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武具乙女  作者: ふきの精
第三章
28/41

27


 ガムンさんが訪れたその日の夜、

私達はリビングで武技大会について話をした。


 「問題は参加するかどうかだよね」


 ガムンさん曰く、参加するにはある程度の条件が必要とのことだけど

ハンターランクで★★を持っている私達は問題ないとのこと。

もちろんまだそこまで上がっていない

メビウス、アドナ、ディナーナは参加できないけど。


 「お嬢様、その大会で優勝すると、高額の賞金が得られるのですよね?」


 ウイナが言うように、

ガムンさんが話してくれた武技大会には高額の賞金が出る。

その為に大陸中から参加者が集まってくるとか。

でもエンテ達は魔人と戦えたくらいだからね。

結構いい線行くとは思う。


 「主様は何を迷ってられるのですか? 

 お任せくだされば、主様の為に賞金を手に入れてきますわ」


 ジュネがおまかせくださいと胸をたたく。

ポヨンって音が聞こえてきそうだね。

エンテも同じく頷いている。

頼もしいけど、やっぱり自分が参加しないで

この子達に任せっきりというのはどうなのかなと思うんだよね。

でもこの子達がそう言ってくれるなら任せて見ようかな。


 「姫の為に参加できればいいのですが、私には無理のようですね」


 メビウスが寂しそうに言う。

メビウスのギルド登録は亡霊騎士退治報告の後だったからね。

残念ながらまだ★シングルなんだよ。

アドナとディナーナにいたってはルーキーのままだからね。

ハンターじゃない人も参加できることはできるんだけど、

何かしらの実績が必要なんだとか。

どこどこの騎士団だとか、名のある貴族の推薦とか。

どちらにも該当しないから、メビウス達は無理なんだよね。

これは参加者の強さを一定以上に保つためという理由もあるみたい。

大人数が参加すれば、それはそれで面白いかもだけど

やっぱり観客の人達は強者と強者の戦いが見たいからね。


 「お嬢の守りはあたいたちがするから、

 エンテとジュネとウイナが参加したらいいんじゃないかな」


 ディナーナが三人を見て言う。アドナも頷いているね。


 「私は弓ですし、武技大会で戦うには難しいかもしれません。

 エンテとジュネにお任せいたします」


 たしかにウイナは弓だからね。

一対一で向かい合って戦うにしても、そんなに広くない場所だと厳しそうだね。

ウイナならそれでも結構戦えそうだけど。


 「マスター、どうか私達に参加する許可を下さい」


 ふふっ、エンテがやる気に満ちた顔をしているね。

そう言われたら頷くしかないよ。

こっちのほうこそお願いするほうだからね。


 「ありがとう。それじゃあエンテとジュネの二人が参加する方向で動きましょうか」


 エンテとジュネがお互い頷きあってる。ふふっ、頼もしいね。









 騎士団本部。団長室ではティーレとガムンが話し合っていた。


 「ヤト様の様子はどうだったかな?」


 「いやぁ、良い匂いでしたぜ」


 「………」


 ティーレの冷たい視線がガムンを貫く。


 「い、いやそうじゃなくて精力薬を使うのはお嬢ちゃんじゃなかったです」


 「それはガムン君が知りたかったことだろう。

 私は武技大会の情報を教えてあげるように

 言伝を頼んだつもりなんだがね。

 ガムン君にとってはそれよりも精力薬のほうが気になるわけだ」


 「うっ……、ちゃんと武技大会のことも伝えましたよ。初耳とのことでした。

 考えて見るとのことですが、たぶん参加するんじゃないでしょうかね」


 「ふふっ、そうか。彼女は魔人のこともしらないくらいだったからね。

 メレテクトの武技大会は結構有名なんだが、

 ひょっとしたらと思ったがやっぱり知らなかったか」


 「しかし団長、お嬢ちゃん達と繋がりを持ちたかったんじゃないんで?

 武技大会とはいえ他国にわざわざ案内するとは思いませんでしたぜ」


 「私は彼女達と仲良くしたいと思っているが、

 別にこの国に取り込みたいとかそんな気持ちはないよ。

 王都の奴らが聞くと文句をいわれそうだがね」


 「まぁ逸材という言葉でも足らないくらいですからね。

 新しく仲間になっていた騎士姿の女性も

 こっちが冷や汗でるほどのプレッシャーを感じましたし」


 「ふふっ、メビウス嬢か」


 「団長は知ってるんで?」


 「もちろんだ。他にもアドナ嬢、ディナーナ嬢と増えているね。

 皆器量、実力ともに高いレベルのものたちだよ。

 いったいどこから勧誘してくるのやら。

 その秘訣を是非とも教えてほしいくらいだ」


 「………」


 「ガムン君も情報網を使っているみたいだけど、

 変なことにばかり使っているようじゃまだまだだね」


 「………」


 ティーレの言葉にガムンはバツが悪そうに頭をかく。


 「話を戻そう。私は彼女達がもっと色んな国や場所を見て、

 羽ばたく姿を見たいんだ。

 いまでも彼女達は十分強い。それに純真で好意を持てる性格だ。

 だがもっと彼女達は輝けるだろう。たとえばエンテ嬢だ」


 「あの白銀の鎧の?」


 「ああ。この間の加護のお礼の時に会ったが……

 前にあった時と桁はずれに強くなっていた。

 私の実力では推し量れないほどにね」


 「そんなにですかい……」


 「まさに次元が違うと言ってもいいだろうね。

 彼女ならクアドラプルと呼ばれる存在まで登っていけるかも知れないね」


 「…………」


 「ふふっ、もうこの年になって

 あとは引退するばかりの人生だったが

 最後にこんな面白い者たちに会えるとはね。

 どこまで彼女達が行けるのか、見て見たいんだよ」


 「まぁお嬢ちゃん達を見守りたいって気持ちは同感しますがね」


 「君の場合見守りたいのはヤト様だろう。

 まぁ犯罪者に間違えられないように気を付けて接したまえ」


 「そりゃ酷いですぜ、団長」


 ティーレの言葉にガムンは頭を抱える。








 ここは大陸の中心にあるパーラサス国、その王都ノイエンティス。

その王都にある巨大な邸宅の一室で数人の男女が集まっていた。



 「ギュイも大陸中飛び回って大変ねぇ。同情はしないけど」


 「同情はいいから休みをくれ」


 扇情的なドレスを身に纏った女性がギュイをからかう。

その言葉に机に突っ伏したまま答えるギュイ。

声には疲労がありありと滲んでいた。


 「今休んでる。幸せね」


 ルルカがギュイに労りの言葉をかける。無表情で。


 「これは休みじゃなくて休憩っていうんだよ。

 さっきまでマダに飛んでたじゃねぇか」


 ギュイは労わる気持ちゼロのルルカの言葉に頭を振る。


 「まぁまぁ。けど最近は魔人の力が一瞬出ては消えることが多いわね。

 隠れるのが上手くなってきたのかしら」


 「仕方ない。この数年で何体もの魔人を倒してきた。数はそんなにいないから」

 

 ルルカの言葉通り、魔人は数が少ない。

その上魔人の中でも高位の力を持つルルカが

魔人の力を察知しては大陸中を飛び回り

(飛び回るのに尽力しているのはギュイだが)

魔人を滅ぼしてきた。いかに力に溺れた魔人とはいえ、流石に学習する。

ルルカに対して恨みを蓄積させながら。


 「そうねぇ。まぁ平和なのはいいことではあるけど……

 水面下で動かれてるかもしれないと思うと

 安心もできないわねぇ」


 「問題ない」


 「ふふっ、心強いわ。ギュイ、しっかりとルルカちゃんを労わるのよ」


 「いや、労わられたいのは俺なんだが。姉貴にいっても無駄だろうけど」


 「あ・ね・き、じゃなくてお姉さまでしょう」


 「うへぇ、誰が言うかよ」


 ギュイとドレスの女性が睨みあう。

それを涼しい顔をして見るルルカ。いつもの光景だった。


 「ふぅ、まぁ頑張ってるのは認めてあげるわ。

 だからギュイには休暇を差し上げましょう」


 胡散臭げな顔をするギュイ。


 「こんどメレテクトで武技大会があるでしょう。

 ルルカちゃんと一緒に楽しんできなさい」


 メレテクトの武技大会はもちろんギュイも知っていた。

なかなかの実力者が集まることで、それを見に来る観光客も多い。

その為、半ば祭りのようなイベントだ。


 「へぇ、姉貴のわりに気が利いてるな。

 フリーの実力者でも見かけたら俺たちの組織に勧誘してくるとしよう」


 「えぇ、お願いするわ。

 ついでにギュイは参加者としても登録しておいたから頑張ってきなさい」


 その言葉を聞いてギュイの動きが止まる。


 「それぜんぜん休暇じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――」



 ルルカはそんなギュイを見て思う。いつもの光景だと。









 メレテクトの辺境に拠点を構える盗賊団「オンドリー」


 「おい、荷物は全部馬車に積み込んだんだろうな」


 「へい親分。急いで積み終えましたぜ」


 部下の言葉にオンドリーの頭領オオモズは頷く。


 「よし、じゃあしばらくはメレテクト近辺に潜んで奴らの出方を窺うぞ。

 おそらく奴らはメレテクトへ行く。下手したらメレテクトは壊滅だ」


 「逃げねぇんですかい?」


 「馬鹿野郎! メレテクトが壊滅した後に火事場泥棒し放題だろうが。

 やつら魔物は人を喰らいはするが、金目のもんに興味がねえからな」


 「そりゃそうですが……。そういやメレテクトは武技大会の時期ですぜ。

 ひょっとしたら魔物達が逆に倒されるんじゃ……」


 「馬鹿野郎! 超獣、凶獣クラスが数十体いるんだぞ。

 武技大会に出る奴が総出でかかっても勝ち目はねえよ。

 それこそクワドラプルでも連れてこねぇ限りは……

 いやクワドラプルだろうが無理だろうな」


 オオモズは部下の報告にあった魔物を思い返してみる。

複数の種類の魔物が群れを作るなど聞いたこともない。だが部下の報告によると

ヒュドラ、ギガース、キマイラ、べリアルハウンド、デモンズスコルピオなど

一体でも危険な魔物が山のように群れていると聞く。想像するだけで寒気がする。

ただひとつだけ確かなこと。


 (これでメレテクトは終わりだ)


 オオモズはいかに魔物をやり過ごして、

瓦礫の街となるであろうメレテクトから

お宝を調達するかを考えて舌なめずりをした。

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