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武具乙女  作者: ふきの精
第三章
35/41

34

本日二話目の投稿です。


 いよいよ決勝戦。

正直ここに立ってるのはエンテかジュネだと思ってたけど

私が立つことになるとは思わなかったよ。


 トーナメントの組み合わせの良し悪しがでたかんじだね。


 「これより蒼眼のカラル対、黒髪の破壊天使ヤトの決勝を行います」


 実況席から声が響くと、場内が大いに盛り上がる。流石に恥ずかしい……。


 目の前に立つのはクワドラプルのカラルさん。

蒼い槍を肩に担いでこちらを観察する。

エンテがいってたとおり、

あの蒼い眼に見られるとこちらの行動が見透かされる気がするね。

おっと、試合前にちょっと提案をしないといけない。

それによっては残念だけど私は勝負を捨てるしかないね。



 「あの、カラルさん。ちょっと提案があるんですけど」


 「なんだい嬢ちゃん。手加減して欲しいってお願いならきけないぞ」


 「賞品のことです。もし私が勝ったら、

 武神の冠とバースダイアモンドリングを交換していただけないかなって」


 正直なところ賞金よりも武具乙女を手に入れるのが優先だからね。

あとで賞金を使ったら買い戻すことができるかもだけど、

もし売らないっていわれたらどうしようもないし。

私の言葉を聞いて、カラルさんは一瞬間の抜けた顔をする。

言ってる意味がよくわからないからかな。

普通に考えたら、武神の冠のほうが高そうだからね。


 「くっ……くくく……がっはっはっは」


 と思ったらいきなり笑いだしたんだけど。しかも三段活用笑いだよ。


 「いやぁ何を言い出すかと思ったら。

 いきなり勝利宣言をされるとは思わなかったぜ」


 ん? あぁたしかに言い方的に私が勝つからこその提案だもんね。

クワドラプルの人にそんなこと言うのはそうそういないのかも。


 「もちろんいいぜ。もともと賞品に興味はねぇよ。

 なんならただでくれてやってもいい。

 だが……勝てるとは思わん事だ」


 その瞬間カラルさんから強い重圧が放たれる。

これはたしかに強いわ。人類のトップクラスと言われても頷けるね。

魔人と正面から睨みあったときを思い出させるほど。

でもエンテやジュネ達に守られてる事が多かったけど、

私だって命の危険をかいくぐったことだってあるんだからね。

私はその言葉を聞いて、にっこりと微笑む。


 「よかったです。これを一生懸命担いできたのが無駄になりませんでした」


 私は背中に背負っている風呂敷を地面に置いて広げる。

もし交換してくれないとなったら使うことはなかったけど、

これで気兼ねなく使う事が出来るよ。


 私は悪魔の顔のついた盾をリュックのように背負い、

右手に白銀剣、左手に雷槍を持つ。うん、おもいぃぃぃぃぃ。



 その姿にカラルさんが首をかしげる。


 「その剣は……」


 「エンテは私の仲間よ。第三回戦の借りは私が返させてもらうわ」


 流石に見覚えがあるみたいだね。

そう、今回はディナーナにはお休みしてもらってエンテとジュネを装備している。


 (あぁ、主様の体温が伝わってきますわ)

 

 (ジュネ、馬鹿なことを言ってる余裕はありませんよ。

 マスター、このような機会を頂き感謝いたします)


 二人の声が響いてくる。レベル的にはトップの二人。メビウスは念のため。

今の私達で出来得る最高の組み合わせだよ。


 「仲間に武器を借りてきたか。

 だが強力な武具を身に着けただけで強くなれるとは思わん事だ」


 まぁ装備しただけならね。でも使い手が二人ついてるんだよねぇ。

もちろん身体は一つしかないから

エンテとジュネとメビウスがバラバラに戦う方が強いだろうけど。

でもこの武技大会のように一対一の戦いならば

今の私の状態が一番勝率が高いと思う。



 「まぁせっかくの決勝戦がつまらない戦いにならないように頼むぜ」


 「つまらなくなるかもしれないですよ。負けちゃったら」


 私とカラルさんとがお互い不敵に笑いあう。

審判の人も位置についたみたいだね。それじゃあやるとしますか。




 「はじめ!」



 審判の人の声とともに、私はドラゴンパワーを発動させる。

途端に漲る力。両手に持った白銀剣と雷槍を自在に動かせる気がするね。


 「じゃあ、いくよ」


 (攻撃はおまかせください)


 (昨日の借りを返させていただきます)


 二人の声を聞きながら、カラルさんに接近する。

カラルさんは槍を構えてこちらを見据えているね。

リーチは相手の方が上。技量も間違いなく相手が上だね。

でもこっちはある意味三人がかり――メビウスもいれたら四人だった。


 間合いに入った瞬間高速で突きだされる槍。その一撃を白銀剣が弾く。

同時に雷槍がカラルさんに迫る。

柄を使って器用に雷槍を逸らせると、そのまま薙ぎ払う。流石に速い。

けどエンテがそれに対応する。

私とカラルさんは槍と槍、槍と剣を激しく打ち合わせる。

白銀剣はエンテが、雷槍はジュネがそれぞれの意志で動かしているんだけどね。

私は感覚を研ぎ澄ませて、カラルさんの行動を注視している。

たぶん、かなり戦いにくいと思うよ。

両手の武器がそれぞれ違う生き物のように襲いかかるんだからね。


 スペシャルスキルで力が高まっているとはいえ、戦闘に関しては素人だからね。

知覚能力や思考速度が優れているといっても、クワドラプルの人と戦えるほどじゃない。

身体がついていかないのは、魔人との戦いでも思い知らされたし。

だからエンテとジュネを信じて戦うしかない。

ただエンテがカラルさんとの戦いで感じた、

剣の来る場所が分かっていたかのようって言葉が気がかりなんだよね。

何かしらの力を隠し持ってる気はするんだけど……

もし未来予測とかの力だとすると洒落にならないんだけど。


 

 じょじょにカラルさんの攻撃が激しさを増していく。

なんだか顔がにやけてるんだけど気のせいだよね?

こういうのってなんていうんだっけ……バトルジャンキー?

蒼い槍がうっすらと輝いて、カラルさんの腰が微かに沈む。

ヤバい気配を肌にビリビリと感じる!


 (エンテ、ジュネ!)


 私の意思を感じ取り、白銀剣と雷槍が身体の前で交差される。

次の瞬間爆発的な突きの嵐が吹き荒れる。


 「くっうっっっ!!」


 蒼いオーラを放ちながら、目の前に迫る無数の突き突き突き。

白銀剣と雷槍が嵐のような突きに相対する。


 ガギッンガギッンガガギッン!!


 刃と刃がぶつかり合う音がけたたましく響き渡る。

猛烈な突きはただでさえ鋭いというのに、衝撃波すらともなってくる。

これは流石に、厳しいかも――


 (こんのぉぉぉぉっっっ!!)


 頭にジュネの怒号が響き渡ると、雷槍が負けじと紫電を纏いながら乱れ突かれる。


 突きと突きの応酬に、より一層激しい音が響き渡る。

それだけじゃなく、衝撃波と紫電の輝きが周囲に撒き散らされる。

雷槍の突きはカラルさんに届くことはないけど、雷撃は確実に身体に届いている。

私は私で衝撃波の余波を受けてるから、衣服がボロボロに裂かれていく。

でもここで引くわけにはいかないね。

致命的な一撃だけは貰わないように、槍の動きを見極める。


 「ちっ、仕切り直しだ」


 カラルさんの声が聞こえたかと思うと、

強烈な薙ぎ払いとともにバックステップで距離を取る。



 「はぁはぁ……」


 私は息を整えながら、カラルさんをみやる。

カラルさんは呼吸が乱れた様子はない。流石に疲労はしてるみたいだけどね。

私は自分の意思じゃないとはいえ、

身体を動かしてるのにかわりないわけで……疲れたぁ。


 「あの攻撃を凌ぐとはな。

 正直戦う前はたいして期待してなかったんだが……、俺の眼も曇ったもんだ」


 いやぁ、力が強くなるくらいで身体の動きとかは素人だし曇ってはないと思うなぁ。

武器を振るえば達人に見えると思うけど。


 「黒髪の破壊天使って二つ名は伊達じゃねぇな」


 「いや、恥ずかしいから言わないでほしいんですけど」


 実際に言葉に出されると、穴を掘って潜りたいくらい恥ずかしい……。


 「そうか? 似合ってると思うがな。

 まぁいい。こちらも奥の手を使わせてもらうぜ」


 そう言うと、カラルさんの瞳が蒼さを増していく。

これってエンテと戦った時の最後に似てる?


 (マスター、お気をつけて。あの瞳になると雰囲気が変わります)


 実際に戦ったことのあるエンテから警戒の言葉が聞こえてくる。

うん……たしかに雰囲気が変わるね。

今までが飄々としたかんじだとすると、今は張りつめた氷のような雰囲気を感じる。

私はその雰囲気に呑まれながらも、ジリジリと間合いを詰め始める。





 (ふぅ、三日続けてこの力を使う事になるとはな。

 今回の武技大会はまったく楽しませてくれる。)


 カラルは蒼い眼を目の前の少女に向ける。

ジリジリと間合いを詰めてくるところは、エンテという少女と同じ。

そしてスキルの力を解放した以上結末も同じになる。カラルは槍を構えてそう思った。


 カラルのスキル、リーディング。文字通り思考を読み取る力。

しかしカラルのソレは考えていることを全て知るというものではなく、

一部分だけを読み取るというもの。

ただしその読み取る思考は隠すことのできない、深層をも暴く。

もともと単独で超獣クラスの魔物とやりあえる実力を持つカラルがこの力を行使した時、

魔人に匹敵する力を持つクワドラプルと呼ばれる存在となる。


 カラルはその眼で目の前の少女を見据える。

ジリジリと間合いを詰めるヤトが攻撃を仕掛けるタイミング。

それを読み取ろうと。



 (そろそろこちらの槍が間合いに入る。どうでる?)


 三回戦と同じように、先にカラルの間合いに入る。しかし今度の相手は槍を持っている。

カラルはそのまま間合いを詰めてくるヤトに怪訝な顔をする。


 (この距離で攻撃の意思自体感じ取れないのはどういう事だ?)


 どの場所にどの武器で攻撃するかどころではない。

カラルはヤトの思考に攻撃しようとする意思がないことを読み取る。

目の前に武器を構えた敵がいて、

その間合いに入っているというのに攻撃も防御もする気配がない。


 (蒼いなぁ……だと? このお嬢ちゃん、何を考えているんだ?)



 お互いが間合いに入った時、ヤトはカラルの瞳がこんなに蒼いんだなぁと考えていた。


 

 

 (何を考えているかわからんが、攻撃する気がないならこちらが攻撃させてもらおう)


 カラルがヤトに突きを放とうと意識を向けた刹那、白銀剣がカラルの目前に突きだされた。



 「なにっ!!」


 それはクワドラプルとしての力量だからこそなのか、

かろうじて突きだそうとした蒼鬼を使い白銀剣を逸らせる。

カラルの左肩を浅く切り裂きながら。



 「ちっ」


 そのまま繰り出される白銀剣の刃を、

槍で弾くも同時に雷槍が唸りをあげてカラルに襲いかかる。


 (どうなってやがる!? 攻撃が読めんだと……)


 先ほどから蒼眼でどれほどヤトを見ても、攻撃を読むことが出来ない。

どれほど心を無にすることができる達人であろうとも、

深層の意識を隠し通すことはできない。

思考のないゴーレムなどでもない限り……。



 (それに先ほどの突きは、エンテとかいうお嬢ちゃんの剣筋と同じだった……。

 同じ武器を持っているとはいえ、剣筋まで同じなんてありうるのか?)


 カラルは激しさを増すヤトの攻撃に押されながらも、

なんとか態勢を立て直そうとする。


 (エンテ凄いなぁ)


 一瞬だけ読み取った思考に、

カラルの様々な疑問がパズルのように組み上がり解かれていく。


 (おいおい、まじかよ……)


 カラルの意識が白銀に輝く剣に向けられると、

はっきりと感じるエンテと呼ばれた少女の攻撃の意思。

雷槍に意識を向けても、また別の少女の攻撃の意思。

カラルはいったんヤトと距離を取る。

再び距離を置いて向かい合う二人。


 「まさかその剣と槍を別の意思で動かしてるとはな」


 その言葉を聞いて、ヤトは悪戯がばれた少女のように笑みを浮かべる。


 「それがわかるってことは、

 心の中を読む力を持っているので間違いないみたいですね」


 「見当はつけてたのか……。まぁそんなところだ」


 「これって反則になったりします?」


 「意思を持つ武具なんていうのは世の中にはいくらでもある。問題ないだろう。

 さすがに武器が人型になるなんてのは聞いたことがないがね。

 それに……俺が楽しいから問題ない」


 「やっぱりバトルジャンキーだった……帰りたい」


 「おいおい、帰ったら楽しめないだろうが。

 それに心の中でどうやって勝とうか考えてるやつが言う言葉かよ」


 「ふふっ、やっぱり読まれちゃいますね。でも心の中を読むなんてズルイですよ」


 「お互い様だ。こっちは二人相手してるようなもんだぜ」


 ヤトとカラルが不敵に笑いあうと、三度ぶつかりあうべくお互いが地を蹴った。


 (二人を相手すると考えれば、やりようはある)


 カラルは嵐のように降り注ぐ白銀剣と雷槍を捌きながら、冷静に隙を窺う。

剣と槍の思考を読み取りながら。


 ヤトはそのカラルの動向にだけ意識を向ける。

おそらくカラルの意識は剣と槍にのみ注がれているはず。

勝機があるとすればその一点。


 (流石に、タネがばれると押されるね……)


 エンテとジュネの攻撃を的確に読み、防御と攻撃をほぼ同時に繰り出すカラル。

二つの思考を同時に読みながら、怖ろしいまでの反応速度で

じょじょにヤトを後退させる。


 (押せてはいけるが……とはいえ、決め手に欠ける。

 この力もいつまでも使い続けられん。勝負をかけるか)


 カラルは猛功をかけつつもわずかな隙を作る。ほんの刹那の時間。

達人の域まで到達した者ゆえに気がつくほどの。

その一瞬をエンテとジュネがつく。押されていたが故のあせりが、

二つの武器に同時攻撃を誘発させてしまう。


 (剣は袈裟切り、槍は振り下ろし、ここだ!)




 攻防の連携が崩れたヤトに対して、

カラルは再び嵐の如き突きを繰り出そうと腰が微かに沈む。





 (ここだ!)


 カラルの動作を一瞬たりとも逃すまいと集中していたヤトは、

先ほどの突きの嵐が来る前兆を感じ取る。

カラルの突きが繰り出されると同時に、ヤトは身体を半回転させる。


 

 (メビウスっ!!!!)



 ヤトが悲鳴のように心の中で叫ぶ声が、激しい衝撃音と重なる。


 ガガガガガッガガッ!!



 「うぅっぐぅっっ!」


 ヤトは背中に激しい衝撃を感じながらも歯を食いしばる。

 

 (おぉぉっっ!)


 メビウスは自身の力の限り、嵐のような突きをその盾で受け続ける。

その時間はほんの数瞬。大部分はメビウスが防ぐも、

それでもヤトの身体に受けきれなかった突きが何度か当たる。

頑丈なヤトの身体でなければ耐えられなかったほどの。


 「ぐっ!?」


 その嵐も唐突に収まる。カラルの苦しげな声とともに。

メビウスに多段ヒットの攻撃を繰り出したことで、

カラルの身体に一瞬痺れが走る。

すぐさまレジストし槍を構えようとしたカラルの蒼眼に、

後ろを向いたままのヤトの肩越しに迫る白銀剣と雷槍が見えた。


 (三人じゃなくて四人とは恐れ入ったぜ――)


 後ろを向いたまま的確にカラルの身体を突く白銀剣と雷槍。

カラルは自身の身体に深々と突きこまれた二つの武器を見ながら、

場外へと転移させられた。




 「し、勝者、ヤト!」



 瞬間、観客席が大きな歓声で包まれる。それは予想だにしなかった結末。

クワドラプルという、いわば人類の最高戦力を打ち破った小さな少女に、

人々は惜しげもない称賛の言葉を贈り続けた。

 



 


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