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武具乙女  作者: ふきの精
第三章
30/41

29

 翌日、私達は朝早くからメレテクトへと向かうことにした。


 メレテクトまでに村があるから

一日はそこに泊るとして、あとの二日は野宿になる。

前に泊ったような小屋があるから、

そう大変ということもないだろうけどね。


 今回は馬車の旅ということで、徒歩と比べてかなり快適だね。

行商のお爺さんに乗せてもらった時以来だけど、

お尻が痛くなるのだけは慣れないかな。

いちおうクッションのような物は買ってきたけど。



 ちなみに御者はウイナとディナーナが出来るとのことなので、

二人に交代でしてもらう事にした。

ウイナってほんとに万能メイドさんだね。

「武具乙女」にはあと何人かメイド姿の子がいたけど、

ひょっとしてその子達もこんなに万能なんだろうか……。

メイドさんの集団にご奉仕される……いいね!


 あとディナーナは御者が出来るというよりは、

馬が素直に言う事を聞くといったかんじだね。

これはやっぱり竜の血をひいているとかいうのが関係してるのかな。

竜といったら生物的に頂点みたいな存在らしいからね。



 今はウイナが御者をしてくれている横に私がちょこんと座っている。

風景を楽しむというのもあるけど、今一番察知能力が高いのが私なんだよね。

なので周囲の警戒役でもあるんだよ。っとそう言ってる間に来たね。


 「アドナ、左前方に敵を発見したわ」


 「了解です、ますたー」


 私は馬車に近寄る敵を見つけると、アドナに知らせる。

まだ遠くにいるけどこちらに近づいてきてるね。あれは飢狼犬の群れかな。

アドナは私の声に応えて、風の魔法を展開する。


 「――風の刃よ、かの敵を斬り裂け」



 アドナの言葉とともに、風が刃となって飢狼犬の群れに襲いかかる。



 ザシュザシュ!!


 

 遠目にも魔物達が風の魔法で一掃されたのが見える。

やっぱり魔法攻撃は強いね。


 「アドナ、どんなかんじ?」


 「はい! やっぱりすぐにでも魔法を放てそうです」


 なるほど……使い方によってはかなり強そうだね。



 私が今やってるのは、スキル回復薬が効果あるのかの実験。

それと併せてアドナのスペシャルスキルの、

魔力の奔流の効果の確認も行ってる。


 今後スキル回復薬を買うかどうかは、

効果を確認できてからじゃないと怖いからね。

ただでさえ高いのに、もし効果がなかったらいざという時に困るし。

スペシャルスキルを使用して半日以上たった時点で飲んでみて、

すぐにでもスペシャルスキルが使えるようになっていれば、

間違いなく効果があると言っていいと思う。


 そしてアドナのスペシャルスキルが、

この世界だとどういった感じになるのか知りたかったから、

一緒に調べてみようと思った次第。

調べてみた結果、どうもアドナの魔法の溜め時間がなくなってるみたい。

つまり強烈な魔法をいくらでも放ち放題ってこと。

はっきりいってこれはすごく反則だと思う。

もしアドナのように魔法攻撃を行える武具乙女を揃えたら、

全員が魔法を連射するんだからね……。

属性の相性とかもあるだろうけど、考えるだけで怖ろしい……

いえ、頼もしい。


 「あっ……ますたー、力が途絶えました」


 ――時間制限があるから無双まではできそうにないね。残念。

浄化の加護はかなり効果時間があったと思うけど、

こっちは半日も持たないなんて。

スペシャルスキルの中でも色々と違いがあるんだね。



 私達は夕暮れまで馬車を進めると、

近くの小屋で野宿の準備をすることにした。

小屋で野宿というのも変だけど、まぁ気にしない。


 食事は流石に簡単なものしかできないね。

前に財布を買った魔法装具店、エニメル。

そこで売られてる魔法のバッグなんかを使えば多少の材料は持ってこれるんだけど、

調理する場所がないんだよね。小屋の中はベッドすらない、

ほんとに雨露を凌ぐ為の場所ってかんじだから。


 「あっ、もう半日過ぎてるね」


 私は持っている時計を見て、スペシャルスキルの事を思い出す。

そう、この世界にも時計があるんです。

といっても魔法道具のひとつとしてだけどね。

これもエニメルで購入したものなんだけど、

太陽の波長と月の波長を感知して時刻を計るんだとか。

だから中の構造がどうなってるのかは分からない。

どっちにしても見てもわかるわけないけどね。

日本にいた時だって機械音痴っていわれてたし……。


 ちなみにエニメルの店主のエルフさんとも仲良しになれました。

色々と魔法道具について尋ねたりとかしたからね。

親切に教えてくれるし綺麗だし、大好きになったよ。

年齢も教えてくれたけど、やっぱり凄かったね。

もちろん本人の名誉のために、黙っておくよ。


 「それじゃあ、薬を飲むね」


 私を囲んで皆が注目する。


 「あの……主様」


 ジュネがおずおずと語りかける。なんだろう?


 「もしご気分が昂られましたら、私がお沈めいたしますわ」


 

 「それじゃあ、薬を飲むね」


 エンテ達が頷く。これでもしスキルを使えるようになれば、

色々と行動の幅も増えそうだからね。

「武具乙女」だと流石にスペシャルスキルを重ねがけすることはなかった。

一日一回きまぐれに使う程度だったからね。

だから「武具乙女」では考えもしなかった作戦なんかも――


 「しくしくしく」


 ――ジュネは自業自得だと思うんだぁ。



 私はふたを開けると、中の薬の匂いを嗅ぐ。

ちょっと甘いようななんだろう……フルーティな香りがするね。

ちょっとドキドキしながら薬を飲んでいく。


 コク、コク、コク……


 うーん……匂いは甘いけど、味は特に何もないね。まぁ味は別にいいんだけど。

問題はスペシャルスキルを使えるようになっているかどうか。


 私は魔力の奔流を再度使用しようと、スキルを意識する。


 目を閉じて、朝と同じように集中……。


 ……

 

 …きた!


 朝と同じようにスキルの力が集まるのを感じる。


 私が目を開けると、皆がこちらを心配そうにしているのが目に入る。

私はにっこりと微笑むと、その力を皆に行使する。



 「ますたー、これって!?」


 アドナが自分の魔力が満ち溢れているのを感じたのか、驚いた声をあげる。


 「うん、成功したみたい。やっぱりこれはスキル回復薬だね!」


 これでスキル回復薬を集める必要が出てきたね。

もちろん使わないに越したことはないけど、

魔人みたいなやつが出てきたら厳しいと思う。


 「そういえばお嬢様、体調のほうはどうでしょう?」


 ん? そういえば精力薬だったね。今のところ変な感じはしないけど……。

みんな心配そうに見てる。――そうだ、いいこと思いついたよ。



 「うーん……とくにこれといって……。はふぅ……」


 私は大袈裟にあくびをすると、目をトロンとさせてジュネに歩み寄る。


 「あ、主様?」


 「んー……いい香りがするね」


 私はジュネに抱きつくと、その胸に顔をうずめる。

改めて触れるとやっぱり大きいなぁと実感するね。

それに柔らかいし。眠るときに頭をあずけると気持ちよさそうだなぁ。


 「マスター!?」


 「お嬢様、やはり薬が……?」

 「姫、正気になられてください」

 「ますたー、どうしたのですか?」


 「お嬢、そこは世界で一番危険な場所だよ」


 「……ディナーナは失礼ですわね」


 ふふふっ、いつも悪戯気な笑みを浮かべてるジュネが戸惑ってるみたいだね。

いつもからかわれてる? からたまには意趣返しをしたかったんだよ。


 「あの、主様。嬉しいのですけどこんな場所では恥ずかしいですわ」


 そうだね、それじゃあそろそろからかうのはやめにして――


 「今夜皆が寝静まった時にでも続きをいたしましょう。

 もちろん主様が皆に見られながらでもいいというのならば、

 私に異存はありませんわ」


 あれ……身体ががっちりと抱えられてて外れない。

ちょっ、お尻のあたりがサワサワしてるんだけど。

こ、これは洒落にならないことに――



 そのあと何とかみんなの力を借りて脱出できたけど、

色々な場所をまさぐられました。

変なことを考えるものじゃないね。

自業自得なのは私もでした、反省。




 そして二日目。なんだか少しずつ暖かくなってきてる気がする。

お爺さんに聞いた話しによると、

メレテクト国はベルト国に比べて気温が高いんだって。

この世界に四季があるかはわからないけど、

少なくとも冷たい気候の国や暑い気候の国があるのは確かだね。

ちなみに大陸の北に位置するエジェナは国土の半分は雪で覆われてるんだとか。

その辺りは魔物の領域だから、あまり踏み入る人はいないそうだけど。


 今日の内に形としてはメレテクト国に入るんだけど、

国境らしい国境がないからどこからかはわからないね。

そういえば魔人が口にしてたバーレス戦場跡。

あの場所がベルト国とメレテクト国との国境あたりなんだとか。

一面荒れ地で何にもない場所みたいだから、行く予定はないけどね。

アンデットが大量に徘徊しているらしいし……。


 「それにしてもほんとに暑くなってきたね。ディナーナの格好が羨ましいよ」


 今はディナーナが御者をしている。

その横に私がいつものように腰掛けてる。

周囲は段々と木々の種類も変わって、

砂地のような場所が見られるようになってきた。

砂漠とまではいかなくても、雰囲気はそんなかんじだね。

だから余計に暑くかんじるのかもしれない。


 ディナーナの姿はジュネと同じように、

ビキニのような胸と腰回りだけを覆う布地。

カラフルなパレオのようなものを腰に巻いてるけど、

肌色成分は全体的に見てかなり多い。



 「お嬢も薄着になればどうです?」


 ディナーナが私の姿を見て言う。

今の私の格好は普段の状態から、軽鎧を取り払っただけ。

だから白のブラウスに真紅のスカートだね。

たしかにもう少し薄着になってもいいかもしれない。

でも私が自分の意志で自由に装備を着脱できるのは、

「武具乙女」で着てたこの服装だけなんだよね。


 この世界の服なんかを着る場合は普通に脱ぎ着しないといけない。

まぁ当たり前のことなんだけど。

けど自動で着脱できるこの服装に慣れると、

その便利さについついお洒落に手を抜いちゃうんだよ。

これも前の世界の業なのかもね……。


 「うーん、これ以上脱いだら下着になっちゃうからね。

 流石に屋外でそれは恥ずかしいし」


 「それは……ジュネが来そうなので危険ですね」


 ふふっ、たしかにジュネなら飛んできそうだね。


 


 三日目。流石にお尻が痛くなってきたよ……。

この辺りになると、ポツポツとハンターらしき人や、行商の人を見かけたりする。

あと馬で駆けていく騎士っぽい人とか。

武技大会が開かれる町の名前はメレテクト。つまり王都だからね。

やっぱり王都ともなると、人も多く行き来してるんだと思う。


 「お嬢様、今夜は村で泊るのですよね?」


 ウイナが御者をしながら尋ねてくる。


 「うん。たしかブルエラ村だっけ。カンテ村と同じくらいの規模の村みたいだね」


 私は資料室の情報を思い出しながら答える。

そういえばカンテ村の女将さん元気かなぁ。


 「もうずいぶんと昔のことのようですね」


 ウイナもカンテ村の事を思い出してるのかな。

ウイナとの出会いはカンテ村だったからね。

色々と感慨深いのかもしれない。



 この辺りになると、魔物にもほとんど遭遇しなくなったね。

私達は特にハプニングも起きずに、ブルエラ村へと到着した。



 

 「国が違うと村の様子もかなり変わりますね」


 ウイナが馬車を進めながら、周囲を観察する。

村の中にはサボテンみたいな植物がいたるところに生えている。

サボテンとの違いはその形だね。色は緑で刺っぽいのも生えてるのに、

形がヤシの木見たいというか……。

かなり縦に伸びていて、風に揺れている。


 驚いたことに、村の規模に比べて人が多い。

村の人に聞いたところ、

武技大会に向けて旅人なんかが多く集まっているんだとか。

ちょっと泊れるかどうか心配になってきたけど、

臨時で宿泊場所などを用意してるみたいで泊れないってことはなさそう。

武技大会が始まる頃にはみんな村を発ってるだろうから、

今が一番人が多く集まってる時期なのかもね。


 私達は民宿のような場所で一泊することにした。

野宿よりはゆっくりできそうだね。

宿として提供しているだけあって、家は結構大きい。

とりあえずベッドが四つ置いてある部屋を二部屋借りておこう。

ちなみにベッドは臨時で追加されたものでした。



 私達は食事の為に、村の定食屋兼飲み屋のような場所にやってきた。

ちなみに宿のほうはこの時期だけの臨時のものだから、食事まではでないんだよね。

だから私達だけじゃなくて、村に立ち寄ってる旅人や商人の人なんかも集まってるね。

もちろん村の人もいると思う。


 私達は建物の外の大人数用のテーブルで食事をすることになった。

見ると先客がいるね。見るからにハンターってかんじの集団だけど……。


 「こんばんは」


 私はにっこりと微笑んで挨拶をする。

初対面の印象は大事だからね。猫かぶり? 心外です。


 「やぁ今晩は。可愛らしいお嬢さん方だね」


 挨拶を返してきたのは、リーダーの人っぽい爽やか系な青年。

他の人も合わせて全部で六人の集団だね。

年齢は結構幅が広い。上は初老の男性から、

下は私よりも少し上くらいの男の子までいるね。



 「僕達はメレテクトを拠点にしているハンター

 [ガバレンの爪]さ。僕はリーダーのフラキス」


 やっぱりリーダーの人だったね。

ちなみにガバレンというのは、

大地の神獣と呼ばれる伝説上の魔物の名前だったかな。


 (おい、あれガバレンの爪じゃねぇか)

 

 (ガバレンの爪ってトリプルの……?)


 (メレテクトでもかなり上位のパーティだろ?)


 (なんでこんな村にいるんだ?)



 周囲で飲み食いしてる人達の、ボソボソとした会話が聞こえてくる。

それにしてもトリプルのパーティなんだ。

そういえばバルーザの町じゃトリプルのパーティって見たことなかったね。

クワドラプルは別にしても、トリプルの人達もこの世界じゃそんなにいなさそうかな。

おっと自己紹介されたのに自己紹介返さないと失礼だった。



 「私の名前はヤトと申します。

 バルーザを拠点にハンター活動を行っています」


 「えっ!? ハンターなの?」


 私の言葉にフラキスさんが驚いた顔をする。

話を聞くとどこかの貴族のお嬢さん方が、

武技大会の見学に旅をしてきていると思われてたみたい。

女ばかりのパーティは珍しいからかな。

ちなみにガバレンの爪のパーティ構成は――


 リーダーのフラキスさん。

あと初老のローブ姿の男の人。この人は魔術師っぽい。

ほかに身軽な服装のお姉さんと、杖を持ったおばちゃん。

かなり体格の良い戦士風の中年男子。

あと私より少し上くらいの若い男の子がいる。

女の人が二人混じってるだけでも、珍しいくらいだね。


 私達はフラキスさん達と一緒に食事をすることになりました。

フラキスさん達はここから西のほうにある大国パーラサスに行ってたみたい。

パーラサスというのはこの大陸の中でも一番大きな国だね。

もうすぐ武技大会なので、それに参加するために帰る途中なんだとか。

私達も参加するために向かっているって言ったら驚いてたね。


 「色々とありがとうございました」


 私達はそう言って先に食事処を出ることにする。

フラキスさん達は食事のあとそのまま酒盛りに移るとのこと。

私も参加しようとしたら、ラーデさん(杖を持ったおばちゃんね)

とウイナにやんわりと断られました。

ううっ、私はいつになったらお酒を飲めるんだろうね……。


 でもフラキスさんかぁ……。ただものじゃない雰囲気を持ってるし、

こんな人たちがたくさん武技大会に参加するとしたら

勝ち進むのは大変かもしれないね。



 そんなことを考えながら三日目の夜は過ぎて行った。

いよいよ明日にはメレテクトに到着だね。

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