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武具乙女  作者: ふきの精
第三章
36/41

35



「いやぁ参ったぜ……まさかその盾までが同じ存在とはな」


 カラルさんがそう言いながらメビウスを見る。メビウスは誇らしげだ。


 「おまけに弓のお嬢ちゃんもだとはな」


 ウイナは優雅に一礼して微笑む。


 今は表彰式が終わった後の控室跡。

まだ結構な人がいるけど、メインの武技大会が終わったから

祭りの後のような雰囲気になってるね。


 約束通りカラルさんからバースダイアモンドリングを頂くことが出来ました。

武神の冠を渡そうとしたけど、いらないんだそう。

こっちはお金がいくらあっても足りないから、有難く頂戴したよ。

その代りの条件として、また戦ってほしいんだとか。

ほんと……どんだけ戦うのが好きなんだか……。



 あと国王様主催の祝賀会に呼ばれたりしてるんだよね。

私はともかく、エンテ達に声がかからないといいんだけど。

私? いやぁ侍らせてるお姉さんたちみんな胸が大きかったし、

私は対象外だと思うよ。声かけられても嫌だけど。


それじゃあ私達もそろそろここから出ようか。

ってなんだか入り口付近がすごい喧騒に包まれてるね。

近くによると、なにやら慌ただしくハンターの人達が声をあげている。

何かあったのかな?



 「すみません、何かあったんでしょうか?」


 とりあえず近くにいるハンターさんに聞いてみようか。

 

 「えっ、あぁなんだかとんでもない数の魔物が

町を目指して進んでいるらしい。

 それも超獣や凶獣クラスのやばいやつらが……

 ってあんた優勝したヤトさん?

おまけにクワドラプルのカラルさんも!?」


 とりあえず「あはは」と愛想笑いして誤魔化しました。

カラルさんはめんどくさそうな顔。

というか、魔物の群れとかやばそうだね。

今この町にはかなりの数のハンターの人がいると思うけど、

超獣ってたしか複数のパーティで戦うみたいな魔物だっけ。

そんなのが群れでとか……。とりあえずもっと情報が必要だね。


 「あっ、カラルさんとヤトさんこちらにおられましたか」


 突然声がかけられる。誰だろう……知らない人だけど。


 「すみません、私メレテクトのハンターギルドの者です。

 今現在魔物の侵攻の為にギルド員に緊急招集がかかっております。

 カラルさんとヤトさんには討伐部隊の主力チームとして

 作戦に加わっていただきます」


 たしか緊急招集には原則ギルド員は参加だったっけ。

というか、町の危機にのんびりとしてられないね。

短い間だけど、色々と思い出も出来た町だからね。


 「まぁしかたねぇな。お嬢ちゃん達も一緒についてくるといい。

 戦力はいくらあっても足りなさそうだ」


 カラルさんは私だけでなく、エンテ達にも声をかける。

せっかくだしそうさせてもらおうか。

私達はパーティでこそ力を発揮できると思うからね。



 


 というわけでメレテクト騎士団本部にお邪魔してます。

ここで騎士団とハンターギルドが連携しての作戦が立てられているみたいだね。

集まったハンターの中にはトーナメントに出場した人も見受けられた。

やっぱり実力者が集まってたんだね。

あっ、フラキスさんが私に気が付いたみたい。

フラキスさん達もパーティで集まっている。


 「やぁ、ヤトさん。優勝おめでとう。

 あんなに強いなんて、失礼ながら予想外だったよ」


 まぁ、普通はそう思うよね。というかエンテ達がいないと戦力ほぼゼロです。


 「魔物の群れってどれほどの規模なんですか?」


 「あぁ、それなんだけど……ちょうど騎士団の人が説明してくれるみたいだよ」


 ガヤガヤとした室内が少し静かになる。

書類を手に持って人は隊長クラスの人っぽいね。


 「いまから襲撃してくる魔物と作戦の詳細をお伝えいたします」



 騎士の人が魔物の説明をしていくんだけど、

そのたびに室内にざわめきが起こる。

確認できた魔物だけで、ギガースが十体、キマイラが八体、牛闘鬼が十体、

べリアルハウンドが十二体、デモンズスコルピオが十五体、ヒュドラが十八体、

ワイバーンが十体、大角水獣が十三体……


 「武具乙女」で聞いたことのある魔物もいれば、聞いたことのない魔物もいる。

ただみんなの反応からどれもヤバい魔物というのは想像がつくね。

というか、湖岸の洞窟で戦ったヒュドラ十八体というのだけでも、

目眩がするんだけど。これら以外にも魔獣、害獣クラスが混ざっているみたい。

どれだけの魔物の群れなんだか……。

湖岸の洞窟や塔で見たみたいに、魔物同士が共闘することはあっても、

基本的に魔物は同族以外で群れを作ることはないんだとか。

そのことから、今回の魔物の群れがどれほど異常なことかわかるね。

それにしても魔物の群れかぁ……どこか頭にひっかかるんだよねぇ。


 「こいつはまずいな……ルルカのやつがいれば多少はましなんだが……」


 カラルさんが小さな声で呟いてる。

クワドラプルの人が眉間にしわを寄せるなんて、かなり危機的状況だ。


 

 魔物の群れはかなりゆっくりとした速度で侵攻しているんだけど、

確実にこのメレテクトの町は通過するだろうとのこと。

この町が目的地なのか、他に目的地があるのかはわからないけど、

他国に援軍要請をしながら迎え撃つみたいだね。


 主力となるのは騎士団の人達。

対大型魔物用の大型兵器も投入するみたいだけど、

数が少ないからそれほど期待はできなさそう。

逆にハンターの人達は武技大会の関係もあって、

かなりの人数が集まってるのは不幸中の幸いだったよ。


 このままの速度で行くと、二日後には群れの先端が

メレテクトの町に到達するみたいだから、時間の猶予はそれほどない。

辺境付近に監視所を設置していて魔物の領域を監視しているそうなんだけど、

どうも盗賊の襲撃が重なって連絡が遅れたみたい。

悪いことって重なるもんだよね。


 作戦としては正面からぶつかっても戦力負けしているので、

峡谷に誘い込んでの包囲攻撃を行うとのこと。

魔物はただ前進するのみだから作戦が上手くいけば、

戦力で負けていても勝機はありそうだね。

正面はメレテクトの重歩兵部隊で抑えつつ、大型兵器で打撃を与えていく。

そこに左右に潜んでいた私達ハンターが側面から強襲、

それに続いてメレテクト精鋭部隊が正面から突撃という形。


 他国の援軍が間に合えば、さらに勝率は高くなりそうだね。

でもさっきから頭にひっかかる嫌な予感。

うーん……魔物の群れ……侵攻……色んな種類の魔物が……!?


 まさかこれって「武具乙女」にあった魔物大侵攻イベントじゃないよね?

大侵攻イベントというのは、

いわゆるボスラッシュと呼ばれる強敵との連戦イベント。

難易度によって連戦の数が変わるけど、

通常のクエストが数戦なのに対して最低でも十戦。

最高難易度だと三十戦にも及ぶ。

しかも現れる魔物はボスラッシュと呼ばれるだけにどれも強い。


 それだけでも突破するのに大変なんだけど……

最後の一戦のボスがまた強かったんだよね。

この魔物の大侵攻もひょっとしたら……。

もし魔人や準災害級クラスの魔物が最後に現れたら、

この町や他国の援軍を合わせても厳しいんじゃないかな。

ゲームだったら再チャレンジすればいいけど、現実になった今は負ければ終わりだ。

もちろんそんな魔物が現れることなく、

討伐が完了する可能性もあるんだけど……万が一の備えは必要かもしれない。


 万が一の備え……私はスキル回復薬を思い出す。

この町を探し回っても今からだと一本見つかるかどうかじゃないかな……。

お金ならあるのに、歯がゆいね。



 「どうしたお嬢ちゃん。急にウンウン唸りだして?」


 カラルさんが声をかけてくる。というか、そんなにウンウン言ってた?

ウイナも心配そうに頷く。無意識に声に出てたみたいだね。


 「カラルさんは、この魔物の侵攻の影に何かもっと

 危険な魔物が潜んでいると思います?」


 「……まぁいるだろうな。おそらくは魔人。

 複数の魔物の群れが混ざって侵攻するなんざ、

 それ以上の力を持つヤツが統率していると考えた方が自然だ」


 カラルさんも私と同じ考えみたいだね。

私のようにゲームとしての知識からじゃないけど。


 「お嬢ちゃんはそれを心配してるわけか」


 私は無言で頷く。


 「もし魔人でも現れたら、流石に厳しいな。

 今の段階なら勝機は十分あるだろうが……簡単にひっくり返されちまう。

 並みの魔人ならサシでやり合えるんだが、

 これだけの魔物を統率していると考えたら難しいな」


 魔人と一対一で戦えるだけでも凄いと思うけど、それ以上の力を持ってるのかぁ。


 「まぁいるかどうかは実際に戦わんとわからんが、警戒はしておくべきだろうな」


 うん、そうだよね。その言葉を聞いて決意する。

時間の許す限り、スキル回復薬を探して回ろう。

とりあえずみんなに説明して、全員で探せば見つかる可能性は高まるね。


 「エンテ、ジュネ、ウイナ、メビウス、アドナ、ディナーナ良く聞いて。

 今からみんなにはこの薬を探して回ってほしいの」


 そう言って、私はみんなの前にスキル回復薬を見せる。

とにかく同じようなのを見つけたら確保しておいてもらわないとね。


 「お嬢ちゃん、それって精力薬じゃねぇか」


 カラルさんが怪訝な顔をして私を見る。

まぁ普通に考えたらこの緊急時に必要なものじゃないよね。


 「えっと……奥の手です」


 とりあえず笑ってごまかすに限る。

精力薬が奥の手って無理があるどころの話じゃないけどね。


 「こんなときに冗談……を言ってるようにも見えんな。

 お嬢ちゃんが奥の手っていうくらいだ。何かしらの秘策でもあるのか?」


 秘策……秘策というよりは課金パワーとでもいいますか……

とにかく真剣な顔をして頷いておく。


 「そうか……じゃあちょっとついてきてくれるか?

 町中を駆け巡るよりも、確実に手に入れることが出来る奴に心当たりがある」








 メレテクト辺境


 

 群れなす魔物の中に佇む一人の少年。

サラサラとした金髪を揺らせながら、眼を閉じて考え事をしている。

あまりに場違いな存在であるはずなのに、

周囲の魔物はまるでその少年を恐れるように傅く。



 「ん、お帰りマルジュア。うっとおしい蠅は追い払ったかな?」


 少年が声をかけると、フワリと風がなびいて一人の少女が現れる。


 「ただいま。このあたりを嗅ぎまわってる盗賊たちなら、

 今頃は魔物のお腹の中よ」


 青色の髪を腰まで伸ばした少女が眠そうに返事をする。

まるで他愛のないことのように。



 「ふふっ、そっちじゃないよ。ルルカのやつが近くにいたみたいだからね」


 その言葉を聞いて、少女は眉をひそめる。


 「ルルカですって? あの裏切り者が私達の計画を邪魔しようと?」


 「さぁ、どうかな。でも僕ら魔人が関わっていると知ったら

 本気で邪魔しにくるだろうね」


 まるで他人事のように語る少年。


 「ほっほっほ……流石はバルハイ様。

 ルルカを意にも介さぬ魔人はバルハイ様だけでしょうな」


 現れたのは白いひげを長々と伸ばした好々爺然とした老人。

しかしその瞳は冷たい光が宿る。


 「まぁ厄介だとは思うよ。せっかくの戦力が多少なりとも減らされるだろうからね」


 「かなりの戦力だと思われますが、まだ足りませぬか?」


 「人間達もかなり集まってるみたいだからね。まぁ面白い見世物になると思う」


 バルハイは遥か北に視線を向ける。そこにいる人間達の慌てふためく様を想像して。


 「バルハイがサーッといってペチッってしちゃえば簡単なのに……

 回りくどいんじゃないの? ダゴスもそう思うでしょ?」



 ダゴスと呼ばれた老人は首を横に振って肩をすくめる。


 「マルジュア様はわかっておられませんな。

 我らが直接手を下しては面白くもなんともない。

 魔物どもに必死に抵抗する人間の姿。そして我らを見て絶望する姿。

 それを見るのが楽しいんですよ」


 ダゴスの言葉にマルジュアはそんなものかぁと呟く。


 「そういえば、モルバは誘いに乗らなかったようだね。

 こういった祭りごとは好きそうだけど」


 「あやつは好き勝手に動いておりますからな。

 まぁ我ら魔人がこのように集まる方が珍しいのですが」


 その言葉を聞いて、ニンマリと口を歪ませるマルジュア。


 「私だってバルハイがいなければ、ここにいなかったわ。

 災害級の力を持つバルハイがいなければね」


 「マルジュア様、その呼び方は人間達のもの。

 我らには相応しい呼び名がございます。――魔王という」



 その言葉を聞いてにっこりと微笑むバルハイ。


 「魔物と人間との生死をかけた、楽しいゲームの始まりだ」


 

 バルハイはまるで無邪気な子供のように、

絶望と怨嗟で大陸が染まるのを夢想する。




 



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