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武具乙女  作者: ふきの精
第一章
4/41

3

ルンタタルンタタルンタッタ……



 私とエンテは今馬車に揺られている。

べつに捕まったとかではない。街道を歩いてると親切な行商の人と出会い

魔物が多いし危険だからということで、村まで乗せてくれることになったからだ。


 下心があって実は襲おうとしてるとかを心配したが、足がくたくただったのと

善良そうなお爺さんだったので甘えてみることにした。

いざとなったらエンテ先生にお願いしよう。


「しかしお嬢ちゃんみたいな若い娘が二人旅とか大変じゃのぅ」


 馬の手綱をとりながらお爺さんが話しかける。ちなみにその横に私が座り、

エンテは後方を警戒している。


 他に商人っぽい人が二人とお爺さんの雇っている護衛の人が四人ほどいるけど、

私達をチラチラ見るくらいで特に何も言ってこない。 

雇い主の意向に従うと言った感じなんだろう。


「そうですね。遠い国からやってきたのでわからないことも多いですし」


 とりあえず必殺「遠い国から来たので無知です作戦」をとってみる。

「記憶喪失で無知です作戦」も考えたけど、エンテと二人だと難しかった。

二人とも記憶喪失とかさすがに無理があるからね。


「そりゃ大変だのぉ。姉妹力を合わせて頑張るんじゃぞ」


 うむ、なぜだか私達は姉妹ということにお爺さんの頭の中でなっているらしい。

遠い国から理由ありの美人姉妹の逃避行。

きっとお爺さんの中ですごいドラマが展開されてるんだろう。

一人っ子だったから弟か妹がほしかったんだよね。

こんな可愛い妹ならば大歓迎ですとも!


「お姉ちゃんをしっかり助けてあげなきゃあな」


って私が妹かい!  そりゃ身長は私の方が小さいし、

顔だちも幼くなってるけどアラサー女なんですよ、中身は。  






「そういえば、今向かっている村はなんていう村なんでしょうか?」


ひょっとしたら「武具乙女」で出てきたことのある名前の村かなとおもったけど


「ん?  カンテっていう名前の村じゃよ。 

小さい村だし他国の人じゃわからんだろうのぉ」


 カンテ村か。エンテと名前似ているね! まぁ関係はないんだろうけど。 

あと聞いたことはないなぁ。「武具乙女」にも村はいくつか出てきたけど、

カンテ村というのはなかった。

でもまぁゲームの中の世界が現実になったとして、

実際にいくつかの町や村しかない世界というのは考えられない。

それこそどんだけ狭い世界なのってかんじだもんね。


 つまり「武具乙女」に登場した国や町や村、

魔物やアイテムなんかも世界のごく一部分なんだろう。

ゲームありきの世界じゃなくて、

世界の一部分だけをゲームのように見ていたというか。


 あまりゲームの知識に引っ張られすぎると、

思いもよらない事態になりかねないかもね。気を付けとこう。

だいたいこの手の小説やらゲームやらって慢心してると

足元すくわれるって展開が多いし。

慢心、駄目。でも知識としては使える部分も多そうだし、

その辺りは役立てないともったいないね。



 道中暇だったのでお爺さんに色々と情報を聞いてみた。


 一番の懸念だったのは身分保障など。

とりあえず他国から来たといってしまったものの、

不法入国とかで捕まるんじゃないかと言ってから気が付いた。

けどそのへんは大丈夫のようだ。戦争などをしていた時代は厳しかったようだけど、

戦争などもなくなり、国と国との壁がだんだんと薄くなって、

現在は移動に制限はないとのこと。

あれか……ヨーロッパのシェンゲン協定みたいなものかな。


 町への通行証というものもないみたいだけど、

身分証明書的なものはあると便利ということだった。

中には身分証明書がないと入れない場所もある。


 情報を集めたい場所として図書館のような場所がないか聞いてみたら、

あるけど身分証明書が必要とのこと。

何か入手方法を考えないとなぁ。

ハンターギルドに入るのが手っ取り早いと教えられたけど、

同時にお嬢ちゃんたちじゃ難しいかもなとも言われた。

まぁこんな可憐な乙女達では戦えるとは思わないよね。実際私は戦えないけど。



 話してるうちににお爺さんの中で、

私達が貴族の箱入り娘という設定がプラスされたようだ。

あまりに常識的な質問をしたからなのかな?

遠い国から理由ありの貴族の美人姉妹の逃避行……

なんだか字面だけでみるとすごそうだね。








「さぁついたよ」


お尻が痛くなってきた頃、村へと到着した。結構距離があったね。

歩いてたらヘトヘトになってたと思う。


「ありがとうございます!」


 私は満面の笑顔でお爺さんに応える。乙女の全力な笑顔だ。

なぜか頭をポンポンされた。なんだか孫娘的な扱いだな……。


「しばらくはこの村でテントを開いてるから、困ったことがあればきなさい」


 私とエンテはお爺さんを見送ると、さっそく村を巡ってみることにする。

とりあえずは宿だな。

お爺さんからは宿の場所を聞いていたので、迷う事はない。

ちなみにお爺さんは行商ということで村長さんの家で厄介になるみたい。

村にとって行商に来てくれる人は貴重な人みたいで、いわゆるVIP待遇なんだそうだ。

うらやましい。



 村に一軒しかない宿は他に誰もお客さんがいなかった。

村に訪れる人が少ないんだろうな。行商の人が喜ばれるわけだ。



「いらっしゃい、おや可愛いお客さんたちだね」


 女将さんは恰幅のいい、THE・女将というかんじの方だった。

可愛いか……良い人だね!


そういえば宿賃っていくらなんだろうか。二千四百ヴェールあるけど……


「一部屋二千ヴェールだよ」


おぉぅ……ギリギリだ。もっと魔物を倒してればよかったかなぁ。 

いや、そんな余裕はなかったか。


「じゃあ、……一部屋お願いします」


 同性だから同じ部屋でも問題ないか。

というわけで部屋へと案内されていってみたんですが――



「ベッドひとつとか……」


 そう。ベッドがひとつなんですよ。しかもあんまり旅人が来ないためか、

部屋が狭くて

「じゃあ私はソファで寝るから」

なんてことも言えるわけでなく…ソファがないからね!

エンテと同じベッドで寝るしかないか。エンテはどう思ってるのかな……

とエンテを見ると。


「え、いつの間に着替えてたの!?」


エンテは軽鎧を外して白のブラウス姿になっていた。


「休息を取るとのことですから、とりやすい格好をしましたけど……

問題があるようでしたら装備をしますが」


 そういうとエンテは一瞬で軽鎧と白銀剣を身につける。なんという便利な。


「っていうか剣を手放せたんだ」


 てっきり白銀剣が本体だと思ってたけど、どうやら人型が本体のようだ。

鎧なども自由に着脱できるとのこと。

剣を抱えて眠るとかすると思ってた。どっかの武芸者みたいに。


「私もそれできないかな」


とりあえず装備を脱ぐことを意識してみる。

目を閉じて脱ぐ、脱ぐ、脱ぐと……身体が軽くなった感じが………おっ、できた!!

ってエンテが顔を赤くしてます。なぜ?


「マスター、脱ぎすぎです」


自分の姿を見てみると、下着すら身につけてない産まれたままの姿の自分がそこに。


「うぎゃー!!!」



慌てて元の姿に。 加減が難しいな。







 私とエンテはラフな格好でそのまま食事を頂き、休むことにした。

ご飯が一人百五十ヴェール。残金百ヴェール。

ほんとは雑貨屋とかを巡る予定だったんだけど、

所持金が百ヴェールでは如何ともしがたいね……。

明日はちょっと頑張って魔物を倒さないと、村の中で野宿をすることになりそう。


 エンテとはベッドを一緒にしたけど、もちろん間違いなんて起きないよ。

というか、エンテはごく当たり前のようにくっついてきたんだけど。


 召喚主ということで、完全に安心しきっているというか………

「武具乙女」は信頼度や愛情度みたいなパラメータなかったんだよね。

まぁ彼女達も呼び出した時点で

一人の個性ある人間なんだと思う。そう考えると、

ゲームの時以上に親しみが湧いてくるね。


 お休み、エンテ。 胸を張ってマスターですと言えるように頑張るよ。

私は眠るエンテの髪を撫でながらそう決意した。



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