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武具乙女  作者: ふきの精
第三章
29/41

28

「メレテクトに向かう?」


 私はリゼルさんにメレテクトの武技大会に参加する旨を伝える。

メレテクトの武技大会は半月後くらいだけど、

ここからメレテクトまでは日中に馬車で移動して

四日ほどかかるみたい。

しばらくの間留守にするから、リゼルさんには伝えておこうと思う。

心配させるといけないからね。


 「そっか。まぁヤト達ならいいとこまで行きそうだね」


 そういってリゼルさんは微笑む。

亡霊騎士を討伐したって聞いてるだろうからね。

その期待に応えれるように、頑張らなきゃ。賞金も出るし……。

頑張るのは主にエンテとジュネだけど。


 


 というわけで、早速メレテクトへと向かう準備を

二手に分かれてすることに。こういう時は人数多くて助かるね。


 まず私とアドナとメビウス組で、

騎士団の人達や行商のお爺さんに挨拶をすることに。

そのあと商業ギルドで馬車も借りなきゃね。


 もう一組はウイナを中心にエンテ、ジュネ、ディナーナで

必要な物の買い出しに。こっちは色々買うものが多いから、人手が必要だもんね。

ディナーナを買ったり、精力薬を買ったりしたけどまだお金には余裕があるから、

馬車や買い出しをしても問題はない。

ただエンテとジュネのレベルアップをするほどの余裕はないのが残念かな。


 ずるいかもしれないけど、やっぱり参加するからには

ちょっとでも勝率を高めたかったんだよね。

でも、前回上げすぎたから一レベル上げるのにも

結構なお金が必要になるんだよ……。

ほんと、いくらお金があっても足りないね。

「武具乙女」にあったような曜日別のクエストで、

資金を大量に獲得できるのがあればいいのに……。

流石に現実の世界には、そんな甘い話はないわけで……。



 


 まずはティーレさんとガムンさんに挨拶をしに騎士団本部へ。

騎士の人たちとはもう顔見知りだからね。みんな快く奥へと通してくれました。

あいにくガムンさんは留守だったけど、

ティーレさんは笑顔で応援してくれたよ。


 「ヤト様達ならば、優勝できるかもしれませんね」


 そう言われると、なんだか嬉しいな。

ティーレさんと色々と接してきたけど、お世辞とかを言う人じゃないからね。

私達の実力をはかっての言葉だと思うから。


 「ただ毎年飛び入り参加で、名の知られていない実力者が現れますからね。

 この武技大会をきっかけに名を知らしめるもの達もいます。

 今年もいまだ名の知られていない強者が現れるかもしれません。

 己の力を過信することなく、全力で挑まれると良いでしょう」


 そうだね。魔人と戦えるとは言っても武技大会は個人戦みたいだし。

仲間と連携したらみんな強いっていうのは知ってるけど、

個人でどこまで戦えるかは未知数だね。


 騎士団本部を出るときには、

何故か私が武技大会に参加することが知れ渡ってたんですけど、

早すぎじゃないかな?

第二騎士団の有志を募って応援に行きますとか言われたけど、

お仕事のほうをがんばってほしいな。

流石に他の町で聖女様とか言われると恥ずかしいんです……。



 次に私達は行商のお爺さんのテントへと向かう。

お爺さんもいつまでこの町にいるかわからないけど、

精力薬を探すのを手伝ってもらったし、留守にするのは伝えておかないとね。


 「ほぉ、メレテクトの武技大会にのぉ」


 お爺さんはちょっと驚いた顔をしていた。

まぁ私達が亡霊騎士を倒したことを知らないから、

武技大会に出れるほど戦えるとは思ってなかったのかもしれないね。


 「ですから、しばらく留守にするんです。

 せっかく精力薬を探すのお願いしたのにごめんなさい」


 「ほっほっ、いいんじゃよ。

 それよりもメレテクトまでは長いから気を付けるんじゃよ。

 この時期になると商人たちもメレテクトへと集まってくるから、

 盗賊どもも増えるんじゃよ。

 下手な魔物よりも厄介かもしれんからのぉ」


 そっか。まだ一度も遭遇したことなかったけど、盗賊とかもいるんだよね。

盗賊とかは魔物とはまた違った厄介さがあるかもしれない。


 「ありがとうございます。警戒しながらメレテクトまで向かう事にしますね」


 私の言葉に満足げに頷くお爺さん。


 「そうそう、精力薬じゃがな。

 この先にある赤いテントを張ってる店で見かけたのぉ。

 ただ見た目が違うから、お嬢ちゃんの探してるものとは違うかもしれん」


 見た目が違う? 普通にこの世界の精力薬ってことなのかな。気になるね。


 私はその後お爺さんとメレテクトの町で

気を付けることなんかを教えてもらって、露店をあとにした。

お爺さんはしばらくしたら行商でバルーザを出るみたいだけど、

またどこかで会えると良いね。



 その後お爺さんの教えてもらった赤いテントを訪れる。

ここも色々と魔法の道具が置いてあるね。

残念ながら武具乙女は見当たらないけど。

そんな中見つけました、ミニサイズの精力薬。


 「すみません、これって………精力薬なんでしょうか」


 いちおう店員さんに尋ねてみる。

後半の声がかなり小さくなったのは、仕方ないよね……。


 「これかい? 間違いなく精力薬だよ」


 店員さん声が大きいんだけど。周囲の視線が私達にぶち当たります。


 「ますたー、周りの人がちょっと怖いです……」


 アドナが私のスカートを掴んでひっついてくる。

たしかに周囲から興味深そうというか、好色そうなというか、

そんな視線がいくつも向けられてる。

若い女の子三人が精力薬を買おうとしてるとか、

悪い意味で好奇心を煽ってるよね。

うーん、私はちょっと恥ずかしいくらいだけど、

アドナはこういった無遠慮な視線になれてないからね。

私はアドナを視線から隠すように、身体を寄せる。


 次の瞬間、周囲の視線が一斉に消え去った。ん? 一体何が起きたのかな……。

私が周囲をキョロキョロとしても、特に変わった様子はないけど。


 「姫、どうかされましたか?」


 メビウスがにっこりとした顔で聞いてくるけど、別に変わった様子はないね。

まぁアドナの怯えも収まったみたいだし、よしとしておこうか。



 「あっ、すみません。ちょっと気になることがあったもので……。

 それでこのお薬のお値段なんですけど――」


 「はいぃ、こちらのお薬は十万ヴェールぽっきりでございますぅ」


 あれ? 店員さんってこんな口調だったっけ?

なんだか急に怯えた態度になってるんだけど、一体何が……。

まぁ気にしてもしかたないね。


 私は改めて精力薬を見つめる。中身の液体は同じ色だね。

ただ瓶の形がまったく違う。

大きさも半分くらいじゃないかな。

もちろん「武具乙女」で見たことはない。

「武具乙女」では課金アイテムとして

入手可能なスペシャルスキル回復薬は一種類しかなかった。

でもこの世界とゲームの世界では色々と違うものも多いし……。

ひょっとしたら一日じゃなくて半日短縮するとかの効果があるのかも。

試すには手頃な値段だし、このさい買っちゃおうかな。


 「このお薬を買いたいんですけど」


 


 というわけで入手しましたミニ精力薬(仮)。

メレテクトまでの道中で試してみようかな。

量的に半分くらいだし、半日縮まれば間違いないね。



 

 あとは馬車の手配をして、準備は完了かな。

この世界に来て他の国に行くのは初めてだから、いまからワクワクしてくるね。

せっかく借りた家を長いこと空けるのは勿体ない気もするけど……。


そうして私達は旅に備えて、早めに休むことにした。





 その日の夜。


 ヤト達の休んでいる一軒家。そのリビングに複数の人影が佇んでいた。


 

 「お嬢様はお休みになられましたか?」

 

 ウイナが小さな声でエンテに尋ねる。その言葉にエンテは頷く。


 「ええ、色々と動いて疲れたのでしょう。私が抜けてもお眠りになられたままでした」


 居間にはエンテ、ウイナ、ジュネ、メビウス、アドナ、ディナーナが集まっていた。

アドナは不安げに、ディナーナは不審げにエンテ達をみやる。


 「ふふっ、では始めますわね」


 ジュネが悪戯気な笑みを浮かべて、周囲を見渡す。


 「あの……いったいみなさんで何をされるんでしょうか?」

 

 「お嬢に内緒の話なんて感心しないわ」


 二人の問いかけに、ジュネは胸をそらせて答える。


 「あら、アドナとディナーナは初めてでしたわね。

 今から始めるのは第五回従者会議ですわ!」


 ジュネが高らかに宣言する。


 「ジュネ、声が大きいですよ。マスターが目を覚ましてしまいます」


 「あら、失礼しましたわ」



 ジュネの言葉にディナーナが胡散気な目を向ける。


 「従者会議? お嬢を抜きで何を話すのさ」


 「ふふっ、主様の純真な心と穢れなきお身体を愛で――

 コホン、守る方法を話し合うのですわ」


 ジュネの言葉になおさらディナーナが首をかしげる。


 「ジュネ、言葉を抜きすぎです。

 ディナーナとアドナにわかりやすく説明するわね。

 お嬢様は見ての通り、ご自身に対して無防備すぎるところがあります」


 ウイナの言葉に二人は頷く。思い当るところがいくつもあったからだ。


 「そのお嬢様ですが、必要以上に守られるのを嫌っているところがあります。

 もちろん私達を気遣って。ですからお嬢様に気を使わせないように、

 いかに守るかを話し合うのですよ」


 ウイナの言葉に二人は納得する。

もちろん二人は、まともな話し合いで終わったためしがないという事を知らない。


 「そういえばメビウスさんがテントのお店でみんなを威圧したのも?」


 「ええ、その通りです。姫には悟られないようにね」


 メビウスの言葉にアドナが頷く。周囲の男たちの好色な雰囲気。

その無遠慮な視線はアドナにも耐えがたいものがあった。


 「メビウスさん、ありがとうございました」


 「ふふっ、当然のことをしたまでです。アドナも私からみれば守るべき対象です。

 気にすることはありません」


 そういってアドナの頭を撫でる。

アドナはくすぐったそうに眼を細めて、メビウスに撫でられ続けた。


 「はぁ……私も撫でたいですわ」


 「ジュネは手つきが妖しいから、絶対禁止」


 ディナーナがジュネをジト目で見る。この間の尻尾の件は忘れていない。


 「あら、私はディナーナでもいいですわ。また可愛い声を聞かせてくれるかしら」


 そう言って、ジュネは手をワキワキさせてディナーナに近寄る。


 「ジ、ジュネはあたしの周囲に近寄るのも絶対禁止!」


 急いでウイナの背後に隠れるディナーナ。

その姿はさらにジュネの欲望に火を付けるが――


 「あれ? そういえばエンテはどこにいったのでしょう」


 ウイナが周囲を見回して首をかしげる。

さきほどまで姿があった気がするが、いつのまにか見えなくなっていた。



 「あの、エンテさんだったら時間が勿体ないと言って、

 部屋を出て行きましたけど……」


 アドナの言葉に全員が沈黙する。


 数瞬の後――


 「やられましたわ! 

 せっかく今日はエンテの番だから会議をしようと持ちかけましたのに!」


 ジュネが自分の作戦が水泡に帰したことに地団太を踏む。


 「そんなことを考えていたのですか……。

 ではこんどジュネがお嬢様とお休みするときに第六回ですね」


 ウイナが呆れた顔でジュネに告げる。


 「アドナはジュネのように歪んだりせずに、真っ直ぐに育つのですよ」

 

 メビウスがアドナの頭を撫で続けながら、言い聞かせる。


 (そういえば私達って成長するのかな……?)


 アドナは自分達の存在についての真理を探究する。




 「えっと……従者会議は?」


 ディナーナは皆の様子を見つめながら、

お嬢は自分が守らなければと固く心に誓うのだった。


 


 そして何の話し合いにもならないまま、

第五回従者会議もグダグダのうちに終わることとなった。




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