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武具乙女  作者: ふきの精
第一章
3/41

2

「そういえばエンテは

その姿に違和感はないの?」


私はエンテを伴い街道を歩いている。

とにかく人のいる場所にいかないとね。


「違和感はないです。この姿でいても自然というか……」


私はエンテに色々と聞き込み調査中である。

それによると剣の時の記憶というのは

おぼろげながらあるとのこと。

ただ具体的に誰に使われてたなどはわからないとか。


 人の姿を取ったのは初めてのことだったみたいだけど、

違和感ないのか。

最初に現れた時も驚いたってかんじじゃなかったし、

普通に自己紹介してたもんね。

むしろ私の方がオタオタしてたような気がするわ。



「あっ。エンテちょっとそのまま立っててくれる?」


「はい、マスター」



 私は立ったままのエンテの回りをウロウロとする。

そのままちょっと離れたり、ささっと近くの岩陰に隠れたり。


「あの、マスター…? なにをされているんでしょう?」


 エンテが不思議そうな眼で見る。

まぁ意味がわからないよね。


 私がしているのは「武具乙女」であった配置の制限の検証だ。

エンテは剣タイプなので、

ゲームではフロントにしか配置できない。

他にフロントに配置できるのは槍や斧などの武具乙女と

盾や鎧なんかの武具乙女だったかな。

でも現実の世界となった今はそのような制限はないみたいだ。

ただ配置できる人数に制限があったんだよね。

「武具乙女」ではフロント三名とバック三名だったかな。

この世界でどうなのかわからないけど、

仲間が増えないと検証のしようもないね。



「ふむぅ・・色々と調べることはあるけど、

とりあえず村か町で落ち着いてからだね」


 まだ空は明るいとはいえ、

今何時くらいかもわからないし野宿はしたくない。

こんな若い娘が二人野宿なんてしてたら、

襲ってくださいといってるようなものだ。

エンテは強そうだけど、レベルが2だからなぁ。

「武具乙女」じゃあレベル1の段階でもその辺の雑魚は

バッサバッサと倒してくれてたけど、

現実の世界じゃどうなのかわからないし…。




「マスター、害意を感じます!」



 突然エンテが鋭い声をあげると私の傍らに走ってくる。

そのまま剣を構えて周囲を警戒する。

害意…? 私は何も感じないけど、

エンテは私よりもスペック高そうだし何かを察知したのかな?

周囲を見回すとまばらな岩が転がっているくらいで、

特にこれといったものは――


「ぐぎぎ」


と思ったらでやがりましたよ。

どうやら岩の陰に隠れて不意打ちしようとしていたらしい。

出るわ出るわ………八体もの魔物が私達の前に姿を現した。



「うへぇ……初戦にしてはハードすぎじゃない?」


 現れた魔物はこげ茶色のゴツゴツした肌をしている鬼のような姿。

ひょっとして「武具乙女」に出てきた岩子鬼か?

あれって小人みたいでもっと可愛かったと思うけど、

目の前の魔物はTHE・ゴブリンです 

という言葉がぴったりな感じだ。


「エンテ、いけそう?」


 人型になって戦闘経験はないだろうけど、

今はエンテが頼みの綱だ。


「この程度ならば問題ありません」


 おぉ、エンテ先生と呼ばせてください! 

しかし数が多い。「武具乙女」では敵の出現数も

フロント3バック3の最大六体だったんだけど、

現実になってそのあたりは制限なくなったのかもしれない。

この制限がなくなったのは痛いなぁ。

まぁ現実に六体以上で行動できないとかはないんだし、

当たり前なんだろうけど……。



「ぐぎゃぎゃぎゃ!!」


 魔物が笑いながら襲いかかってきた。可憐な乙女二人、

格好の獲物に映ったんだろう。

この魔物がどんな生態なのかはわからないけど、

負けた時のことは考えたくない。

十八歳未満は見ちゃだめなような

展開になるのは勘弁してほしい。

でもあの笑い方はなぁ………

種族を越えてもなんとなくわかってしまう。


 あれだ…夏の暑い時にちょっと薄着をして

出社したときの上司の視線。

その手の視線には敏感なんだよ、乙女は!

と、また変な回想に突入するとこだった。

危ない危ない。



「まいります!」


 エンテの凛とした声が響くと、

銀の流星が魔物に襲いかかった。

速い。戦いのたの字も知らない私だけど、

エンテが達人クラスに強いというのは

一瞬で理解できた。人が残像起こすレベルで走れるだろうか?


 魔物の集団はエンテが向かってくるのを見て

武器を身構えて待ち構えるが、

エンテは魔物の寸前で更に加速する。

エンテは一瞬で魔物に肉薄すると

そのまま先頭の魔物を胴薙ぎにして駆け抜ける。

魔物は反応すらできずに腹に深い傷を負う。そのまま反転し、

次の魔物を袈裟切りに斬って落とす。

一瞬の間に魔物二体を切り捨てた頃

ようやく魔物がエンテに反応する。


「ぎゃがぁ!!」


 エンテを取り囲むようにして魔物が襲いかかるが、

後ろに目でもついてるのかと思うほど余裕をもって回避していく。

遠くから見てると舞っているかのよう…あれだ……

すごく簡単にやってるように見えるけど

とんでもなく難しいことをやってのけてるんだろうなぁ。


 弾幕ゲームで画面を埋め尽くすほどの敵弾を、

スイスイスイと抜けていくみたいな。

あれも見てると簡単に見えるけど、

実際にやろうとすると三秒もたないもんね。


 もちろんエンテはよけてるだけじゃない。

剣を振るうたびに確実に一体ずつ倒している。

いやぁ、エンテがいれば何の心配もいらないんじゃないかな。


などと油断しているのが悪かったのか、


「マスター!!」



 エンテの鋭い声で私は嫌な気配を察して後ろを向く。



「ぎゃぎゃぎゃ!」


 そこにいたのは岩子鬼より一回り大きな魔物だった。



「ひっ!!」


 私は思わず声を漏らす。そりゃそうだ。

岩子鬼ですらたぶん成人の男性くらいの大きさだ。

もちろん私よりも大きい。

その一回り大きいといったらプロレスラー並みじゃないだろうか。

実際にプロレスラーの人見たことないから想像だけど。


 おそらく挟み撃ちにしようとしたんだろうけど、

私が動かないから様子見をしていたのか。

もしくは弱そうな私を狙ってたのか。

どちらにしろエンテと私の距離は離れている。


「マスター!今行きます」


 エンテが魔物の攻撃をかわしつつ

こちらに走ってこようとしているのがわかる。

でもさすがに間に合わない。

魔物が手に持った棍棒を振りかぶるのが見える。


 っていきなり命とりにくるんかい! 

そんなんでどつかれたら即死しちゃうでしょ!

貞操の危機とかじゃなくて命の危機だったわ。


 私はなんとか本能的に身を守ろうと両手で頭を覆うが、

無情にも棍棒は振り下ろされた。



ガツン!!



 私を強く打ちつけた棍棒。 痛い……すごく痛い!!

おもわず涙目になる。 

このやろう…といった顔で魔物を見ると、

魔物がキョトンとしていた。ん?


「はぁぁぁっ!!!!」


 その時エンテが止まったままの魔物に襲いかかる。

白銀剣が魔物の首に食い込むと

そのままざっくりと頭と身体を両断する。


「マスター! マスターしっかり!    しっかり…?」


「うぅ、痛い…こんな可憐な乙女に対して欲情ひとつせずに

いきなりタマとりにくるとか何考えてるのよ」


「その…マスター。 

魔物の攻撃が直撃していたようですが大丈夫なのですか?」



 ん? そういえばあまりに痛くてそれどころじゃなかったけど、

即死してもおかしくなかったような。


 「武具乙女」の主人公は頑丈だったから私もそうなんだろうか?

攻撃を受けた箇所を見てみるが傷ひとつ、たんこぶひとつない。


 さっきの魔物がボスだったのか、

私に襲いかかった魔物が倒されるのを見ると

岩子鬼たちが揃って逃げ出した。

とりあえず当面の危機はさったようだ。




「うーん……まぁ命が助かったからよしとしとこうか。  ん?」


 私がとりあえず納得していると、

地に倒れていた魔物の骸が輝きだした。

まさか爆発でもするのか!? などと心配になるが、

そのまま黄金に輝く光の粒子となって消え去った。

その光の粒子が私の中に入ってくる。


「マスター、いったいこれは……?」


 エンテが心配した顔をしてくる。

そりゃ魔物の骸からでたものが

身体の中に入ってきたら何事かと思うよね。

でも私の頭の中にはコインがぶつかりあう音が聞こえてくる。

この音は「武具乙女」でよく聞いた音だ。 

戦闘後の獲得金を手に入れた時の音なのだから。



「ちょっと周囲を警戒しててね」


「はい、マスター」


 また魔物が襲ってきたら落ち着いて考えることもできないし、

エンテに警戒しててもらおう。

さきほど頭の中に響いた音で気が付いたことがある。

エンテのステータスが表示された時のように、

私も意識することでステータスのようなものがわかるのだ。

たとえば獲得金の音を聞いたことで、所持金を意識すると


[所持金  二千四百ヴェール]


とでてくる。ヴェールとは「武具乙女」での通貨単位。

この世界の通貨でもあるかもしれない。

その所持金を見る時に同時に

他のステータスのようなもの見えてくる。


ヤト  強さ[2]  体力80/100


強さはエンテのレベルが2なので私も2なんだろう。

他に仲間はいないからね。


体力はそのまま私の生命力を表してるんだろうと思う。

減ってるのはさきほどの攻撃を受けたからかな。

即死だと思った攻撃も、

あと3回までは耐えれてたってことか。

かなり痛かったし、

耐えれるとしてもわざわざ攻撃をされたくはないけど。

私はMじゃない。


フロント 1/3   バック 0/3    部隊数1


これは召喚できる制限ってことなんだろう。

このあたりは「武具乙女」とおなじみたい。

現実になった今、無制限に呼べるのかもと

ちょっと期待してたけどだめみたいだ。

でもさっき魔物はたくさんでてきてたよね!


部隊数っていうのは……よくわからないな。

「武具乙女」と同じだとすると、

複数の部隊を構成出来るってことだと思うけど。

ゲームと同じだとすると、

強さをあげていくことで増やすことができたはず。


しかしどう意識しても攻撃力やらアビリティやらは見えてこない。

やっぱりあれですか。攻撃手段はないということでしょうか。


「ふむ……やっぱり仲間を増やして

強くしていくのが第一目標かな」


 この世界で安定した生活をするためには、

まず力を付ける必要があるね。

元の世界に戻る手段を探すにしても、

少なくとも身を守れるだけの力はないと安心できない。

まぁあんまり未練はないけど……あるとすれば………

パソコンの中身が世間様にしられずに

処分されることを祈るだけかな。


 親ももういないし、

ほとんど会う事のない親戚がすこしばかり。

会社は……私が抜けるとちょっと大変かもしれないけど

まぁ頑張ってほしい。

だいたい事務の仕事を私に振りすぎなんだよ。

もうすこしちゃんとした社員育成を――


「マスター、なんだか顔が怖いです」


 あらやだエンテちゃんたら、

そんなに後ずさらなくても食べたりしませんよ。




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