃がそんなに高くないので、
悪魔・アンデッド系以外に対しては非力ではあるけど。