表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武具乙女  作者: ふきの精
第三章
40/41

39

本日三話目の投稿です。



 「お嬢、びっくりさせないでよ。馬も驚いちゃったよ」


 「ごめんごめん。害意を剥きだしにしてたから咄嗟にね」



 黄金の粒子を身体に受けながら私は謝罪する。


 今はディナーナに馬車の御者を頼んで、戦場へ向かっているところ。

人影も見え始めたしどうやら間に合ったみたいだね。

でもみんな戦わずにこっちを見てるんだけど……なにがあったのかな?



 あれから精力薬が集まるのを待ち続けたんだけど、

どうにも集まらなかったんだよね。

そこで私も一緒に貴族の邸宅をお願いして回ったんだけど……

すっごく集まりました!


 たぶん武技大会に優勝したというのが大きかったのかもしれないね。

王様の時にも思ったけど、私の言葉をかなり後押ししてくれる。

それと、どうも使いの人達は私のことを話ししていなかったみたいで、

王様が使うんだと思われてたみたい。

王様……どれだけ夜の営みが活発でいらっしゃるのでしょうか?


 王様じゃなくて、私が戦いの為に使うといって回ったら喜んで渡してくれました。

いやぁ……人徳って大事だよね! 

なぜか娘として養子にこないかと何度か誘われたけど……。

もちろん丁重にお断りしたけどね。




 それにしてもさっきの竜、大きかったね。

あれも魔物の群れの一匹だったのかな。

まさか遭いたくないと思ってた竜にこんな場所で遭うとは思わなかったけど。

でも今の私は負ける気がしないね!

チート? いえ課金力です!

精力薬を飲み過ぎて、ちょっとお腹がタポンタポンいってるけどキニシナイ。

でも変な副作用とかないよね?



 「お嬢、みんな固まってるみたいだからこのままエンテ達を探すね」


 ディナーナが言うとおり、騎士さん達はみんな

何か信じられない者を見たようにこちらを見ている。

馬車から覗いた限り、綺麗に人と魔物の陣営に分かれてるみたいだね。

何があったのやら……。

そのまま進むと開けた場所に出る。

私はその光景を目にした瞬間――馬車から飛び出した!




 「エンテ、みんな!」


 私が見た光景。それは地に倒れ伏しているみんなの姿。

そしてボロボロになりながらも立ち続けるエンテの姿。



 「マスター……」

 

 エンテは私に駆け寄ると、半泣きのような顔をする。


 「力及ばずに……皆を守れませんでした」


 そんなエンテを思いっきり抱き締める。

皆を守れないとか……エンテ自身ボロボロじゃないの。

とにかく急ぎ回復させる必要があるね。


 私はスペシャルスキル[不滅の輝き]を行使する。

その瞬間エンテ達が温かな光に包まれていく。


 「うぅっ……あ、主様!」

 「うっ……お嬢様!?」

 「姫様、ありがとうございます!」

 「ううぅ……これって……ますたーだ!」

 「あぁっ、我が君……お待ちしておりました……」


 「ありがとうございます、マスター!」



 ふぅ、なんとか間に合ったか。

前に私が魔人に襲われた時と、逆になっちゃったね。

 

 「我が君、どうかこの二人もお願いいたします」


 イリアが切迫した顔で倒れている二人の男女に駆け寄る。

たしかに危険な状態だね。私は急ぎ不滅の輝きを行使する。


 「うぅっ……か、身体が……傷がなおっている!?」

 「ぐっ……この光は。あ、姉貴!? 大丈夫なのか」



 ふふっ、よかったよ。

流石に死人を生き返らせるのは無理だろうけど、

生きてさえいれば全快までいけるからね。


 さて……さっきからこちらを見ている三体の魔物。

「武具乙女」でも見たことないし、この禍々しい感じは――


 「あなた達、魔人なの?」


 ほぼ確信を持って尋ねる。

左右の二体も前に戦った魔人並みに禍々しいけど、真ん中のヤツは格が違う。

たぶん「武具乙女」のイベントで現れたレイドボスクラスだと思う。

イベントのレイドボスというのは、普通に現れるレイドボスと違って

サーバーに所属する全プレイヤーが挑むべき者。

横の魔人や前に闘った魔人が普通のレイドボスだと考えると、

桁違いに強いね。強いけど……今の私は負ける気がしない。




 「君は何者かな? 回復魔法を使うと思ったら、

 六眼竜を倒したのは攻撃魔法だろう?

 六眼竜を滅するほどの魔法を使うなんて、

 ひょっとして君もクワドラプルかい?」


 六眼竜……それって資料室にあった本にのってた準災害級の!?

ヤバそうとは思ったけどそこまでとはね。


 「まぁいい。せっかく楽しく蹂躙していたのに水を差された気分だよ。

 回復したところ悪いけど、君達はここで死んでもらうとしよう」




 …………楽しく蹂躙してたかぁ……そうかぁ。



 「正直言って、この力はズルイと思うのよ。

 でもね、私の大事なこの子達を傷つけたお前は絶対に許さない!」


 倒れているウイナ達を見て、心臓が潰れるかと思った。


 ボロボロのエンテを見て、心がギュっと締めつけられるのを感じた。


 みんなが元気に立ち上がる姿を見て、私は確信した。


 私はこの子達を愛してるんだなぁ。




 「人間ごときがバルハイに生意気な口を!」


 横合いから氷の爪が振り下ろされる。

私は目の前の獅子を見据えたまま歩み続ける。


 「がぁっっ!!」


 スペシャルスキル[呪いの盾]によってダメージを無効化し、

逆にカウンターダメージを与える。


 [白銀一閃]


 私を中心に閃光が放たれると、三体の魔人が苦悶の声をあげる。


 「なにっ……この僕に傷を?」


 三体とも魔人で助かったわ。私は[白銀一閃]を連続で行使する。

周囲を眩い光が途切れることなく照らし続ける。




 「ぎゃぁぁぁっっ!!!!」


 「がぉぉっっっっっっ!!」


 「ぐぅっっ!」


 眩い閃光が収まると、二体の魔人が黄金の粒子へと変わる。



 「ば……ばかな……幻術か何かの類か!? 

 この僕に魔法攻撃が効くはずが……」


 残念だけど、スペシャルスキルは回避、防御不可能な絶対攻撃。

というか魔法じゃないけどね。


 「さっき蹂躙っていったわね。私はそんな趣味はないから安心して。

 ――速攻で倒してあげる」






「これがお嬢ちゃんの言ってた奥の手か……」


 カラルは目の前の光景を信じられない者を見るように見続ける。

横にいるルルカも同じ思いだろう。

準災害級の魔人が二体……

それこそ国を滅ぼすだけの力をあっというまに倒してしまった。

ルルカでもあれほどあっさりと倒せはできないだろう。


 さらに災害級と思われる獅子の魔人。

その攻撃をどれほど受けようともまったく効果を及ぼさない。

逆に轟雷のごとく降り注ぐ稲妻で魔人を打ち続ける。

あの稲妻を浴びながらも攻撃を続ける魔人も怖ろしいが……


 「まさに桁が違うな」




 何十本目かの稲妻を受けて、とうとう魔人が片膝をつく。


 「なんだ……お前は……何者なんだ……こんな……馬鹿な……」


 絶対強者の魔人と生まれ、

その魔人の中でも自身が抜きんでたことを感じたバルハイは

常に見下ろす存在であった。

自分を脅かす者など存在しない。

それを確信したバルハイは他者の必死な姿を滑稽だと思うようになり始めた。


 そこからはまるで世界が、

自分を楽しませるためのゲームのようなものだと錯覚する。

簡単に命を刈り取り、そこに浮かぶ絶望を楽しむ。

魔物の群れを人間の町にぶつけようと思ったのもただの思いつきから。


 その自分の存在の全てを否定する目の前の人間。

生まれて初めてバルハイは見下ろされる存在となっていた。




 「ぐぉぉ……この僕が……魔王と呼ばれる僕が……」


 「ごめんなさいね、

 魔王を倒すのが勇者じゃなくてただの★★ダブルのハンターで」



 ヤトの[天雷の一撃]が数十回ほど撃ち込まれて、

ようやくバルハイの動きが止まった。

それでもその爪をヤトに突き立てようと手を伸ばし――


 「さようなら」


 更なる[天雷の一撃]を受けて地に倒れ伏した。

ゆっくりと黄金の粒子へと変わるバルハイ。

その黄金の粒子が全て自分の身体に吸収されるのを待って、

ようやくヤトは地面に座り込んだ。


 「ふぅ……終わったぁ」




 その瞬間轟く歓声。

ハンターや騎士たちが勝ち鬨の声をあげてヤトを称える。

悪夢のような力を持った魔人達を一掃したこの小さな少女に、

人々は惜しげもない称賛の声をかける。

それとは正反対に、残った魔物の群れが我先に逃げ始める。

圧倒的な力で自分達を率いていた魔人。

その存在を容易く滅ぼす存在。そんな存在に勝ち目などあるはずがないと。






 「とんでもない奥の手を持ってたな、お嬢ちゃん」


 カラルさんが身体を引きずりながら、傍らにやってくる。

というか、カラルさんもボロボロだね。

私はにっこりと笑って座ったままガッツポーズをとる。


 「なんとか間に合ってよかったです」


 「あぁ、助かったぜ」



 カラルさんもガッツポーズをとる。

ふふっ、なんだか安心したら眠くなってきたよ。

エンテ達も笑顔で近寄ってくるね。


 武技大会に来たはずだったのに、

とんでもない大事になっちゃったけどこれで家に帰れるね。

バルーザの町に帰ったらみんなで武技大会優勝のお祝いをしなくちゃ。


 ほとんど賞金使っちゃったけど、小さなお祝いなら出来ると思うよ。


 優勝したんだから、ちょっとくらいおさけをのんでもいいとおもうんだよね。


 がむんさんやてぃーれさんにじまんしちゃおうかな


 それからもっと もっと ぶぐおとめを ふやして




「マスター!!!」







 マスターが倒れられて一週間ほど経ちました。

私達はあれからすぐにメレテクトの町に戻り、治療院で診てもらいました。

しかし原因は不明。ただ穏やかに眠り続けるだけとしか……。


 考えられる原因は精力薬の飲みすぎ。

聞いたところ百本を越える数の薬を飲んだとのことでした。

マスターはスキル回復薬としかいってませんでしたが、

なにか副作用があったのかもしれません。


 私達はメレテクト王家から、名誉騎士の称号を受け取りました。

メレテクトの国に多大な貢献を働いた者へと贈られる

名誉あるものとのことですが、正直マスターのことで頭がいっぱいで

それどころではありませんでした。


 ただ王家の好意で、屋敷を貸していただけたことには感謝していますが。

マスターと私達はそこに一時的に住み、

マスターが目覚めるのを待ち続けました。


 「マスター……」



 その姿は普通に眠っているだけのよう。

今すぐにでも起きて、おはようといってくれそうな……。

治療師の話では、いつ目覚めるのかは分からないといわれました。

イリアの力を持ってしても、回復はできないとのこと。

自分を責めるイリアを宥めながらも、

私自身マスターに何もできないもどかしさに嫌になりそうでした。


 ジュネは静かでした。いえ、心の中は荒れ狂っていたと思います。

たとえメレテクトの町が救われようとも、

それでマスターがいなくなってしまっては意味がないのですから。


 ウイナとメビウスは常にマスターの傍らに留まりました。

無防備なマスターを守る為に。


 それ以外の者達はギルドで依頼を受ける毎日でした。

いつまでも王家の好意に甘えるわけにはいきません。

それにマスターだったら、

しっかりとお金を稼ぎなさいって言われそうですし。

ふふっ、マスターが回復したら

何か美味しいものをみんなで食べに行きたいですね。


 あとクワドラプルの方も見舞いに来られました。

カラルという男と、グリティーヌという女。

クワドラプルが二人揃う事はかなり珍しいことなんだとか。

その二人と一緒に来たギュイという男とルルカという少女。


 ギュイという男はどうでもいいとして、

ルルカという少女からは強い力を感じました。

おそらくは魔人。

ですが、魔人という存在に特に恐怖を感じなかった私達には関係ないことでした。

(人はみな大なり小なり魔人にたいする恐怖を子供のころに教えられるそうです)


 私達が皆、彼女のことを恐怖しなかったのが

気に入ったのかわかりませんが、

ルルカという少女は度々屋敷で寝泊まりするようになりました。

ギュイという青年はもちろんお断りしましたが。



 この国の国王が一度お忍びで見舞いに来たのには驚きました。

精力薬を集めるのを手助けをして下さったとのこと。

私達はその精力薬の副作用で眠り続けるマスターを見て、

複雑な気持ちになりましたけど。

お妃の方たちが皆マスターの手を握り締めて、

声をかけてくださったのは嬉しかったです。

皆、マスターの目覚めを待ち続けているのですよ。



 もちろん私は誰よりもそのことを願っています。

どうかもう一度目を開けて、

その大きな黒い瞳を好奇心いっぱいに動かして、

見るもの全てを温かい気持ちにさせる笑顔を見せてください。



 私達武具という存在は使い手がいてこそ輝くことが出来るのです。

マスター以外に、私達を輝かせる存在はいないのですから……。

私達のことを武具乙女と呼ばれるマスター……知っていますか?


 

 武技大会の決勝で私達を振るうマスターの姿。

その時についた二つ名が「武具乙女」だということを。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ