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「というわけで、今日の宿代を稼ぐために魔物狩りに出かけます!」
「了解しました、マスター」
私はエンテと連れだって朝早くから村の外へとでかけることにした。
ちなみに一晩寝ると体力は回復していた。やっぱり宿は偉大だよ。
あんまり村から離れると迷って帰ってこれないかもしれないので
近場の魔物を倒そうと思う。
女将さんから魔物が出そうなところを聞くと、
木々が生い茂っている場所や岩場が続いている場所などで見かけるそうだ。
だからあまり近寄らないように言われたけど、そういうわけにはいかないよね。
「はぁぁっ!!!」
エンテが魔物を発見してはサクッと倒してくれる。なんと頼もしい。
昨日私が後ろから魔物に不意打ちを受けたのを気にしているのか、
なるべく離れないように気を使ってくれている。良い子だよ。
出会う魔物は昨日見た岩子鬼のほかにがたいの良い岩鬼。
これは昨日私を不意打ちしたやつだけど、能力的に子鬼の上位種といったかんじかな。
昨日はあせったけど、エンテが正面から挑めば楽に切り捨ててた。エンテ強いな。
あと緑色のバージョンの敵とも遭遇したけど、
こいつらは森子鬼、森鬼というやつら。
基本的に岩場に住むのと森に住むの違いくらいだけど。
こっちも問題なくバッサバッサと切り捨てていく。
ほかには緑魔イノシシという魔物。この魔物は角の生えた緑の毛皮のイノシシで、
突進がなかなか強烈だ。たぶん岩鬼の棍棒の一撃より痛いんじゃないかな。
ただ突進しか能がないみたいだったので、
エンテにとっては楽な相手のようだったけど。
これはたしかに私の方が妹っぽいな……。
いや、妹に守られる姉というのもこれはこれで……
などと妄想するくらいには余裕があった。おかげでお金が着々と集まってくる。
宿代は十分すぎるほど稼げたけど、
エンテのレベルを上げようと思うとなかなか大変だ。
「武具乙女」ではヴェールを使ってアビリティのレベルをあげていく。
なのでこれが経験値のようなものだと思う。
アビリティのレベルをあげる計算式はたしか
キャラのレアリティ×アビリティのレベル×千ヴェール必要となる。
ためしにエンテの悪魔・アンデッドに対する攻撃ボーナスを上昇させようと思ったら
今の段階で三千ヴェール必要になる。
2レベルから3レベルにしようと思ったら六千ヴェール。
どれだけ金がかかるか考えただけで頭が痛くなる。
「武具乙女」の時は結構高額で売却できるアイテムなんかを拾えたし、
クエスト報酬でもそこそこまとまったお金を入手できていた。
だけど現実問題、そう都合のいい話はないだろう。
それにゲームと違って生活にもお金がかかる。
最高レベルのキャラを揃えて無双!!
なんて野望は夢幻の如くだったよ……
お昼を過ぎたころに私達は村へと戻ってきた。
朝ごはんも食べてないし、お腹がペコペコだ。
ご飯一食ぶんのお金がなかったもんね…ひもじい……。
私達はとりあえずご飯を食べようと宿(一階部分が食堂兼酒場なんだ)
へと戻ると、猟師らしい人が女将さんと話をしていた。
「おや、お帰り。そういやお嬢ちゃん達は今日も泊って行くんだろ?」
「はい、そのつもりです」
宿代の心配もなくなったもんね!
「そりゃよかった。ちょうど良い食材が手に入ってね。
今晩はとっておきのご馳走を用意するよ」
なるほど、猟師の人が獲物を売りに来てたのね。解体とか女将さんがするのかな。
すごいな。ちなみに獲物はなんなんだろ……ってこれって。
「女将さん、これって緑魔イノシシじゃないでしょうか?」
「おや、よく知ってるね。 この付近の森では一番の上物さ」
猟師さんの足元にはさきほど私達が頻繁に相手をしていた猪の姿。
「光になって消えたりしないんですか?」
「へ? そんなことあるわけないじゃないか。
消えちまったら食べられないだろう」
まぁそうだわね。猟師さんが狩ってくるくらいなんだから、
ごく普通に食材なんだろう。
てっきり魔物って倒したら自動的にヴェールになるものと思ってたけど、
そっちのほうが普通じゃなさそうだね。
どういう理屈で魔物が光になるのかは検証する必要があるけど、
他の人達と一緒に魔物退治するのは遠慮したほうがよさそうかな。
ぜったい不思議がられるもん。
お昼御飯はちょっと固いパンと木の実や根菜たっぷりのスープでした。
素朴な味わいだったけど、空腹は最高の調味料とはよくいったものだね。
とてもおいしかったよ!
さて、次は雑貨屋さんを見てみようかな。
あっ、そういえば行商の人達がテントを張って商売するっていってたっけ。
「武具乙女」の時はアイテムとかあんまりなかったから、
どんなのがあるのか楽しみだなぁ。
雑貨屋さんは村に一軒しかないということで、すぐに見つかったんだけど……
普通に雑貨屋さんだった。あんまり日常品は違いがないみたいだね。
でもいくつかは日本じゃ見たことがないような道具も売ってた。
光亀と呼ばれる亀の魔物の甲羅を使った照明器具。
昼に光を貯めて夜にぼんやりと光るとか、ソーラーライトみたい。
緑魔イノシシの角が飾られた看板のようなもの。
田畑に置くことで害獣除けになるとか。 かかしかな?
あと闇祓い草と呼ばれる薬草から作られた夜目薬。
暗いところでも普通に見えるようになるんだって。便利だね。
次に行商の人のテントに行ってみたけど…この村ってこんなに人いたんだ!
それはもうバーゲンセールに群がるおばちゃんのごとくですよ。
そういえば、私ももうおばちゃんになるんだろうか?
子供の時ってアラサーくらいの歳の人、すごく大人にみえたよね。
っといかんいかん、また変な回想に入りそうになってたよ。
どうやら初日だから冷やかし半分、物珍しさ半分でたくさん人が集まったみたい。
売り物を見て回ると布製品が多く目についた。
布そのものを丸めて切り売りしているものや、服などに加工しているものなど。
どこか別の村では織物が盛んなのかもしれない。
安く買って高く売るのが商売の基本だし、行商でそういったルートがあるんだろう。
私はそれよりも小さい区画ながら怪しげな物が置かれている場所が気になった。
そこは魔法道具が置いてある一画だ。
日用品として使うものはこの村にも売っていたけど、
ここに並べられているのはそれらに比べてかなり高額だ。
こじんまりと置いてるし、見てる人も少ないからあまり売れないんだろうけどね。
「その辺りのは村などではあまり需要がないのです。
なので売る為というよりは見せる為というかんじですね」
売り子をしてる商人さんが言うには、辺境などにはいくつものダンジョンがあり
ハンター達が探索をしているそうな。
彼らが入手したもので高価なものは町まで行って売り払ったりするみたいだけど、
それほどでもないようなものや、かさばる物などは村などで多少安くとも売ってしまって
現金に変えるそうだ。
その中には思ったよりも価値があるものがあったりして、
たまに村人から掘り出し物の買い取りを求められることがあるみたい。
こういった風に魔法道具を見せておくというのは、一種の宣伝的なものも兼ねているのかもね。
団扇みたいなものや木箱? この箱も魔法道具なんだ。
いろいろあるなぁ……多少懐が温かくなったとはいえ、
付いてる値札を見ると買えるかどうか微妙。
たしかにこの村で買おうとする人は少ないだろうね。
と、私は一つの弓に目をひかれた。
この形、ひょっとして「武具乙女」に出てきた弓じゃなかろうか?
「すみません、この弓はどんな魔法の力がこめられているんでしょうか?」
「それは閃光弓と呼ばれている弓だよ。その弓で射た矢は浄化の力が宿るんだ」
ふむふむ…間違いないね。これは閃光弓ウイナだ。
レアリティは★★ではあるものの、
エンテと同じく悪魔系やアンデッドに対して高い効果を発揮するから、
その手の敵が多いクエストでは上位レアリティを押しのけて活躍してたもんね!
しかし……買いたいけど高いなぁ。さすがは魔法道具だよ。
もう少し頑張れば手が届かなくもないけれど……うーん…
「あの、この弓を買いたいのですけど、明日まで取っておいてもらうことはできませんか?」
「この弓ですか? 明日まででしたら大丈夫ですよ。どっちにしても売れそうにないですし」
売り子さんは苦笑して応じてくれた。よし! 買うと決めたらやることはひとつ。
「エンテ、行くよ!」
「はい、マスター」
私は夕方過ぎまでエンテ先生に剣を振ってもらうのだった。